第二十二話
人間は、果たして100人も人を殺す事が出来るだろうか?
まず、いない…。
確かに時代は進み、爆発物販売、及び、作成方法が容易にインターネットで流出した今の時代、それは連続的に行えば可能だろう。
しかし、この学園に拘束されている人物は、それを用いる事無く殺害する。
つまり手にした武器、彼の東方術、多節鞭だけで人を殺める。
それを説明したアラバに対し、ロウファは言う。
「それはスーパーペインは集団で事件を起こすからです!!
集団の中で犯行を行うから、死傷者が100人以上出た結果だと思います!!」
元気のよく言うが、警察とて愚かではない。
『100人以上を殺した』など根拠があるから言うのだ。
だが、問題は今はそこでなかった。
「スーパーペインの付加能力は、そのあだ名どおり痛みを与える事にあります。
僕たちは痛みに屈しません!!」
その一言が、ロウファを含む初等部の現状を表していた。
「ちょっと、姉さん、聞いてるの?」
同じ車で後部座席に座っていたセルフィが、無線を切りながら言った。
「ふん、いくら面接で忙しいからって、今はペインのファミリーがまた暴れてるのをくい止めないといけないんだから、しっかりしてよ」
「わかってる…。
だから、こうやって緊急出動しているのだろう。
…だが、この行動であの保護者がどう動くのだろうかと思えばな」
私の言葉に、今度はセルフィが考え込むような様子を見せて答えた。
「大人にとって、治安部って、何なのかな…」
緊急時なので赤信号を徐行する中、セルフィは尚も言う。
「確かに治安部という活動をしていれば、ある程度の将来の保障はされるのはわかるわよ。
でも、その治安部のあり方って、まるで見世物じゃない」
「ふっ、セルフィ、確かにお前の言いたい事はわかる。
将来の保障とはいえ、その保障は『怪我』を織り交ぜた保障だというのを、理解出来ていないのだろう。
それ故に元治安部が犯罪を起こした事だってある。
おそらく、失敗を知らないからだろうな」
「失敗?」
「そうだ、失敗だ。
セルフィ、お前は勉強をした事があるか?」
「…姉さん、いくら私でもそれくらいはしてるわよ?」
さすがに飛び級で編入してきた妹に対して、自分でも失礼な事を聞いたかと思い、つい笑みを浮かべてしまうが聞いてみる。
「例えば、勉強の中に書いて覚えるという行為がある。
だが、それだけではテストで良い点が取れない。
よく言われる『闇雲に覚えようとするのではなく、要点を…』と言うヤツだ。
良い点をとるなら、参考書の使用、塾、家庭教師、様々な方法があるが…。
不思議と中等までは同じような事を勉強をさせている」
「ふん、それはそうじゃない。
まずは基本を学ばないと足し算と引き算を学んだじゃ、方程式なんて解けるワケないじゃない」
「ふっ、教育機関が定めたラインの中で『基礎学力』というのを決める。
そんな中で、必勝法が編み出されていく。
それが『要点』という概念だ。
とくにその時の私の先生を責める気はないが『歴史』の授業で『この時代のことは、ここだけ覚えていてください』と口走ったそれは…。
参考書に当たり前のように載っていた。
家庭教師も言っていた。
簡単にさせすぎ、それ故、人の生き方というのは、こう勘違いしてしまいかねなくなる。
要点さえ抑えておけば、人生うまくいく。
ここの保護者達は、こう思いもしたのだろう。
要点さえ抑えておけば、私の子供は良い点数が取れる。
人生において、私のように失敗しない…とな」
「ふん、馬鹿げているわ。
子供が思うが故なんて言いたいかしら」
「失敗のない人生など、ありはしないのにな」
サイレンと共に、緊急時独特の中央に開いた車道を治安部特別車両が疾走するが、セルフィは聞いて来た。
「…ところでさ、姉さんは失敗した事があるの?」
「あるさ、小さい事から、大きな事、取り返しの付かない事も…やった」
つい彼の事を思い出すが、セルフィはそれを言った。
「彼の事?」
「…そうだな」
「…何やったのよ?」
「私の口からは言うつもりはない。
言ってしまえば、私は自分の事を保護してしまいそうだからな」
妹をバックミラー越しに見ると、ちょうど私を見ていた。
どうも聞けるかと思っていたらしく、心なしか鋭い視線が交差し。
「じゃあ、仕方がないわね。今に集中しておくわ」
そう言って、ハルバートを作り上げていく。
セルフィとて、私達の関係を調べようとはしているのだろう。
付かず離れず、もっとも距離を曖昧にしてまるで尾行をするように、私に対して何かを聞きだそうとしていて、収穫がなければすぐさま切り替える様を見たせいか、不意に笑ってしまう。
「ふん、何よ、そんなに笑わなくてもいいじゃない」
「おそらくお前が、真相にたどり着くのかも知れんと思ってな」
そのまま交差点を右に曲がって直進するまで、セルフィはずっと黙ったままだったので、私達の事を考えていたのだろう。
辺りが騒がしくなっていくと、ようやく集中し始めた。
「避難完了は、8割くらいってところかしら?」
「ふっ、見えた、このまま間に入るぞ?」
セルフィがハルバートを作り上げる中、返事を待たずアクセルを踏み込む。
「ちょ、ちょっと!?」
妹が慌てて踏ん張るのを感じながら、ドリフトを効かせて、言ったとおり治安部とファミリー達の間に
入る。
結果は両者、驚くと言うより唖然としていた。