第三十五話
走るミクモに、それを追うロウファ。
「やってますね」
武道場の屋上に上がり、学園内敷地内を走る二人を確認できたのは、蛍光色の地球防衛軍の服を着ていたのとガチャついた装備が擦れる音が響いていたからだろう。
「これは思った以上に、早っ!?」
並木林をひた走るロウファを見て、自分は素直に感想が漏らしてしまう。
「ふっ、さすがにロウファは口で言うだけあって身体能力、足も速いな」
曲がり角では警戒して、走るペースが落ちるが、直線でミクモを見つけると一気にペースを上げるロウファは、徐々ではあるがミクモとの差を距離を縮めていた。
「ミクモくん、追い付いて来ました。
すいませんが、ペースを上げてください」
後ろを振り向かせずに走らせているが、さすがに走ってくる音がしてくるのが近づいて来るのがわかったのだろう。
「ど、どうしましょう!?」
声だけで、焦りを十分に感じ取れた。
「駐車場まで、頑張って下さい。
そこでイワトさんに、教わった抜け道を使ってください」
「えっ、いいんですかホントに?」
「そういう作戦だからな。
時間切れも立派な戦法だ。
遠慮する事はない、幸い保護者達が乗ってきたバスも治安部車両も加わって見つけにくいだろう。
一旦、隠れながら状況を見て逃げるようにすればいい」
レフィーユはどこかで見ているのだろうか、視線を泳がしているとミクモの息を潜めるのがイヤホン越しに聞こえてきた。
言うとおりに隠れているのだろう。
しばらくすると屋上から眺めている自分から抜け出してきたミクモが見えた。
「ミクモくん、どこにロウファがいるかわかりますか?」
「く、詳しくはありませんが、多分、近くにいると…」
するとミクモのいる二台先のバスからミクモを探すロウファが見えたので指示を送る。
「すいませんが、一旦、ロウファのいる場所に戻ってくれませんかね」
「えっ!?」
「驚くのはわかりますが、このままだと先ほどの抜け道を使われる可能性がありますのでね。
少しばかり挑発をしてもらおうかと思いましてね」
「ちょ、挑発ですか、で、でもボクは、やった事は…」
「ふっ、心配するな。
お前はこの男の言うとおりにすればいい」
そう言っているのを聞いていると、ちょうどミクモがロウファの後ろに立つ形で現れた。
「見つけた!!」
驚きを交えて、ミクモを見つけるロウファ、抜け道があるのだと最初に有刺鉄線を張られている金網をみてから、キョロキョロし始めるのでミクモにこう伝えた。
「ロウファ!!」
まず名前を呼び、ロウファの視線が真っ直ぐミクモを見るのを待ち。
しばらく両者は見詰め合う。
「ミクモ…」
ただそれだけの呟きを、ミクモのマイクは拾う。
「……」
それを黙って自分は聞いていた。
おかげで少し指示を出すのが遅れそうになるが、こう伝えた。
「あと43分だよ…」
ロウファが焦りを見せた。
そのままミクモは下り坂から逃げ去り、ただ立ち尽くすロウファは、ヘルメットを被り直す。
その仕草…。
「通信が入ったようだな…」
そして、彼は完全に冷静さを失っていた。
近くにある抜け道を探す行為をやめ、遠回りしてでもミクモを追いかける事を選んだ。
一方的な差を生み出してはいる。
しかし、ロウファは早く、一目散に逃げるミクモにそのまま走り続けていれば、追い付かれてしまうのだろうが…。
イワトから学園内を詳しく案内させたかいもあり、逃げるルートに迷いがなかったのが幸いして…。
「ミクモくん、ストップ…。
もう二つ先の金網の柱にレバーがありますので、それを引っ張って外して下さい」
レフィーユが密かに設置していた近道を利用する事が出来た。
ミクモは下へと降りるバーが出てきたので、自分が言うまでもなく、まるで消防隊員を髣髴とさせながらすべり降りて行った、ロウファはコレを追えなかった。
下に着地した瞬間を狙われたらひとたまりもないと考えるしかないからだ。
ようやく追いついても、さらに…。
「ストップ…。
そこの壁は、どんでん返しになってます」
『どんでん返し』の意味を聞こうとしたミクモは裏返った壁に吸い込まれ、ロウファが追いつく事はまずなかった。
「…アラバ、二、三聞いて良いか?」
「…一応、出来るモノは利用しときませんと、イワトさんには教えておりませんので、心配ないと思いますが?」
「そうではない、どうして知っているのかと聞いているのだが?」
「もしかして、知らないと思ったのですか?
深夜、こそこそとレバーを取り付けていたではないですか?
こちらとしては、もっとマシな給料の使い方をしてほしいですがね」
すると機嫌悪そうにレフィーユは言い返した。
「ならどうして、お前は自分の抜け道を使わん?」
「自分の手の内を晒す悪党がどこにいますか?
大体、私はまだ不公平だとは思ってませんよ?」
「どういう事だ?」
こちらにも言い分があるのがわかったのかレフィーユは聞く態度を見せた。
そんな中をロウファが、ミクモが入った建物を見上げていた。
そこは自分達がやって来た武道場なのだから、さすがにロウファは戸惑っていたが、自分もレフィーユに聞いた。
「レフィーユさん、今、外にいるのですよね?」
「ああ、二人を追っているからな?」
確かに『外にいる』という発言を聞き逃しはしなかった。