第二十八話
その後、不思議と静かにペインは食事を済ませ、アラバは食器を片すために食堂にガラガラとラックを運んでいると不意に声がした。
「…なんや、今、音がしたぞ」
廊下を歩いてる自分に対して向けられた声だとわかったが、外を眺めようにも夜なんで近くなる窓からじっと眺めていると、先に見つけていた3人組の人影が安堵する声が聞こえた。
「あ、アラバじゃ」
「なんや、アイツなんであんなトコにおるの?」
「あれじゃ、今、アイツがペインの食事係なんよ」
「か~、あんなかったるい事を押し付けられるんなら、レフィーユさんに気に入られるんも考えモンやな」
ガトウ、イワト、サイトの三人が手を振ってやってきた。
「パトロールですか…おや?」
しかし、気になってしまうのは、ガトウは鉄棒、イワトは戦斧、サイトは鞭と東方術で武装が施され、パトロールにしては物々しさがあった。
サイトはそんな自分の態度に気づいたのか、事情を説明くれた。
「いやな、多分、気のせいと思うんやけど。
人影、見たいなのを見たらしくてな」
「今が今もあるが、初等部も別寮に住まわせている分、こっちも警戒を強化してる最中って事だ。
一応、サイトをつけて置くから、お前も早く作業を済ませておけ」
そうガトウに言われて、サイトを残して二人は警戒に当たったが…。
作業を済ませた数分後の事だった。
「あれ、なんかあったんかな?」
サイトは自分を安全な場所に誘導した上で、イワト達に近寄って行くとキョロキョロとして警戒を始めていた。
サイトが自分の隠れた方向に視線を送ったので、おそらく自分の事を聞かれたのだろうが、ゆっくりと歩みを始めた。
ちょうどその時だった。
隠れている方向から『それ』が見えた。
目を瞑り精神を集中させ、見開きながらも、まずはイワトの影の中で闇を作り、人ほど大きな影を三人の視界をかすらせるように動かした。
「なんだ!?」
三人はそれに一斉に振り向く…。
ガサガサガサ…。
それはしなやかに出てきた。
「ね、猫か…?」
当然、闇で作った猫だったが、三人には照明で逆光になっているニセ猫を見抜く事が出来ないらしく。
新たな草むらに入っていった猫を、追う事なく…。
「く、くだらねえ…」
「ガトウ、お前、こんなんで緊張してたんかい」
三人は笑い出し、自分を呼んで異常なしを伝えて去っていった。
そんな三人を見て自分は、少し罪悪感が沸いたが…。
「そろそろ、出てきた方が良いですよ」
その『影』はびっくりした様子だったがはったりだと思いもしたのだろうか、動こうとしない。
だが、おかげでその様子が、ある人物を確信付けてくれた。
「ミクモさん、初等部は出歩く時間ではないと思いますよ?」
名指しで呼ばれてミクモは観念したのかゆっくりと草むらの中から出てきた。
「こんな夜更けに何をしているのですか?
まあ、その格好で何となく察しはつきますが、説明をしてほしいですね」
ミクモは戸惑いながらも答えてくれた。
「あ、あの走り込みを…してました。
ごめんなさい」
すると自分はつい微笑んでしまう。
「今度、一緒に走りませんか?
見つからないルートを教えて差し上げますよ」
それにミクモは戸惑うので、教えておいた。
「前から知ってましたよ。
よほど日課なのでしょうね。
それを慣れない地域でやるから、今まで、バレずにすんだのでしょうが、貴方は慣れを計算に入れてなかったようですね。
タイムの短縮が、先ほどの事態を引き起こしたのでしょう」
「あの責めないのですか?」
「隠れてトレーニングなんて、レフィーユさんでもしますよ」
「そ、そうなんですか?」
「まあ、彼女はただの格好付けではありませんからね。
そんなに責められたいのなら、仕方ありません、それなりに考えてあげましょう?」
冗談混じりでそう言うと、ミクモにもそれが伝わったのか笑って断ってきた。
しかし、少し本音で聞いてみた。
「どうしてあの時、貴方は嘘を付いたのですか?」
「えっ?」
「面接の事ですよ。
あれ、クラス全員参加じゃなくて、参加は自由だそうじゃないですか?」