第六十七話
今までずっと通信を聞いていた。
「おやおや、ようやくやって来ましたか…。
ええと、ロウファ君でしたっけ?」
こう言っている間にも。
『ロウファちゃん、聞いてるザマスか?』
通信越しに彼等の会話を聞いていたのは、母親のミチコ、いや、ロウファの動向を探るためだった。
だが会話が無かったのためか、今までこの親子の会話は探し出す事が出来なかった。
ロウファが目の前に現れてから、誰かが状況を伝えたのだろうか、不思議なモノでようやく聞き取れていた。
『ああ、よかった、そこにいたのザマスね。
さあ、貴方が魔法使いを倒すのよ。
レフィーユが倒せなかった、魔法使いを貴方が倒すザマス。
貴方の将来のために…』
相変わらず状況もわかってない指示を出す。
「ずっと…」
地球防衛軍の服装のロウファは、じっと自分を見ていた。
「ずっと考えていたんだ…」
『そう、さすがロウファちゃんザマス。
貴方はこの展開を望んでいたのね』
ミチコは喜んでいた、だが、ロウファの表情は対照的だった。
「ミクモがいなくなって…」
苦しい思いをしながら言う彼に、迫力が伝わってきた。
「そう言えば、私に一撃をくれた、貴方の連れを見ませんね?」
ワザとらしく空気の読まないような事を聞く、普段の彼なら弁解するように誤魔化すだろう。
「ミクモは死んだんだ…」
そんな探りの中、拳を握り締めながらロウファの答えに息が詰まる。
「…のせいで…。
ボクのせいで死んだんだ」
初等部の面々も黙り込む。
重々しい重圧が辺りを包むんでいく中、こんな通信を拾う。
『違うわ、貴方の所為じゃないの。
あれは…、っ…、……』
ミチコの丁寧な説得。
それはまるで子供に言い聞かすような光景を思わせる。
ロウファにはこの通信の際、ヘルメットを被り直す癖があるので、その癖は治ってないため、この通信は届いているのがわかった。
自分でも初めてこの通信を聞くが、今までこう励ましてきたのだろう。
「わからないんだ」
だがロウファは俯いたまま言う。
「ボクは評価を気にしてばっかりで、レフィーユさんのアドバイスも、色んな人の言葉も無視して取り返しのつかない事をしたのに。
そんなボクを、お前や、ペインに殺されそうになった時。
いつもミクモはボクを助けてくれたのに、どうしてミクモはボクみたいなヤツを助けたんだって…。
ずっと考えてた…。
そしたら、自分のやりたい事が、全部わからなくなったんだ」
通信はなおも、うるさいくらいロウファを励ます、だが、もう彼の耳には届いてない。
「ミクモがずっと走り込みをしてたのを知ってて、ボクもアイツの考えを知るため走ったりもしたんだ」
「それで何かわかりましたか?」
「…無理だった。
ボクはこんなにしゃしゃり出てて、アイツのために何をしてやれるのか考えても、わからないんだ…。
ボクはどうすればいいんですか?」
ロウファは拳を握り締めたまま俯いていた。
通信は優しく言う。
『戦え』と…。
もうロウファは戦えない事くらい、誰でもわかっていた。
「じゃあ、どうしてここに来たのです?」
「ここの治安部の人に…。
自分がしたい事をしろって言われたから…」
「自分のしたい事がわからないのにですか?」
ロウファは呟く。
「わからないよ…」
でもロウファは一生懸命に考えていた。
「でも、辛いけど、苦しいけど、
こんな『痛み』を味わっただけで、他の人を見殺しにしたら、ミクモに顔向け出来ないんだ!!」
自分を真っ直ぐ見つめて叫び、十手を振りかざす。
その時、二人の影が見えた。
「よう言うた」
隠れる様子を見せるまでも無く、その人影はサイトとイワトだった。
「勘違いすんなや、俺らは、治安部ちゅうモンが何なのか見せんとならんからな」
サイトは鞭を構えてロウファを一瞥して言った。
「痺れたで、ちょっと兄さんも手伝わせてや」
「まあ、ワシも手伝わせろや」
イワトはガハハと笑っていたが、少し様子が違っていた。
「ロウファ、お前の仲間、守れよ」
ロウファを止めようとせず、イワトは戦斧を構えた。
『断りなさい、ロウファちゃん!!』
ただ一人、それを断る声があった。
しかし…。
「わあああ!!」
ロウファは叫びにミチコの声は怯んだ。
防護服を脱ぎ捨て、ヘルメットを地面に叩き付けて、踏み付けて元気良く答えるロウファがそこにはいた。
「はい!!」