第四十二話
携帯を切り、ファミリー達の一人に放り投げて渡すと、何故か彼らは後ろにたじろいでいた。
「おや、どうしました?」
「い、いや、やっぱりアンタのルール違反なのか?」
どうやら先ほどのルールが、自分に相談を持ちかける時にでも上がっただろうか気になっていたらしい。
「これは判断が難しいですよ…」
そう言って、集められた人質、見慣れたモンスター達を見下ろしていた。
町外れにある廃工場にて、拘束されている様は人質として申し分ないのだが…。
「そこの貴方、話はどうなったのザマスか?」
ミチコは見張りの一人に、いつもの態度で聞いてくるのでひょっとすると大物なのかなと思えもする。
とりあえず振り返ると自分の周りにはファミリー達の幹部らしき三人しか残っておらず、その一人が自分に聞いてきた。
「それで探りを入れた感想はどうだった?」
「おそらくレフィーユさんは知らないでしょうね。
ワナの可能性は十分高いでしょうが…。」
見え見えな引き伸ばしだが、周囲もそれに黙り込むにはワケがある。
モンスター達の筆頭であるミチコが協力を申し出たのである。
「それであなた方は、協力するのですか?」
「信用できねえよ。
大体、どうやって捕まってるヤツが逃走経路を確保すんだよ?」
「忘れたのか、あいつ等は授業参観で来てんだろ。
だったら、その子供を使って…」
「おいおい、それなら意味がわかんねえよ。
俺らは犯罪者なんだぜ?
どうして協力する意味があるんだよ?」
「あのババア、ペインとの人質の交換の場面を、自分達の子供の活躍の場にしようと考えた。
それが自然な流れじゃねえのか?」
自分達の事を調べ尽くされているというのが解る問答に目を細めてしまう中、今の状況を聞いてみた。
「持ち物検査したのですか?」
「ああ、したぜ。
携帯電話や、化粧品、変な通信機もあったがな。
誘拐した時に、すぐにこっちで取り上げている」
それを聞いて、これで初等部の生徒達が話を聞いていないという事がわかったが…。
「正直、言っていいか、今回の話、俺は乗って良いと思ってるんだ」
一人にある確信を与えてしまっていた。
「通信手段はこっちが全部握ってるんだ。
俺たちに有利な事は変わりないって事だろう。
いざとなれば、そのガキを人質に取れば良い」
「私は反対ですね。
確かに私達に今の状況は有益でしょうが、ワナの可能性は否定できませんよ?」
すると間髪いれず、胸倉をさっきの男に掴まれて睨みつけられた。
「おい!?」
どうやらこの男は頭に血が上ると冷静さを失う性質があるのか、他の二人が止めに入る。
「こういう場合、長引かせれば相手にしてもプレッシャーを与えるのですが、どうしてそこまで焦ってるのか、聞きたいモノですがね」
掴んだ胸倉は、法衣の一部だったのでそのまま距離を取る。
その態度にイラついたのか、再度掴みかかろうとするが、法衣を部屋全体に広げると動作が止まる。
彼は、そのまま後ろに下がらせられたが、一人が言った。
「このままじゃ、名無しになるからだ」
「名無し?」
「アンタにわからねえがな。
俺らは『スーパーペイン』という肩書きの中で悪さをしている。
中にもボスが捕まってから、次は俺が捕まるって考えるヤツが増えてな」
かつて、レフィーユが授業で読み上げていた事を思い出した。
「大きな犯罪組織には、様々な構成員がいるというヤツですか…」
「そうだ、名を上げようと、ボスに近づくヤツがいる。
だが、その実態は犯罪に加担して、自分だけ甘い汁を吸って、全てをボスのせいにしようとするヤツも多いのさ。
こちらとしては、もっとじっくり作戦を練りたかったんだがな。
時間がないんだ…」
この時、感じていた。
彼は冷静だろうが、おそらく周りはあのモンスターの提案に乗るだろうという事に、こう言ってもただの引き伸ばしにしかすぎないだろうが言っておいた。
「私の経験上ですが、ああいう人ほど信用できませんよ。
犯罪者より、タチが悪い人を相手にしている事を忘れないでくださいね」
それは自分が子供に手を出したルール違反を持ち出して裏切るかもしれないから、彼等が自分と手を切って来るのが感じられる実感があったからだった。