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第四十七話

 規定内の騒音を響かせながら、レフィーユはバイクで街中を疾走する。


 「ちぃ!!」


 しかし、その表情は険しい。


 それはレフィーユの指示が飛び交い、セルフィが状況を知らせる声が、現場の慌ただしさを物語る。


 だが、ここはそんな事を知らないように静かだった。


 ここは学園内にある留置場。


 しかし、今は留置場らしくない。


 というのも、牢屋の中には初等部の子達がいるからというのが理由なのではない。


 見張りがいないという時点で、留置場という概念は意味をなしてないからだ。


 『授業の一環』というレフィーユの言葉を素直に受け止めた初等部の子供達は、そんな事も知る由も無い。


 だが、さすがに時間も経てば、しばらくじっとしていた生徒も、落ち着きがなくなり牢屋から外の様子を見ようとしていた。


 「もしかして、閉じ込められたのかな?」


 誰かがそんな事を言うのを、影に隠れていた自分は聞いていた。


 その言葉に周囲はざわめき出していた。

 

 そろそろ隠し通すのも限界なのが見て取れていた。


 「何を言ってるんだ」


 そんな中をロウファは励ましている。


 「軟禁状態の心理状況というのを味わって欲しいと、レフィーユさんは言っていただろう。


 今、この状態がそうなんだ。


 ここで落ち着いてないと、評価が下がるぞ?」


 「だってさ、見回りの人も来ないよ?」


 「きっと僕たちが思っているほど、時間が経ってないんだよ」 


 「それでも今日はお母さんもいなかったし。


 何かあったんじゃないのかな?」


 「もし、お母さん達に事件が起きたら、まず僕たち連絡が来るはずだよ。


 そんな事は無いよ」


 ロウファは持ち前のリーダーシップを発揮して、周囲が落ち着くのが感じ取れたので、それだけ認められているのだろう。


 皮肉にも、この静寂が守られていたのは、彼のおかげだった。


 「それにもし情報を規制をしていたら、それこそ『情報閉鎖』って言って捕まるんだから」


 ロウファの言葉に、思わず目を細めてしまう。


 情報閉鎖。


 情報には伝えていい情報と伝えてはいけない情報がある。


 現場に混乱を招く情報だと判断した時、治安部のリーダーはそれに規制を掛ける事が出来るのだ。


 当然、世間を相手に情報を規制するのだから、そのリーダーは審議に掛けられる。


 レフィーユも例外ではない。


 だからこそ時間との戦いでもあるのだが…。


 その時は、まるで一斉にやって来た。


 静寂が、携帯のマナーモードの音を拾っていた。


 一度、二度、その震えに表情は『険しくなっていった』。


 最初は今は授業中だからと思ったのだろうか、誰も取ろうとしなかった。


 だが一区画の牢獄の中で、一斉に親から掛かって来たのだ。


 防ぎようがなかった。


 「あっ、母さん?」


 とうとう、この異常さに誰かが携帯に出た。


 全員が今、置かれている状況に気づいた時、牢屋を破られたのにはあっけなさすら感じた。


 そんな中、先頭に立って歩くロウファの道を塞いで聞いてみた。


 「どこに行こうと言うのですか?」


 「…貴方の方が知ってると思います。


 レフィーユさんの手助けです」


 「ここで大人しくしておいた方が、レフィーユさんの評価は上がると思うのですがね」


 「ボクたちは、将来、治安部になるために日々の訓練を積んでるんです。


 ボクたちが、今、活躍しなければ日々の訓練の意味が…」


 「貴方達は役に立たない、はっきり言わないとわかりませんか?」


 ロウファは感情を逆なでされたと思ったのだろうか、じっと見て言った。


 「それは侮辱です。


 貴方は知らないでしょうが、ボクは漆黒の魔道士とも戦えたんです。


 もう恐いモノはありません。


 貴方こそ、わかってるんですか、これは立派な情報閉鎖なんですよ?」


 「だからなんだと言うのですか?」


 あっさりと答えた自分が意外だったのか、ロウファはこう聞いて来た。


 「レフィーユさんが捕まっても構わないと言うのですか?」


 「でしたら聞かせてもらいますが貴方こそ、周りが見えてないのでは?」


 「どういう事ですか?」


 自分の視線がロウファの後ろにある事に気付いたのか、振り返る間に聞いてみた。


 「貴方達は、ロウファ君のように戦えるのですか?」


 明らかに静まり返ったので、戸惑ったのはロウファである。


 「み、みんな…?」


 「貴方は動けるかもしませんが、貴方達は戦えますか?


 ふたたび現場に立って、貴方達は、もう一度、あの恐怖と戦えますか?」


 「そんなモノは勇気を持てば、ボクのように戦えるようになります」


 ロウファは励ますように、後ろにいる仲間を見る。


 だが他の生徒達は、一切、ロウファを見ようとせず、ずっと黙ったままだった。


 無理もない、殺されるかも知れない現場に誰が行きたがるだろう。


 「…ロウファ君、勇気だけで命を掛ける事は出来ないのですよ」


 ミクモがずっと自分を見ている中、ロウファに静かに言う。


 「貴方はレフィーユさんを盾にしているだけです」


 「盾にしている事くらいわかってますよ。これでも気を使って聞いたくらいですからね。


 『そんな事も出来ないで、何がリーダーだ』と、もっとも笑われてしまいましたよ」


 ロウファは息を呑み、後が無いとばかりに答えた。


 「ボク達は行かなければならないんです」


 一言そう言うと自分を押し退けて、通り抜けようとした。


 自分一人で…。


 「……」


 今度は初等部とロウファが睨み合う形となったが、そのままロウファは走り去って行った。

 

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