第四十三話
そして、上のいない犯罪組織というのは、多数決で物事を決めようとする性質があるのだろうか、自分の予感はあっさりと当たる事となった。
「後は俺らが何とかする。
アンタには悪いが、もう協力は良い」
自分が外の空気を吸おうとして、廃工場の周辺を確認する意味合いを込めて『確かに』外に出ると言ったのにそんな話をするのでいかがなモノかと思いもした。
だが、相手にしてみれば気をつかったのだろうか、自分としてはここを離れる訳にはいかなかったのだが…。
「聞いてなかったのか、もうアンタは必要ないんだ。
今から今後の事を徹夜で話し合うから帰ってくれ」
先ほどの声の主が、あの冷静な幹部だったらしくアジトには入るなと改めて言われてしまった。
納得できるワケが無いのだが携帯を見ると現在AM4時をすぎており。
こんな深夜に一人で行動を起こせば、かえって危険だった。
こうなると学園に戻るしかなくなったので、帰路に付きながらレフィーユに連絡を入れた。
「…なるほど、確かに不味いな」
「彼らが動くのは時間の問題でしょう。
初等部の動きは今からでも抑えれますか?」
「いや、難しい。
携帯、通信機を取り上げるにしても、ミクモとの一戦の手前、あの子達の中に、その行為を疑いを持つモノがいるかも知れない」
「という事は報せてはいないようですね?」
「ああ、混乱を避けるためだからな。
私の独断ではあるが、警察関係者に親族には伝えないように言ってある」
「『情報閉鎖』ですか?」
「…こういう場合だからな」
「すいませんね、こちらとしてはもう少し情報を提供したかったのですが…」
「ふっ、今まで平穏を守れたのは魔法使いが『慎重に行け』と命令していたからだ。
どうせ人質交換に出るのはわかっている。
だが、今、それがないというのがわかるだけでも、体力面で優位に立てる。
お前は十分に役目は果たした、私は頑張ったと思うぞ?」
「レフィーユさん…」
彼女が優しく気遣うように言って来るので…。
「モノは言い様ですね?」
そろそろ学園の裏門にたどり着くの頃なので声を潜める。
すると誰かが立っていたので目を凝らして見ていると、何やら話しているようで、まるで気付かないように声に出して言う。
「おかしいな、前に読んだ雑誌で、女の誉め言葉は口説き文句だと書いてあったのだが?」
「おや、私は寝る間を惜しんで警備をするような女性に、そう言われて浮き上がる軽い男だと思いますか?」
「ふっ、しまったな。
それなら、もう少し仮眠をとっておけばよかったな?」
不機嫌そうに彼女は携帯を切る。
どうやら彼女は連絡を受けてから待っていたらしいので聞いてみた。
「大丈夫ですかね?」
「わからん、全ては明日だ」
そんな次の日を迎え、自分は体調不良を理由に休んだ。
当然『今後に備えて休め』というレフィーユの指示でもあるが、昼時には完全に体調は整ったので昼休みの学園の様子を見に行く事にした。
途中でイワト達に出会い、冷やかされもしたが、体調も良くなったから散歩していると学園敷地内の寮に住んでいるという点を理由にすると、別に怪しまれる事無かった。
そのまま探索を続けていると何やら武道場で掛け声が聞こえた。
「やああ!!」
誰かと戦っているから上げられる声量に、気配を殺しながら覗き込むとそこにいたのはロウファとミクモが手合わせをしていた。
そして、もう一度ロウファは掛け声を上げて、攻勢に出る。
攻撃を受け止めるミクモだったのだが。
「あっ!?」
ミクモはあっという間にロウファに取り押さえられ、勝負が決まったところで口を開いた。
「ミクモ、これで判っただろう。
あんなのは運が良かっただけなんだ。
自分の実力だと思うな」
はたから見れば、調子に乗るなと言っているように見えたが、これは明らかに体罰的だった。