ちくわ転生
ブペェアッ
ちくわの入った袋が爆ぜる音。
そして迫る青紫色のランプーートラックだ。
ブリュゥ
その日、ちくわはトラックに轢かれた。
◇
『貴方の使命はちくわを広めることです』
『分かりましたね?』
『あなたにはちくわを世に広めることのできる体を与えましょう』
『では、新しい世界へお行きなさい』
なぞの女の声。
「……妙な夢を見た」
俺はそう呟き窓の外を見る。
外に見えるのはワシントンモニュメント。
白くそびえ立つ建物。
真っ白だ。なにか中央をブラウンカラーにしてみてはどうだろうなどと思う。
「――そうしたら、なんだか竹輪みたいだ」
そう俺は呟く。
俺の名前はタケ・チューブ。
日系アメリカ人である。
日本には行ったことが無い。遠いからだ。
それでも俺はここ、ワシントンD.C.にやってきた。
ここでは毎年桜の季節に全米桜祭りという祭りが開催される。
日本にルーツを持つ俺は毎年ここへ訪れ、日本人っぽく振舞うことで自身のルーツに想いを馳せているというわけである。
ダイダルベイスン周辺にはフードトラックが並んでいる。
ハンバーガー
ホットドッグ
ケバブ
アイス……
ちくわがないじゃないか。
――いや、俺は何を考えているんだ?
というよりも『ちくわ』とはなんだ?
俺の脳裏にはなぜか『ちくわ』という日本語と、筒状のフィッシュケイクが浮かぶ。
What's Chikuwa?
俺はスマホのAIにそう尋ねた。
ちくわ、それは筒状の練り物……つまりFish Cakeのことらしい。
なぜ筒状にする必要があるのだ?
ドーナッツを真似た、ということだろうか。
バウムクーヘンかもしれない。
俺には分からない。
しかもなぜか頭から『ちくわ』という存在が離れない。
一体どんな味がするのだろう。
なぜ穴が開いているのだろう。
そこにソーセージを詰めてみてはどうだろう。
トウモロコシ粉を絡めて油で揚げてみてはどうだろう。
コーンドッグの完成である。
ちくわが気になる。
桜を見ている場合ではない。
ちくわはどこにあるのだろう。
アジア系スーパーへ行けば手に入るだろうか。
なぜ自由の女神はちくわを持っていないのだろう。
女神の王冠の突起にちくわをはめ込みたい。
ちくわが気になって仕方がない。
ちくわのことがもっと知りたい。
I have a dream.である。
そう思っていると不思議と両手に何かしっとりした感触が現れた。
恐る恐る両手を掲げる。
不思議なことにいつの間にか両手には『ちくわ』が握られていた。
『チートスキル:ちくわ無限生成』
なぜか脳裏にそういった文言が浮かんだが無視することにした。
俺は右手から生まれたらしいちくわを観察する。
やはり筒状の練り物である。
しっとり冷たい。
グリップ部分はブラウンカラーでスタイリッシュさを感じる。
匂いはよく分からない。いままで嗅いだことのない香り。
まじまじと観察しているとより洗練された形状のように感じた。
チクワ、イズ、チューブシェイプド、フィッシュケイク。
ディスイズア、チクワ。
日本にはワビサビという心があると聞く。
もしかするとちくわはワビサビなのかもしれない。
そして俺はそのちくわを口に含んだ。
初めて食べる日本の心、ちくわ。
外側は膜のようなものを感じる。焼き目か?
味はほんのり塩、ほんのり甘い。
SASHIMIのような生臭さはない。
――うまい。
『貴方はちくわ伝道師なのです。この国にちくわを広めなさい――』
突然脳裏にそう声が響いた。
頭が痛い。割れそうだ。
ブペェアッ
突然頭の奥で何かが爆ぜる音が響いた。
すると次第に不思議と気分が良くなってきた。
俺は一口かじっただけの右手のちくわをもう一度かじる。
不思議と俺が何をすべきなのか少しずつ分かってきた。
俺の名はタケ・チューブ。
ちくわの生まれ変わり。
この大国ユナイテッド・ステイツ・オブ・アメリカにちくわを広めるために生まれた。
俺はちくわ伝道師。
そんな俺の目の前に白くそびえ立つのはワシントンモニュメント。
それをじっと睨みつけていると少しずつその中央からブラウンカラーがにじみ出てきた。
◇おしまい◇
アメリカ合衆国建国250周年を祝して。




