第六十六話
二階から飛び出て、裏にある森の中に身を潜めていると、そのドアを破る音はここまで聞こえてきた。
正確には跳ね返ってくる喚声、空気の流れがわかったからそう感じたのだろう。
その様子には追ってきた何人かの治安部員も諦め、持ち場に戻って行くのを見て、自分は少し休憩がてらに通信機を耳に当てていた。
『検問が布かれているのなら、少し離れた場所に裏道に続く道はまだだから、そこを通りなさい…』
『でも、お母さん、ボク、森の中だと迷うよ?』
ロウファとは、別の幼い声を拾う。
こちらとしても、このまま帰ってほしいと思っていた…。
しかし、マイクまで直せなかったので、割り込めずに事の次第を見守る事しか出来なかった。
そうなると自然と足が向かってしまう。
『貴方の居場所は常にわかるようになっているから大丈夫。
まだ夕方なんだし、私が案内するから、貴方は自分が活躍する事だけを考えれば良いの…』
そんな会話が少し駆け足にさせる。
彼らは責めれない。
『頑張ってね、これが最後のチャンスかも知れないのだから』
そうこれは最後のチャンス…。
そう言われて追い詰められれば、人は逃げる手段を失うように出来ている。
特に相手は子供なのだ。
通信の内容は道を案内するような内容に変わる。
頭の中にある地図を頼りに裏口に通じる道を歩いていたが、躊躇しながらも前に進んでいた重苦しい装備をしていた子供達を見つけるのはそんなに時間が掛からなかった。
『良いこと、いまここで、彼方の習っている全てをここで見せるの、それが彼方のためになるの…』
目の前に立ちふさがった時、この様子を知らないこの通信は、のん気さすら感じさせていた。
「魔法使い…」
しばらく、黙っていると誰かが自分が来たと通信ごしに聞こえてきたので、一応こう言う。
「私は子供には手を出さない主義でして、大人しく帰っていただけありがたいのですがね」
ワザとらしく相手にしない事を伝える。
はっきり言って、言っても無駄な感じはしていた。
『ほら、チャンスがやって来たわ』
耳に当てた通信機が、そう励ますのだから、子供達は慌てながらも武器を構えるが、子供達は一向にかかって来ない。
「もしかして、勝てると思っているのですか…?」
自分も身構えもする。
しかし、ここで自分が彼等の足止めをしないと、別の被害が出てしまうのが目に見えていたとはいえ、子供の相手というのは気が引けていた。
おかげで先ほどの一言で、明らかに怯んでいる子供達に対してにらみ合う形が続いていたが、通信は無常にも。
『良い、アレは子供には手を出さないと聞いたことがあるの。
きっと子供が苦手なのよ。
そこを付いて戦えば勝てる相手わ』
誰しもがこんな通信が入れば『違うだろう』と言いたくなるが、子供達はそんな励ましを真に受けたのか、距離を詰めてきた。
「どうもあなた方は私が子供を相手にしないというのを勘違いしていませんか?」
怖がらせるために初等部の前で思いきり法衣を拡げもする。
「言っておきますが、どんな犯罪者でも、邪魔になれば排除に掛かるモノです。
私は子供を相手にしません。
ですが、私の行く道を遮るというのなら…」
自分では感じた事はないが、この闇の法衣を広げるだけで人は凄く恐怖を感じるらしい。
それ故にも間違えられる事もありもしたが…。
心境はさらに曇る。
「逃げる事は恥ずかしい事じゃありませんがね?」
子供達は退路を振り向く、しかし、
『勇気を出すの』
両親の励ましが、そうはさせない。
半分、自分の狙い通りだったが、想像以上に動けないでいる子供は見てられなかった。
「戦っているのは、貴方達なんですよ…」
呟いても、子供達は動こうとしなかった。
しかし、その瞬間だった。
「うわあああ!!」
そう呟いた瞬間、衝撃波が自分を襲いかかってきた。
「これは…」
法衣で守りを固めると、まるでソフトボールが厚手のマットごしに身体に当たる様な感覚程度のダメージだったが、視界を塞がれてしまう。
不思議と誰が来たのかわかった気がした。
ゆっくりと守りと硬直を解く、するとそこにはロウファが立っていた。