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第四十話

この話を丸々書き直していたので、遅くなりました。


すいません。

 あの後、交代の時間が近づいて来たので、ロウファとペインは離れる事になる。


 自分はロウファが寝泊まりする別寮まで見送る、という今日一日の最後の仕事を終える。


 夜も深まった事もあり、自分も帰ろうと踵を返す。


 だが、ただ真っ直ぐ帰るワケではない。


 ある施設を利用してみようと思ったからだ。


 学園のイベントは、学園内の施設の機能を確認するためである。


 例えば先ほどの別寮は緊急時、一般市民の避難場所に使われたりする。


 その中で最近、大浴場の老朽化が進んでいる話が持ち上がった。


 当然、学園側としてはこの事態を見逃さなかったのだが…。


 「誰しも一度は聞いてみたい…」


 姿は、もう腰にタオル一枚…。


 「レフィーユさんの金銭感覚っ!!」


 この大浴場、彼女の自腹らしい。


 明らかに前にあった大浴場より広くなった大浴場に、もう一度レフィーユの金銭感覚を聞きたくなったが、これに黙って見ておこうと思うようになったのは自分だけではない。


 もう教師達も、見逃すようになるほど彼女の権限が強くなっているのだ。


 こうなると自分も楽しもうと思ったので…。


 先ほどの掛け声の正体が湯船の中で泡立ち、湯船を緑色に染め上げる。


 入浴剤の入ったタブレットを数個、贅沢に放り投げたのだ。


 気分は上々、温泉気分。


 女湯へと続く入り口に靴が無いかを確認して、誰もいない事を確認してからのやっているので、ご安心ください。


 何て思っていると…。


 「アラバ、随分と好き勝手、やってくれるな?」


 女湯の方から、聞きなれた声が聞こえた。


 「お前は楽しもうと思ったら、とんでもなく楽しもうとする性格をしているよな?」


 「すいませんね、誰もいないと思ったの独占的に楽しもうと思ったのでね」


 「ふっ、話したい事があったのでな。


 ちょうどお前がここに入っていくのが見えて追っていると、するとどうだ男女共有の湯船の穴から、緑色の気体が出て来てビックリしたぞ?」


 『私にもよこせ』と入浴剤を要求してきたが、全部使ったため溶けかけのタブレットをその穴に放り込んでいるとレフィーユは聞いてきた。


 「そっちはどうだった?」


 「まさか犯罪者が元治安部だと思ってなかったようですね。


 聞き入ってましたよ」


 「ふっ、私の注意はロウファの母親が良い方向にコントロールしてしまう傾向があったからな。


 私より効果的だっただろうよ」


 しかし、レフィーユは心なしか皮肉っぽく言っているような気がした。


 無理も無い、レフィーユはあのモンスター達の後始末を一手に引き受けたのだから。


 「ストレス溜まってますね~」


 レフィーユが近づいてくる気配を感じていると、先ほどのタブレットを放り入れた穴から、そのタブレットが返ってきた。


 「正直、気が晴れん…」


 「おや、それほど絞られたのですか?」


 「いや、ただの負け惜しみだ。


 だが、みんな、私を目指して訓練を積んでいると言われた時、あの初等部の中には何人、そんな形で頑張っているのだろうと思えばな。


 もしかすると、今回の原因の一端は私にあるのではないかと思ってな?」


 浴場の性質上、彼女のため息が聞こえた。


 「あまりいい気もしないでしょうね。


 貴女ほど能力向上に適している人はいないでしょうから。


 ですが、それは貴女が今まで頑張って来たからでしょう?」


 「ふっ、確かに私は治安部の人間として、恥じない行いをしてきたつもりだ。


 だが、その行いを通して私はみんなに『私を作れ』と言った覚えは一度も無い。


 私は完璧ではない。


 私でも間違いを犯す事もある」


 「貴女は、かつて私をメディアの前で『治安を乱すモノ』と言った事もありましたね。


 おかげさまで私は、こうなりましたが?」


 そう言うと、睨みつけられているような感じが壁越しに感じ取れたが、レフィーユが怒っているワケではない事はわかった。


 「ふっ、そう言ってくれるのはお前だけだな」


 「『気にする必要はない』と言われ慣れているようでしたからね。


 でも、多分、無理ですよ」


 「…簡単に言ってくれる」


 自分の解答に冷たさを感じたのか、彼女は黙り込んでしまった。


 だが、無理な話だろう。


 「あっ、隊長!?」


 「ヒオトか?」


 能力向上を目的なら、自分より優れた人間を真似れば良い。


 「す、すいません、入っているとは知らなくて!!」


 「ふっ、女同士だ。


 遠慮する必要などない、入ってくればいい」


 レフィーユ・アルマフィのように戦えるようになりたければ、彼女を真似れば良い。


 単純な論理だが、誰かを真似るというのは効果的なのだ。


 「…どうした?」


 「隊長って、身体って、凄くお綺麗なんですね」


 「ふっ、お前ほどではないだろう?」


 だから、スポーツ選手の行いが書籍化されたりするのだが。


 「と、とんでもありません。


 私なんか、胸もありませんし…」


 「セルフィほどあっても困るぞ。


 なあ、アラバ?」


 「…何事もバランスですよ。


 って、何言わせるのですか?」


 驚くように水音が弾けた音が聞こえた、ヒオトがこちらを見ているのか壁があるのでわからないが、おそらく睨まれているので言っておく。


 「…レフィーユさん、人様が物思いにふけているのに話をこちらに振らないで下さい」


 「ふっ、お前が冷たい事を言うからだ」


 「…隊長、殺りますか?」


 ヒオトが物騒な事を言い出したので、こちらも反撃とばかりにこう答えた。


 「でも、考えを変えれば、この話は終わりです」


 「どういう意味だ?」


 「あの初等部の子の中には、何人、親の期待に答えられなかった人がいるのでしょうか。


 親の目が怖くて、どうやって能力を上げようか迷った時に貴女がいた。


 そうやって貴女を防衛手段として真似て、親の期待に答えた人もいると思えば良い。


 きっとスポーツ選手が自分の本を出したがるのは、自慢したかったからじゃない。


 そのスポーツの楽しさを伝えたかった、さっきの子供を手助けをしたかったって…」


 何の事を話しているのか、ヒオトはわからない様子だったが、レフィーユは言った。


 「どうやら、お前は私が些細な事で悩んでいるように見えるようだな?」


 「いいえ、模範にもなれない男が大層な事を口走ってるだけですよ。


 さて、湯辺りしそうなので、そろそろ上がりますよ」


 「ふっ、いい出汁が取れたというのに、もう少しゆっくりしていけば良いモノを…」


 「そういう悪い冗談は口走らないでください」


 そう良いながら彼女が、元気を出していたのを感じていた。

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