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第二十七話


 その時間、レフィーユは授業の中で治安部の教本を読み解いていた。


 「大きな犯罪組織には、様々な構成員がいるように、重要な犯罪者の周りというのは自然に取り巻きが出来てしまう傾向がある。


 交友関係という概念もあるが、用途は様々だ。


 名を上げようとその人物に近寄り、犯罪に加担しようとするモノ、快楽目的、多くは損得勘定で成り立った関係が多い。


 だが、治安部の活動というのは、これら全てを相手にした上で、なおかつ治安を維持しなければならない」


 そう言って、レフィーユは初等部の方を向いてロウファに聞いてみた。


 「治安とは何だ?」


 「はい、地域、社会の秩序が保たれて穏やかな状態の事を言います」


 まるで辞書にあるような解答を見せ、自信満々のロウファだったのだが、彼女はずっとロウファを見ていた。


 「レフィーユさん?」


 この後も、授業を続ける事になるのだが、レフィーユの顔色は晴れる事なかった。


 そして…。


 「おい?」


 「なんだ?」


 「こっちはよ、飯時なんだ。やめてくれねえか?」


 ようやく、その曇り空に対し指摘したのはスーパーペインだった。


 「一応、楽しみにしてたんだぜ。


 しゃべれる事なんか中々、無ぇんだからよ。


 おい、食事係の、何かあったのか?」


 レフィーユは黙ったままだったが、ペインは自分に言った。


 「まあ、何となくだが。


 どうせ聞き分けのないガキをどうすれば良いか考えていたんだろう?」


 「その通りですよ、元治安部として何か良い方法はありますかね?」


 ペインの背後で姉と一緒にいたセルフィは相変わらずの表情を自分を見たが、ペインはじっと自分を見ながら答えた。


 「まあ、経験上だが、正直、やべぇな」


 「やばいとは?」


 「はっきり言って、ノイローゼに近い。


 『自分は規則正しくやってる。


 だから自分のいう事、やる事全てが正しい』


 そう『思い込んで』生きて来たんだろう。


 そんな思い込みを突き崩す事、事態が、まず無理だ…」


 「ふん、それをアンタだったら、どうするのか聞いているのよ?」


 セルフィは構えを解かず聞いて来るが、ペインはあっさり答えた。


 「放っておく…」


 セルフィは背後に立ったままだったが、その戸惑いを感じたのだろう。


 ペインはため息をついて言った。


 「言っとくがな、それが正解だと思うぜ。


 そいつには会った事がねえが、要するによ、自分を形成する型ってのが出来上がってんだ。


 人間形成って意味じゃねえ。


 敷き詰め状態で、ストレスをガスとも感じないで受け入れて型が出来上がってんだ。


 上手、下手にだろうが刺激を与えたら、どうなるのがわかったモンじゃねえ。


 明らかに壊れるのが目に見えてんだ…。


 こうなったら治安部の仕事じゃねえ、医者の仕事だ」


 「だから、放っておくか…」


 さすがに元治安部のリーダーという見解だったのか、レフィーユは感心するように呟く。


 そしてペインは何故か笑っていた。


 ちょうどそれが自分にしか見えなかったが、ペインはどう思ったのか向かい合った自分に一旦、謝ってこう言う。


 「元治安部なんて言ってるが、犯罪者の俺がこう現役治安部、しかもレフィーユ・アルマフィだ。


 それにアドバイスをしている、それがおかしくてな。


 人生、どうなるかわかったモンじゃねえと思ってな」


 ペインは悪態をついたが、レフィーユはジョークだとわかっているのだろう。


 それに微笑んでいたので聞いてみた。


 「やっぱりレフィーユさんって、有名なんですか?」


 「まあな、俺はもう犯罪者(こんなの)になっていたが、凄いヤツだってのは俺の地元まで届いていた。


 どんな鉄の女なんだろうと思いもしたが…。


 実際、こう会って見ると、凄いのがわかるんだよ。


 規則正しいと思えば、こうやってしゃべれる機会も作る。


 完璧なのかと思えば、治安部のリーダーなら誰でも避けるような難題に真正面から向かい合って、そして、悩む。


 俺なんか、足元にも及ばねえよ」


 自分の治安部時代の事を思い浮かべているのだろうか、つい聞いてしまった。


 「どんな治安部だったのですか?」


 「普通だよ、さっき言ったようにアンタらには、足元にも及ばねえ…。


 ただ成果を上げようと、必死になっていたリーダーがそこにいただけだ。


 必死だから、周りも見えねえ。


 ただの点取り虫。


 気が付いたら、周りには誰もいなかった。


 そんな治安部さ」


 「そんな事はないでしょう。


 貴方にも、心配してくれる人くらいいたでしょう?」


 「…それは甘い考えだな。


 そんなヤツ『いた』かもしれねえよ。


 でもな、俺は周りなんて何も見えなかったんだ。


 多分よ、そのガキも同じだ。何も見えてなんかいねえんだ。


 成果を上げようと必死になっている」


 ペインはそのまま黙り食事をずっと続けていた。


 いつもの調子ではない。まるで、昔を飲み込もうとしているように自分には見えたが、ペインは言った。


 「心配はいらねえよ。


 多分よ、そいつ等の中にきっとアンタらのような考えを持っているヤツがいる。


 絶対にな…」 

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