第一話
レフィーユは、無言のまま資料に目を通していた。
いつもなら、犯罪者のこの概要が書かれたこの手の資料に対して、すぐに終わらせてしまうトコロだが、黙って読みふけるには、それだけこの人物には、個人的な興味と警戒心が入り交じっているからだろう。
おかげで少し厚めの教科書のようなこの資料を読み終えるまで、事件が発生してから二時間が超え深夜に差し掛っていた。
そして、その事に彼女が気付いたのには、自身の携帯が鳴ったからである。
「私だ…。
セルフィ、どうだった?」
「ふん、まったく警察関係者も、もっと時間帯を考えて搬送してほしいわね」
そう悪態をつくので、まだ元気があるなと姉ながらの思ったのだろう。
いつも通り『ふっ』としながらレフィーユは答えた。
「相手は大物の『指名手配犯』だ、マスコミや外部の妨害、および周辺住民へ及ぶ被害を避けたかったのだろう。
現に輸送車は襲われて、お前の町で妨害が起こった。
夜も静まり返っていた、この時を選んで周辺住民へ被害が及ばなかったのは、警察の判断は正しいと思ってやれ」
「だけど、そのおかげでまた襲われるのを避けて、行き先の近くの白鳳学園、つまり姉さんのトコロに『あれ』がやってくる事になったのよ?」
「ふっ、こうなっては仕方がないさ。
指名手配犯をこちらで預かるというのは、勝手が違うかもしれないが私は自分の使命を果たすだけだ。
だが、セルフィ、悪いが…」
「わかってる。
今、臨時転校の手続きをしている最中、それで二校同時の三人組みの交代制で…。
大体、24時間の監視しようって考えてるけど?」
「妥当だな」
意外に早い妹の対応に、感心しながら笑みを浮かべているたが、セルフィはため息をついていた。
「でもコレで役者が揃ってしまったわ」
「ふっ、どういう事だ?」
「姉さんの町にはもう一人、指名手配犯がいるじゃない?」
「ああ、『漆黒』のか…。
だが相手を知ってる分、私からしてみれば、この男の方が恐ろしく感じるな」
「それは姉さんや私が東方術者だからじゃないの?」
「それもあるかも知れない、文字通り人を100人殺めた男なのだからな」
そう言って、机の上に置かれた資料が目に写ったからか、先ほどから、このような会話をしていたからか、30代後半の見立て通りの顔つきをした男の写真を見ながら呟いた。
「シドウ・タカムラ…か…」
そして、彼にもある特徴がある。
シュウジ・アラバが『漆黒の魔道士』と呼ばれるように、彼にも名前が付いていたのを妹は答えた。
「通称、痛みを与える者…」
「スーパーペイン…か…」
そんな空気の中、レフィーユの部屋がノックされる。
それが何となく、警察関係者がやって来たのがわかったのは言うまでもない。