第六十二話
「レフィーユさん、おった?
…駄目やったか」
サイトは学園内にて合流したイワト、ガトウが首を振り、その他がそれについて来たのを見て、通信を入れていた。
「もしもし、セルフィ。
駄目や、ここにはおらんよ」
漆黒の魔道士と共に消えたレフィーユを探して、夜が明けて、もう昼を過ぎていた。
さすがに全員に疲れが見えて来たので、何人かを休ませようとした時、学園に戻ってないか連絡を入れると、見かけたという連絡が入っていた。
さすがに疲労度と効率を考えて、男三人で探す事となったが、そこにはおらず…。
「で、アラバはんの部屋なんやけど、何の応答もないんや…」
連絡の通り謹慎中のアラバの部屋をノックしていたが、まるで誰もいないかのように静まり返っていた。
しかし、今、集中すべき事はレフィーユが行方不明になっている事が先行していたので、こうなると自然とある考えが浮かんできた。
「もしかして魔法使いの言う通りに、ペインのトコに行ったんかのう?」
「おい、ゲンゾウ、あまり物騒な事を言うな。
アイツの危険性はあの人が、よく知ってるはずだ。
それに…」
ガトウは最後まで口には出さなかったが、残る二人には何となくわかった。
今の状態でペインに立ち向かう事は、私闘なのだから…。
治安部のリーダーが、私闘を行うのはどういう事になるのか簡単な話だった。
リーダーの権限を剥奪されてしまうのだ。
「あの魔法使いも性質が悪い事をしてくれるモンだ。
きっとそんな事を知ってるから、魔法使いはあんな情報を持ってきたんだろう…」
ガトウは大柄な身体で、周囲を見回すが当然、廊下は静まり返っていた。
しかし、何の拍子で…。
「おいおい、どんなテロだ。こりゃあ?」
アラバの部屋の近くにある特徴を見ながら、そんな事を言うので、他の二人も視線を追うように見るとイワトが気がついた。
「こりゃ、いかんのう。
危うく、ワシらの鼓膜がお陀仏じゃったわ」
豪快に笑いながらスピーカーの音量を直して、言うが大真面目だったりする。
緊急時など、音量を大きくする必要があるこの時代に、スピーカーは治安部生徒の手で自由に音量を設定する事が出来ている。
しかし、このスピーカーは加減を知らなかった…。
想像通り、大音響なのだ。
耳元で突然、『わっ』と大声で叫ばれた時の身震いとは違う。
みんなはヘッドフォンを音量最大で相手に片耳つけた事があるだろうか、音量最大された時、人の首は曲がるのだ。
大型のスピーカーで突然、発生した時、人の身体はどうなるのか…。
もう言わなくても想像はできるだろう。
だから簡単な一つのダイアルロック式の錠前でロックされており、その番号は『治安部』しか知らないのだが…。
「おい、まさか、他のもあるんちゃうか?」
サイトは自分自身にある嫌な予感を言葉にした。
「おいおい…」
思わず三人は、二つ目のスピーカーの前に立った時、誰がやったのか何となく犯人がわかった。
「とりあえず、急げ…」
三人は手分けをして、音量を調節しに掛かる。
一つ、二つ、三つ、最後の一つになる時、彼らは気がついた。
『やばい、これはフラグだ』
運が悪いのか良いのか、よりによって最後の一つになった時に気がついていた。
「いや~、ガトウはん、すんませんな」
伸ばした手を頭を掻く手に変えて、サイトはガトウに譲っていた。
「おいおい、今、最短距離にいたヤツが、手を引っ込めるなよ」
そう言って、ガトウはアゴにある剃り残した髭を確かめるように…。
「お前、何、後ずさりしとんじゃ?」
イワトが睨み付けていた。
「冗談やめいや、俺を最短にする気じゃろうが?」
「おい、こんな作業に戸惑っちゃあかんやろ」
「だったら、最短のお前がやれよ!?」
「俺、最短やないもん」
「子供か、お前は!?」
「だったら、お前がやれや!?」
「冗談じゃねえ、絶対、爆発パターンじゃねえか!!」
それは、とても醜い争いだったと言う…。
「わかった、ここは公平に…じゃんけんをしよう」
よせば良いのに…。
「じゃんけん…」
『パー』『パー』『グー』とイワト、ガトウが勝ち残り…。
「よっしゃー!!」
空を見上げるサイトを見ながら、二人は手を挙げてガッツポーズをした。
その瞬間だった。
……。
その日の白鳳学園は、大音響だったという。