第七十一話
一瞬、嫌な胸騒ぎを覚えて、彼女のいる方を向いていると。
「どこ向いとんよ!?」
自分の腕から首にかけて、サイトの放つ鞭が巻きついて来る。
法衣越しに鞭独特の圧力を味わって踏ん張っていると、サイトの付加能力『反動』を利用してこっちに飛び掛ってきた。
「うりゃあ!!」
撓った分だけ強い反動を得てのとび蹴り、
「甘いですね」
それは経験済みだった。
着弾点を予想して、法衣を通して闇の渦を念じ。
「んな?」
その渦は見事にサイトの身体に絡まっていく。
「サイト、うおっ!!」
慌てて助けに掛かるイワトに放り投げて、ようやく鞭の束縛から逃れると、影を感じたので上を向く、するとほとんど真上からセルフィがハルバートを振り下ろして来た。
「くっ」
森の中を転がる羽目になり、木にぶつかる事で何とか止まると目を細める。
「やああ!!」
幼いその掛け声に次の攻撃が来ると思ったからだ。
まず、最初にその衝撃波は横にそれて木にぶち当たる。
味わった事がある、ダメージと共に土ぼこりと葉っぱを舞い上がらせて、視界を塞いで行った。
「ロウファ、もう…」
視界が晴れるまでの少しの間、なおも放ち続けるロウファをイワトが止めに入った。
「や、やった?」
「いや、アイツのしぶとさをなめたらあかん」
「……っ」
着地したセルフィが息を飲んだロウファを見て、振り向きながら答えた。
「アンタって、ホント、しぶといよね」
「そう言わないでくださいよ。
これでも結構、今の貴女方に手こずっているのですよ」
「ふん、四人を相手にして平然としていられる。
アンタに言われてもうれしくはないわ」
「前に出てがりのロウファ君が、徹底的に後方支援しかしないようにしてますからね。
そこに訓練されたあなた方、三人の連携攻撃、そして一番、有効な手段な立ち位置での攻撃は、今まで私に防御しかさせてませんよ。
…ですが、ここまでの様ですね?」
だが、ロウファはぐらりと膝をついた。
「お、おい、しっかりせい」
イワトがロウファの身体を揺するが、彼が汗だくになっていた事に慌てていたので、サイトは自分を睨みながら聞いてきた。
「お前、何したんや?」
「簡単な話です。
魔力が切れたのですよ…」
それが答えのように、ロウファの持った十手が一瞬歪んだ。
セルフィはロウファを守るように前に出て自分に言った。
「ふん、急な戦略の変化に身体が付いていかなくなったのよ
アンタ、やっぱり見落としてなかったようね」
「習い事で戦う事に慣れてしまった人が、良くやりますからね。
これでもこのご時世を生き抜いて戦術というヤツですよ」
「嫌な人…」
嫌味にしか聞こえてないだろうが、セルフィの背後にいたロウファは息を切らせながら答えた。
「…まだ、やれます」
「何を言っとるんや、もう、やめいって!?」
立ち上がろうとするロウファを、サイトは手で制していたが、ロウファはそれを払う。
しかし、よほど消耗が激しいのか、とうとう倒れこむ。
「ボクは取り返しの付かない事をしたんだ…。
こんな大した苦しみ…」
「何言ってんねん。
もう下がれって…っ!!」
構わずロウファは身構える。
だが、誰の目で見ても素人目でも戦えない事がわかった。
「私にこうも手玉に取られるだけでなく、ペインさんにはボコボコにされ…。
あげくの果てに、大切な友達を失って、肝心な貴方は死ぬ気ですか?」
「ちょい、お前!?」
感情任せにサイトは自分に歩み寄った、
「それが貴方のせいで死んだ人にしてやれる事ですか?」
「ボ、ボクは…」
ロウファは拳を握り締めて聞いていた。
「甘ったれないでくださいよ」
「アンタ…」
セルフィはじっと見つめていた。
「この世には、自分の力ではどうにもならない。
理不尽な事は山ほどあるのですよ。
貴方は自分の失敗を理由にして、全員を巻き込む言い訳しているだけでしょう?」
ただ彼の東方術である『十手』は消えてないのだから…。
「取り返しの付かない事をした。
そんな常識を言っている暇があるなら、私くらい倒して見せなさい」
イワトとサイトは頷きあって、自分との間合いを詰めてきた。
しかし、セルフィは静かに聞いて来た。
「アンタ、何が目的なのよ?」
彼女だけは冷静だった。
だが、歪んだ声で答えた。
「私が答えると思いますか?」
「ふん、そういえばアンタの逸話には、こういうのがあったわね」
多分、彼女だけ気付いたのだろう。
「漆黒の魔導士は子供には手を出さない…」
言っている途中、セルフィは合図を送った。




