第二十九話
「ロウファ、昔は、あんな性格じゃなかったんですよ…」
別寮まで送る間、ミクモは事情を説明を始めた。
「良く笑ってて、明るくて…、昔、参観日の時だったんです。
ボ、ボク、両親いないじゃないですか…」
その時、ミクモは周りの人に言われていたそうだ。
『参観日、親が来なくてお前は良いな』と…。
人には言って良い事と悪い事がある。
先ほどのこれには言って良い事など『子供だからわからない』という理由があるかもしれないが、人は何気ない一言で人を傷つける時もある。
そんな時にそれを注意できたのは…。
「ロウファが言ってくれたんです…」
そこから仲良くなった彼らは、よく遊ぶ仲になったらしく。
「勉強だって教えてもらった事だってあるんですよ…」
思い出しているのかミクモは照れくさそうにしていた。
そこで自分はつい事件発生時の動きを思い出していた。
両親がいないミクモにとって、かけがえの無い存在なのだ
守ろうと思うが故に犯罪者を前にしても躊躇無くロウファを庇え、戦おうと動けたのだろう。
「でも、ロウファの両親が離婚して、その頃から、ロウファは…」
「変わってしまった」
先ほどとは打って変わってミクモは静かになる、だが、それが理由になのだろう。
「な、何て言うかお母さんの言いなりになって、余裕がなくなってて…。
いつも苛立ってて…。
なんていうか、昔のボクに似てて…」
「貴方に似てる?」
「ボ、ボクは親を失った時、どうしていいかわからない感じが…。
今のロウファは親を失ってないけど、何だか行き場が無くて、頼れるのは自分だけだと思っているような感じがして…。
ホ、ホントはそれって、間違いだって教えてあげたいんです。
このままじゃロウファは駄目になるじゃないですか…」
「だから、参加しようと思いましたか…」
そして、次の日の武道の時間、今日も今日とてミクモはロウファに取り押さえられていた。
「ミクモ、お前はそれでも治安を守ろうという自覚があるのか!?」
関節を極めながら、容赦なくロウファはミクモに言い放つのを、どこが微笑ましいのか、その母であるミチコは周囲に自慢している様子を自分はジャージ姿で眺めていた。
「駄目よ、彼は…」
「おや、セルフィさん、他の学園への授業参加なんて、珍しいですね」
借りたのだろうか、セルフィもジャージ姿だった。
「姉さんの視界からじゃ、実力がわからないから、ロウファとの戦える人材を探せって言われなかったの?」
『いいえ』と答えると、セルフィは腕を組んで不機嫌になったが聞いてみた。
「そもそもレフィーユさんは、ロウファと戦う気なんてなかったのでは?」
それを聞いたセルフィはさらに不機嫌になる。
自分はこういう仕草は、姉に似ていると感じながら聞いてみた。
「どうも、そういうワケには、いかないようですね?」
「ふん、先の掃討戦で、そろそろマスコミが気付きだしたらしくて、問い合わせがあったのよ。
今はごまかせているけど、警察上層部からも連絡があったのよ。
このままでは、我々の落ち度を晒す事になる。
そちらの任務を、さっさと完了させてほしいって…。
自分達のミスなのに、何を言っているのかしら?」
「またレフィーユさんの雷の落ちそうな…」
「落ちたわよ。
大体、現状で最も安全策は、その任務、スーパーペインの輸送をしない事にあったのよ。
相手だって、今まで、それがわかってなかったから撤退は素早くても、こちらは確実に成果を上げていた上に、被害は少ない。
でも、そんな優位がなくなろうとしているのだから、ファミリー達の調子も変わるのが目に見えているわ」
「確かに穏やかではありませんね」
言いながら周囲を眺めると、心なしか治安部のメンバーにも緊張が走っているのか、初等部を見る目が真剣だった。
おそらくこの緊張感が情報の流出を招くだろうと、思えたのは自分が『魔道士』だからだろう。
だからこそ、レフィーユにしてもロウファを倒そうと考えたのだろう。
それを気付いているのかロウファは、いつもどおりレフィーユが近づくと自分を見てくれと、ミクモを取り押さえてアピールをする。
それに気付いているのだろうか、他の生徒もそうだった。
まるで彼女が近づくと華が咲く、そんな表現の中を保護者達は笑って見ているのだから。
レフィーユは保護者を『見ている』は、『睨みつけ』ていた。
ミクモ達をもう一度眺めていると、セルフィもそこを見ているのか静かに答えた。
「それでアンタは、ミクモって子が勝てる才能があると思ってるの?」
「そういうワケで見ていたワケではないのですが…。
少し気になりましてね。
ところで、彼が『駄目』とは?」
「ふん、見ての通り、アレじゃ、ロウファにはいつまでも勝てないって意味よ。
あの子は、勝負するには向いてないのよ。
それが何故かわかる?」
そう言われるので、もう一度組み手を始めたミクモを眺める。
今度はロウファに投げ飛ばされたので。
「受け身がうまい」
冗談をほのめかす程度にそう答える、セルフィは真面目な顔をして答えた。
「あら、正解よ」