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第五十六話

 「思えばアイツは、あの時も猫を探していたな」


 ガラガラガラ…。


 ラックが音が、なおも響くガトウは、窓から外を眺めていた。


 そこにはある程度、勘の良いマスコミが張り込みをしていたのにガトウはため息を付いてカーテンを閉めているとセルフィが答えた。


 「あのヨウって人の猫?」


 「いや、それとは違う別の猫だ。


 だがあの時、オレが最も浮かれていた時期でもあった。


 試験とは言え、あのレフィーユ・アルマフィに勝った事でな。


 そんな時、イワトとのパトロール中に、アイツは猫を探してくれとやって来たのさ」


 「協力したの?」


 「いや断った、そもそも治安部の仕事じゃないからな」


 「ふん、酷いわね…」


 「何とでも言え、町中に逃げた猫なんぞ、見つけられるワケが無い。


 だが、オレにとってきっかけにはなった」


 「きっかけ?」


 「当時はそこまで仲の良い訳じゃない、ゲンゾウの友達程度だ。


 ゲンゾウに『アイツは凄いヤツじゃ』何ぞ言われても、疑問が浮かぶ。


 だから断ったんだが、その後にオレはアイツを繁華街で見かけた時、オレとヤツの決定的な差がそこにはあったよ」


 そう言って、ガトウは地図を眺めてセルフィに聞いて来た。


 「なあ、アンタは管轄内の町で、人に声を掛けられる事があるか?」 


 「ふん、それは治安部だからあるわよ。それがどうがしたの?」


 「そう、治安部だからな。


 パトロールなどしていれば、当然、オレにも誰にもある事だ。


 だが、アイツは治安部じゃないのに、声を掛けられるんだ。


 一人、二人なら解るが、多くの大人がアイツに声を掛けるんだ。


 それも治安部(オレ)を通り過ぎてな…」


 「わけがわかりません、声を掛けられるくらいで、どこが凄いんですか?」


 「だったら、お前の姉さんが隣にいたら、この町の大人はどっちに先に声を掛けると思う?」


 ガトウの質問に、ヒオトは『決まった答え』を出した。


 しかし、セルフィは黙っていた。


 答えがなんとなく見えていたのだろう。


 彼女の脳裏には、自分達が初等部とパトロールをしていた事を思い出す事となっていた。 


 同時にそれはヒオトの答えを覆していた。


 「確かに、これは些細な事なのかも知れない。


 当時の俺がそうだったからな。


 だが日々を送ればな、アイツには色んな人が声を掛けて行き、俺には誰もいないのが現実だった。


 テストより、結果が出ていたからな。


 おそらく、ただ悪者を倒すだけが、治安部の仕事じゃない。


 アイツのように地域に溶け込めば、犯罪なんて起きない事をレフィーユさんも、初等部に見せたかったのだろうな。


 今までどんな事があったかは知らん、だがシュウジ・アラバという男は、そんなヤツだ。


 そんなヤツだから、ロウファの事は任せて良いと思う…」


 サイトもそれに賛成なのか、何も言わず軽く笑っていた。


 「ふん、信頼されてるわね。


 でも、彼を自由にさせて良い理由なるけど、それだけでロウファを任せる理由になるには少し弱いわよ」


 「でも、俺らには、そんな権限すらないと思うで。


 ミクモが死んだ時、ここにいる誰が、現実を受け止められてなかったロウファに教えた思うねん?


 アイツだけだったやろ…。


 ホントは治安部(おれら)がやる仕事を、アイツにさせたんや。


 どちらにせよ、もう俺らは口を挟めんやろ?」


 サイトはそう締めくくると誰しもが黙り、自然に静かになった。


 それはまるで今の学園の状況を表しているかのように…。


 そんな中を…。


 ゴロゴロゴロゴロ…。


 ラックを運ぶ音が別寮を出ようと充実していた。


 押していたのはアラバだったのをセルフィが見つけたのは、一時間後の事だった。


 「おや、セルフィさん」


 「何しているのよ?」


 「ロウファ君に、食事を届けようと思いましてね」


 「ふん、食事なんてとれる状況でもないと思うわよ?」


 「確かにノックする前に、ドア越しにモノを投げ付けられましたが、『これは罰です』と言えば、食事くらいはとりますよ」


 そう言って、アラバは食べ残しのある食器をセルフィに見せて、ラックを押し込もうとする。


 「さて、食器も洗わないと…」


 しかし、少しラックが重かった。


 ゴロゴロゴロゴロ…。


 セルフィはその異変に気付いたのか…。


 「ねえ…」


 呼び止められてしまった。


 「さっき、ロウファの部屋に行ったんだけど、何処にもいないのよ。


 アンタ、どこに行ったのか知ってる?」


 「ああ、確か気分転換にと…」


 「ふん、ロウファって子がそこまで強いとは思えないけど…」


 気まずい空気が二人の間に流れた。


 「アンタさ、追い込まれた人間が簡単に出歩けるワケがないでしょう。


 それにさっき随分と聞き慣れた音が、違和感たてているの気付いてる?」


 そう言って、布を覆ったラックをセルフィはマジマジとみていた。


 「嫌に着飾ったラックね。


 まるでホテルみたい…」


 そう言って、セルフィは布で覆われたラックをめくり上げる。


 「もしかしてアンタって、褒められるの苦手なタイプ?」


 「良く言われます…」


 セルフィが呆れる理由がそこにはあった。


 「どうするの…コレ…?」


 「セルフィさん、協力してくれませんか?」


 セルフィは覆われた布を元に戻し、自分を見ながら、腕を組んで聞いて来た。


 「ふん、何をすればいいのよ?」


 しかし、その顔から断らないというのが不思議とわかった。


 「…覚悟は出来ているの?」


 そして、彼女がそう自分に何度か聞いてきた時、二人はレフィーユのいる警察署の前に立っていた。


 何人の警察官が、自分たちに注目していた中で受付をする。


 「セルフィッシュ・アルマフィです。


 姉のレフィーユ・アルマフィに衣類を届けにやってきました」


 二人の傍らには旅行用の大きめのトランクがゆっくりと倒れた。


 「…ああ、すいません」


 気まずい雰囲気の中、そのトランクを立たせようとするが…。


 「うおっ!?」


 このトランクはひとりでに立ち上がるのだから、受付の警察官は目を丸くしていた。


 「気…気のせいですよ…」


 セルフィの視線が痛いほど感じるのも無理もない。


 「気をつけなさいよ、ここで中身がバレたら、別件で逮捕よ?」


 「わかってますよ…」


 「ふん、ホント、アンタって、無茶するわね」


 警察署内の廊下を歩く中でも悪態を付くが、やはり心配だったらしい。


 「…大丈夫なの?」


 「後はレフィーユさん次第ですよ」


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