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第六十話

 夢を見ていた…。


 自分の見ている風景にこんな結論を出せるのは、この風景は自分が見た事のある夢だからだろう。


 「はあ、うるせえな…」


 この夢には空調の音がいつもしている。


 本来、この程度に苛立つ事はない。


 しかし、当初の言葉通りになるのは、この夢が嫌な夢だからだ。


 「わかった、行けばいいんだろ?」


 ホントは行きたくない。


 だが、これは夢。


 自分でも、どうしてこんな事を言って、歩き出すのかは『夢』だからだ。


 もう詳しさを失っているが、この道は確かに彼が通っていた学園の通学路。


 そこに『いつもどおり』うつ伏せに倒れた人を見つける。


 「知るか…」


 平然として、そのまま通りすぎる。


 これは夢なのだ。


 思いとは裏腹に、勝手に身体が動く。


 仕方がない。


 いや、言い訳だろう。


 この方が良いと、彼は知っていた…。


 道はずっと続いている。


 ふと、気を緩めると同じ光景に戻る。そんな通学路を眺めるとさすがにため息をペインは吐いた。


 そろそろ目が覚めるというのに…。


 いつも見てる分、終わりを知っている。


 自分の身体を360度、夢独特の確認が出来るほど自覚を持った時、そろそろ目が覚める。


 だが、これは『悪夢』なのだ。


 先ほどより、鮮明になっていく空調の音に…。


 ペインは苛立っていた。


 「貴方はやれば出来る子なのよ」


 「よくやったわ、ご近所も褒めてて、うれしいわ」


 「大丈夫よ、貴方は正しいことをしたの…」


 聞きなれた、自分の〇〇の声がする。


 気がつくと、先ほどより死体の山は増えていた。


 そんなつもりはないが、自分の歩いていた道は死体を踏みつけて足が止まる。


 何度も見てきた光景だったが、さすがにペインは足がすくんでいた。


 だが、状況とは裏腹に『空調』は鮮明に自分をおだて続けている。


 「うる〇い…」


 『100人以上を殺めた』なんて自分のあだ名が災いしているのだろうかと思いもする瞬間だった、周囲は死体の山の中でペインは叫ばずにいられなかった。


 「う〇さい…」


 声が途中で途切れる。


 もう少しで目が覚めるとわかる症状だった。


 だが、周囲の環境に彼は叫ばずにいられなかった。


 「知らなかったん〇〇!!」


 顔が子供になりながら、このおだてに反発する。


 「『痛み』で、人が死ぬなんて、知らなかったんだよ!!」 


 空調は止まった。


 まるで戸惑いを見せるかのように…。


 だが、次の瞬間、ペインの片足を掴む手があった。


 その顔を反射的に見てしまう。


 今まで倒してきた人間の顔が、自分の頭に流れ込んで来て、ペインは絶句する。


 そうして、死体全員が視線をこちらに向けて一斉にこう言った。


 「…どうして、そんな事も知らなかったの?」


 「……!!」


 そして、そのまま目が覚めた。


 頬の辺りに水分を感じたのでそれを拭う、自分の汗だった。


 目覚めは最悪なのは言うまでもないが、悪夢から抜け出した分、ペインは安堵していた。


 あの悪夢は、自分が原因でもある。


 自分の付加能力を初めて人に使った時、確実に人は倒れた。


 自分は選ばれた人間だと思って、調子に乗っていた日々があの悪夢を見せているのだ。


 だが、納得のいかない悪夢でもあったので、先ほど途切れた『空調』に疑問をもう一度呼びかけていた。


 「母さん、どうしてだよ…」


 ペインは廃棄された施設から、窓を眺めた。


 普段と変わりない風景が広がっていた。


 ただ、通行人や車らしき音が全くしなかった。


 おそらく深夜だとこんな光景が広がっているのだろうと思えるほど、昼下がりの町は静かだった。


 レフィーユが情報閉鎖を行ったせいだろう。


 テレビを付けて、報道機関が全くこの事態を取り上げてないのだから、それがわかった。


 「大変だ、ボス!!」


 「なんだ、騒々しい!!」


 「レ、レフィーユが!!」 


 慌てているのか言葉をうまく話せない部下をどかせて、部屋から出ると、そこからは見慣れた人物が立っていた。


 「驚いた、良くここがわかったな?」


 「ふっ、パトロール途中で怪しい人物を見かけたモノでな。


 何か起こる事を警戒して、尾行してみたら、ここに辿り着くとは思いもしなかった」


 「随分と古風な手で調べられるモンだな」


 「生憎と調べるという行為を、剥奪されたモノでな。


 残されたのは私が戦闘の際に、ファミリー達を見た顔の記憶力だけだった」


 そう言って、該当する一人のファミリーをじっと見ていた。


 自然と視線がそらしてしまうので、ペインのこの呆れはレフィーユなのか、このファミリーなのかわからなくなってしまいそうになる。


 「でも、さすがにこの人数、どうにもならんだろ。


 正義のためか、名誉のためか、レフィーユ、コレは私闘だ。


 治安部のルールくらい知っているだろ?」


 「ふっ、治安部の捜査には執念が宿る。


 この執念深さが仇となって、遺恨を残さないための大事なルールだ。


 確かにコレは私闘だ。


 そして、無謀だ。


 ではペイン、お前に一つ聞いてみたい事があるのだがいいか?」



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