第四十四話
「ボク達は訓練中なんです、邪魔をしないでください
そもそも風邪を引いて、レフィーユさんが休みだって言ってましたが?」
ロウファは悪気なく、自分に向かってそんな事を言ってきた。
「訓練に東方術を使ってですか?
初等部の訓練にしては、随分と危険な訓練だと思いますが?」
今日は武道の授業も無かった事を、ロウファに指摘するが今度は言い返す。
「別に心配する必要なんてないと思います。
これはミクモに対する注意でもあるんです」
「注意?」
「あんな偶然で、ボクに勝ったなんて思って欲しくないんです」
「だからこんな暴力に訴えたとでも?」
「暴力なんかじゃ!?」
「さすがに見る限りでは、さすがに貴方に否があると思いますがね」
「そ、それは…」
ロウファは分が悪いと思ったか黙り込む、そのおかげで、この事はレフィーユにも内緒なのだろうと何となくわかったので言った。
「レフィーユさんには黙っておきますから、ここまでにしておいた方がよろしいですよ?」
すると舌打ちを一つしながら、ロウファは出て行った。
「大丈夫ですか?」
「は、はい…」
ミクモを起こすが、ずっと黙ったままだった。
「やってしまいましたか…」
ミクモは自分の呟きを黙って聞いていたが、どうやらこうなる事を予想していたようだった。
人間とは絶対的に積み上げられた自信が根元からへし折られた時、それを立て直そうと必死になる。
ロウファの場合、当たり前の勝利があっさりと覆り、敗北を喫した。
それを認めたくないから、ロウファはもう一度、勝負を挑んで勝利を収めようとした。
実に子供らしい行動だった。
レフィーユに再戦を直訴して、断れないミクモを連れて来たのだが、それを受理されなかったが故に起きた事件と言ったところだろう。
「ロ、ロウファには、何で負けたのか考えてほしかったんですが…。
ど、どうやら、うっとおしがられたみたいです」
ミクモは落ち込んでいた。
彼の落ち込みには両親を失っている事が理由にあげられる。
自分も両親を失ったという点では一緒ではあるが、どうやら周りの人間関係に物凄く過敏になる傾向があるらしいと、昔、習った事がある。
ミクモはその過敏な部類に入り、自らも自覚があるのだろう落ち込むミクモにただ言えた事があった。
「貴方は、いい人なんですね。
人のためを思ってやって、人のために頑張って…。
でも、人間は意外と分からず屋で、そうではないと叫んでも、人はわかってくれない…」
まるで自分を見ているような感覚だった。
そんなミクモはじっと自分を聞いて見ていた。
「ど、どうすれば良かったんですか?」
「すいませんね、貴方は長く生きている先輩として意見を聞こうとしたのでしょうが、五年くらい歳を取ったくらいで、良い事が言える先輩なんていないモノですよ」
そう言うとさらに落ち込みを見せたが、感じた事がある。
「でも、それで良いと思いますよ」
「えっ」
「貴方はもし、あの時の勝負、ロウファが負けろと言ってましたら、どうしてました?」
前にロウファがやるのではないかという可能性を思いついたかのように聞いてみた。
だが、多分、彼ならこう言うであろうという確信があった。
「そ、それは勝てないけど、ロウファが駄目になるのがわかってたから…。
従うつもりはないです」
おそらくそれが彼の本音だろう。
貴方はロウファに対して、いつも本音なのだ。
そしてロウファも、根底で駄目だとわかっているから、そんな不正が出来なかったのだ。
「貴方は間違いなく、彼の友達なんですよ」
「ボ、ボクなんかがですか?」
そしてミクモだけ、あのモンスターの言いなりになっていた生徒の中で、貴方はただ一人、ロウファの状態に気付いていたのだ。
そんな事を口に出すのは難しいだろう。
だが、行動に出せるのには、さらに難しいのだ。
「そ、それはボクが両親を失ったから、言える事で…」
「それでも貴方は、もう一度何かあったら、もう一度何か出来る。
貴方は、そんな友達なんですよ。どうか彼の側にいてください」
そう言うと、自分の携帯が鳴った。
画面を見るとレフィーユの画像が写っていたので、彼女から電話だとわかった。