第五十五話
「ふん、静かなモノね。
無理もないけど…」
セルフィの言うとおり、白鳳学園の廊下は静まり帰っていた。
部室内にて『本日、休校』という校門の看板を監視カメラが捉えていた通り、平日休校となった学園内には治安部員しかいない。
つまり生徒は自宅や寮に待機、先生は今の状況を両親、保護者達に説明をしている状況だった。
ガラガラガラガラ…。
だからこそだろう、どこかの部員が何かしらを運んでいる、このラックの音が、一際大きく聞こえていた。
「すまんな、他の学園のあんたらが、見回りもしてくれて…」
「ふん、検問を敷いて、ペインをこの町から逃がさないようにしたのは姉さんでしょう。
それなら姉さんは私達も頭数の中に入れてるのよ。
気にする必要なんてないわ」
いつもの調子で言うが、セルフィには明るさはない。
ここにはセルフィ、ヒオト、ガトウ、サイトの四人がいたが、ここにはいつもの人物がいない。
「ふん、まさか、こんな事態だと言うのに、姉さんを警察が拘束するとは思わなかったわ。
警察もどうかしてるわ」
そう言って、目をやるのは彼女の姉専用の机、そこにはレフィーユの姿は無く。
あの病院の一件の後、すぐに警察がやって来て同行する事になった事を自然と思い出していた。
「警察のモノですが、少し話を伺わせてもらえないでしょうか?」
当初は状況確認のためにただ話を伺うと、姉は警察に同行した。
だが、翌朝、今から二時間前の事、正式に事情聴取していると連絡が入り。
おそらく自分の姉が情報閉鎖を行った事も明かしてたから拘束されたのだと、誰しもが思ったが、セルフィには理由が何となくわかっていた。
「いくら情報閉鎖したとはいえ、少し対応が早すぎると思うが…」
そのガトウの思った疑問にセルフィは答える。
「ふん、面子を守りたいだけよ」
「どういう事だ?」
「簡単な事よ。
今回の失敗に関しては、警察側が自分達の失態をマスコミ関係者にバレるのを恐れて、予定を早めた事にあるのよ。
だから姉さんを早めに抑えておいて、マスコミの注意を、貴方達の学園の先生達に向けさせて、その上で両親や保護者に今回の失態を説明させて見なさい。
『全部、学園側が悪い』という演出は成り立つわ」
セルフィのいう事にまわりは落胆の色が隠せなくなった。
そんな中をサイトは呟くように言う。
「…これからどうなるんやろな?」
「姉さんは、そこまで拘束はされないと思う。
でも、今回の一件は警察側に委ねられる事になるでしょうね」
「つまり俺らは、これ以上は関与を許されんって事なんか?」
「ふん、そうなるわね、どうしたの?」
「ロウファの事よ、アイツにチャンスはもうないんかな?」
「何を言ってるんですか貴方は、そんな事、許されるわけないじゃないですか!!」
ヒオトは感情的になって、サイトを見るが彼の調子は変わる事はなかった。
「言い方が悪かったかも知れんで、
だけど、今のアイツ、ヤバくなるの目に見えとるやん?
別寮の自分の部屋に閉じこもったままで、予想通り朝飯にも来んかったそうや。
確かにオレの言ってるのは、いけん事かも知れんけど、何とかすべきちょうんか?」
思いのほか冷静な意見が、さらに部室を暗くした。
『代表者から話を聞きたいですが?』
その警察がレフィーユを連行しようとした時の事である。
それは誰しもがロウファも手を挙げるのかと、思いもした瞬間でもある。
だが、彼はそれを聞いた途端、身震いをして動かなかった。
レフィーユはそれを見て悟ったのだろう。
静かに言ったのが特徴的だった。
『私が代表だ、私が事情を説明しよう』
ここにいる全員は、ロウファが震えているのを見ていたのだ。
それ故に彼には、あの後、ずっと何も言えずじまいだったが、ガトウは大柄な身体を椅子に預けながら言った。
「正直言って、オレはそこまで心配してない…」
「なんでよ、ガトウさんらしくない。
あれは自力で立ち直れへんで?」
「そうかも知れないが、な…」
ガトウはブラインドで閉じられていた窓を眺めていた。
ちょうどそこにはロウファのいる別寮がある位置でもあったのでセルフィは聞いてみた。
「…どうして、そう思えるのよ?」
「さっき別寮に向かう、アラバを見たからだ」
なるほどと、サイトは納得していたが、それに慌てたのはヒオトだった。
「ちょっと、待ってください。
今は寮生は基本的に食事以外は自室待機なんですよ!?
それなのに止めなかったのですか?」
「アイツも被害者だ。
さっきロウファの食事を届ける役を買って出たから、やらせたよ。
何かさせてないと、気が紛れんのだろう?」
「呆れました、それこそ今、ロウファと会わせるワケにはいかないでしょう!?」
「心配ない、あいつなら大丈夫だ」
「それ以前に規則でもあるんですよ。
こんな事が外部に漏れたら、隊長はさらに処分を受けるのを知ってますでしょう!?」
「わかってるって、だがな…」
すると今度はサイトが頷いて。
「まあ、アイツしかおらんやろ…」
男が二人係りでヒオトの怒りを静めているので、ヒオトは戸惑うしかなかった。
「大丈夫、大丈夫やて」
「ど、どうして、貴方達は…」
そんな光景を見たセルフィは腕を組んで聞いて来た。
「評価してるわね。
ねえ、どうして、貴方達はあの人をそう評価出来るの?」
「それは俺らにしか、わからん部分があるからな」
「聞きたいわね」
「聞くだけ損だ、大した事じゃない」
「ふん、私は貴方が白鳳学園、前のリーダーだから聞いているんだけど?」
それに驚いたのはヒオトだった。
「あ、貴方が!?
でも、その人って女の人じゃ?」
「ふん、ガトウ・レオナはれっきとした男よ。
姉さんの白鳳学園、転校に際して、リーダーの座をあっさり譲った。
地域のリーダーの間で行われる、治安部適正試験で姉を抜いて一位だった男…。
そんな男から見た、シュウジ・アラバという人をどう見ているのか知りたいじゃない?」
その時、ガトウには、セルフィがどうして学園内のパトロールを買って出たのか理解したのだろう。
ため息一つついて言った。
「やれやれ、テストの点数で人様を判別するのは良くないと思うがな…。
アイツには、オレは逆立ちしても敵わないだけだぞ?」
「ふん、みんな言うわね?」
そう言って、セルフィはサイトを見ると、彼は視線を泳がせた。
まるでそれは心当たりがある言わんばかりに…。