第六十五話
ペインだけが、この様子を見ていた。
「随分と仲が良いな?」
ファミリー達は私に構う事無く、外部の侵入を阻止しようと、ほとんどがドアや進入経路を塞ぎに掛かっていた。
私の周りには数えるほどしかいない。
どうやら私を人質に取るより、外部からの進入を避ける方を取ったのだろう。
「いい連携だ。
パートナー、いや、違うな。
まるで恋人同士…?」
気に障るように言ったのだろうか、こう答える。
「ふっ、お褒めに預かり光栄だな」
「しかし敵同士だな。随分と酷い事をしてくれる」
「どういう事だ?」
「魔法使いとアンタは状況によっては共闘する仲だってのはわかる。
だが周りの治安部、つまりアンタの部下どもはどうなんだろうな。
アイツ自身、信用が無い事を感じているから、この状況下において、早めの撤退した。
だがな、こんな状況で出て行ってみろ。
アイツは俺たちの仲間だと思われても仕方ねえと思わねえのか?」
ペインは今にも破られそうなドアに注意を払いつつ私を見ていた。
「つまりアンタは善意で共闘したヤツを、見捨てたという事じゃないのか?」
その通りだった。
私は自分のあり方として一人でも戦うつもりだった。
「ふっ、解ってるさ…。
あの男がやって来たのは、計算外だったよ。
ここで戦うべきではなかった」
ペインの言い分は正論である。
その時、私は通信が入っている事に気付くが、雑音しか拾っていないので、応答も出来なかったので、ようやく自分の通信機が壊れていた事に気がついた。
せめてあの男が善意で戦っている事を、実況すれば、まだ救済の余地はあると考えた上でスイッチを入れっぱなしにしていたが…。
多分、今回も無理なのだろう。
どのタイミングで壊れたのやら、こうなるとこんな予感がしてならなかった。
「ペイン、物事というのは、うまくはいかないモノだな」
「何か、いい考えでもあったのかよ?」
「あった、このまま介入まで待てば、私が『この男は仲間だ』と叫べば、それですむ」
「何を言うかと思えば、そんなにうまくいくか、昨日までの敵が味方になるという事はあるかもしれないが、お前達とアイツの付き合いは長い。
そんなヤツを味方になれば、統制なんか取れるハズないだろ。
アンタの立場だって、危うくなるだろ?」
「私の立場など、どうでも良い。
だが…」
つい胸が切なくなってしまう。
それは彼がしようとする事を知っているからだろう。
今回、あの男は私達にとって敵なのだ。
「止められるのならば、身を挺してでも止めたかったよ」
この騒ぎでおそらくロウファの母親であるミチコ、いや、母親達は指示を出すのが目に見えていた。
ここに活躍の場があるのだから…。
一人の人間が死んでいるというのに…。
だが、あの母親達はここまでするだろうと、ロウファが私との面会の時、メールを見せた際に感じていた。
そして、その異常さをずっと眺めていた彼は、初等部の動きを止めるため何をするのか?
『私は悪者ですからね…』
彼はそういつもの調子で言っていた。
だが、そんな理由で、子供の目の前に立ちはだかるには軽すぎていた。
「なら、どうして止めようとしなかった?」
この時、私はどんな顔をしていたのだろう。
ペインのその言葉は不思議と優しげに聞こえていた。
「ボス!!」
しかしファミリーの一人が叫ぶ、とうとうドアが破られたのだった。