第十四話
「へえ、そんな事が…、やっぱシャバは大変だ」
その夜、ペインに夕食を届けて、今まであった事を話していた。
「だが、お前、そんな事を俺に話していいのか?」
セルフィもそれに納得出来てないのか視線が少し痛い、こっちも自分なりに目的もあるので、それを踏まえた話をする。
「今回、別に貴方と、貴方の部下には連絡手段はありませんからね。
これくらいの情報漏洩しても構わないでしょう?」
「だが、そのかわり何か情報を寄越せ…。
お前はそうするつもりだ」
「おや、わかりましたか?」
これにはさすがにペインも『か~』と呆れながら答えた。
「あのな、交渉する相手を間違えてねえか、俺が作ったファミリーを売ると思うか?」
「ファミリー…家族ですか…。
まあ、さっきも言ったように私はあのモンスター、両親達とあなた方『ファミリー』が通じていたかどうかを知りたいだけなので『割り』には、あってはいると思いますよ?」
「『割り』…。
なら、お前の考えには何か裏がある。
俺はそう考えて、交渉には乗れねえな…」
「私は『交渉』をしているつもりはありません。
これは『交換』なんですから」
「トレード?」
「トレードは、自分が損をするように交渉をするのは基本ですよ?」
「なあ、お前、俺が脱獄する気がねえと思ってねえか?」
「おや、脱獄する気だったのですか?」
白々しくペインに聞いてみると、最初は堪えていたのかとうとう笑い出した。
「はははは、いいね。面白そうだ。
なら教えてやるか…。
適当に襲った感じがしてる。大方、消耗戦を狙ってきたってトコロだな?」
そんなレフィーユと同じ見解をしながら、推測ながらもペインは答えた。
「つまり関係がねえと思ってもいいんじゃねえのか?
あちらにしても魔法使いと結託した方が、それこそ『割り』に合うだろうよ」
そう言いながら、ペインは軽く笑いながら食事を進め、思い出したように聞いてきた。
「そういえば、あんた等の方で怪我人が出たって言ってたじゃねえか、ソイツは大丈夫だったのか?」
「無事ではなければ、こうやって食事には来なかったのですが…ねえ…」
「ああ、どうしたい…?」
ついミクモの事を思い浮かべてしまい、声が詰まってしまうが、代わりにレフィーユが答えた。
「ミクモの東方術の付加能力が再生…『傷を治す』というのが幸いだった。
私も始めてみるが、人間の傷が、ああも簡単に治るのは驚いたよ」
「…レフィーユさん、あの時、ヨウさんの避難で遅れてやって来てなんですが、ロウファだけじゃなく、みんな、怪我をする事を甘く見てるような気がしてまして…」
『大丈夫、アイツなら心配ないよ』
ロウファの、その時のセリフを思い出しながらも、その光景を思い出す。みんな何事もなかったかのように、レフィーユの指示を待っていた。
それはヘルメット越しに指示はあったのかも知れない、だが、ロウファは次に言った台詞にあまりの異常さを感じたのは言うまでもない。
「ふっ、『今度は絶対に恐れません』…か、足が笑っていたのも解らなかった男が、自分で言えた台詞だと思いたくないものだな」
「なるほど、だからお前が、俺にも情報を求めるワケか…」
ペインは食事を終えたらしくスプーンを、食器の上に乗せた。
自分はそれを片し始めると、ペインは食後独特のため息をついて呟いていた。
「何で、こんな事も出来ないの…」
不思議と重々しく聞こえたので聞いてみる。
「何です、それ?」
「いや、昔な。
そんなフレーズで、教育された『バカ』なヤツを思い出してな。
いつの時代にもいるモンだ…」
ペインは心なしか哀しそうな顔をしていたが、自分達の視線に気付いたのか、すぐに言った。
「でも、わかってんだろ。
ホントに危なくなるのはこれからだ。
モンスターどもが何を要求してくるやら…」
すると、レフィーユのみるみる曇っていくのに、さすがにペインも気付いたのだろう。
「…もしかして、来たのか?」
「ふっ、あくまで私の意見など、反論と聞こえるのだろうな。
自分達の意見を正すために、今度の組み手の際に自分達の選んだ初等部の誰かとロウファを戦わせて、どちらかが正しいのかを決めようとな…」
これにはペインも呆れながら言った。
「ホント、シャバは大変だ」