第4話 バーモンドの苦労
【エルト視点】
トーレが転移魔法で召喚したドラゴンの数が多すぎる。
もう少し数を減らすと言うか、首輪のついたドラゴンだけを呼び出して欲しかったんだが。
さすがにそう細かい選別は魔法だけでは不可能かもしれない。
僕はトーレに首輪のついてるドラゴン以外はどこかに転移させるように頼んだ。
この距離なら首輪に纏わりついている魔力の判別もできるだろう。
この大魔女トーレなら。
「え~! もっちょっとこの景色を見ましょうよ!」
「いや、俺にそこまでの強メンタルはないから、早くしてくれ……ほら、バーモンドが頭を抱えてるぞ」
横を見れば何かぶつぶつと呟いているバーモンドがいる。
「くっ! このままだと俺が怒られるっ……どうにかしてこいつらに責任をっ……」
どうやらこの騒動で国王にお説教される未来が見えたらしい。
さっき「俺が真っ先に報告する」とか言ってたしおもろ。
しかし困った。
僕も一緒に怒られる未来しか見えないからほんと困った。
「仕方ありませんね……ほら、これでいいですか?」
トーレが指を鳴らし他のドラゴンに比べ少しサイズの大きいドラゴンが一匹残り、他のドラゴンはどこかに転移によって消えた。
遠目からも見えるし感じる。
あの残ったドラゴンには赤い首輪が巻き付いていて赤黒く光っていた。
「じゃあ少し相手してきますか……」
僕は一瞬でドラゴンの正面まで飛行し、すれ違いざまに魔法で硬化・鋭利化させた手刀で首輪を破壊した。
ドラゴンは一瞬動きを止めたあと、その目に確かな理性──そして怒りが宿った。
ドラゴンは僕を補足した途端、青白いブレスを放ってくる。
それを躱した僕はというとドラゴンの真下に潜り込んで軽く上空に向かって蹴り上げた。
それを受けドラゴンは空高く吹き飛ぶ。
ドラゴンは上空でホバリングしバランスを取った後、下方にいる僕をジッと見つめてきた。
「お前も怒りでいっぱいだろ……僕が相手してやるから好きに暴れろ」
次の瞬間、ドラゴンがものすごい咆哮をあげ天高く舞い上がっていった。
あれ、どういうことだ?
疑問に思ったのもつかの間、すぐに僕は気が付いた。
ああ……あのドラゴンは怒りだけで行動することはない理性を持った賢いドラゴンなのだと。
その証拠にドラゴンは上空に舞い上がった後、国の上空ではなく、国の外に、大森林に向かった。
「なるほどね……こりゃ、首を付けた犯人を見つけてあげたくなってくるな……」
僕はドラゴンの後を追って大森林に向かって飛ぶ。数十秒後──。僕とドラゴンは向かい合って上空で向かい合っていた。僕は手をクイックイッとしてドラゴンを挑発する。
「撃って来いよ、今度は受けてやるから」
それを聞きドラゴンは咆哮し、口元に先ほどのブレスとは段違いの魔力密度の青白い光が収束していく。
シュゥーシュゥーと渦を巻くようにして収束すること約十秒。
ドラゴンは顔を僕に向けブレスを放ってきた。
僕はそれを避けることなく、特に魔法障壁を張ることもなく受けて見せた。
ただ単に受けたら普通に痛いので身体に魔力を循環させて体の強度をあげている。
ブレスが止んだころには、髪がボサボサ、服がボロボロになった僕が浮かんでいた。
「うーん……通常のドラゴンにしては良いブレス放つけど……お前まだ成長の途中だな……」
普通にドラゴンの分析をしていた僕。
ドラゴンには下位種と中位種と上位種にわかられるが、この青い鱗のドラゴンは中位種の中ぐらいの強さだと感じた。
体の大きさも人間に比べれば巨体だがドラゴンの中ではまだ小さい。
僕はそっと静かにドラゴンに近づく。
その接近を受けてドラゴンは引かなかった。
僕はそっとドラゴンの頬に触れる。
「お前、もっと魔力の操作をうまくして見ろ。僕がお前の身体の魔力を操作するから試しに感じろ」
「グゥゥ?」
僕はドラゴンの中に流れる魔力を無理やり活性化させ、ドラゴンに身体に渦巻く魔力の大きさを自覚させる。
ドラゴンは体をむず痒そうに動かしたがなんとか我慢したみたいだ。
ついでに僕の特殊能力の一つ──『過去改変』能力でドラゴンの過去に干渉する。
この能力でできるのはその名の通り過去に起きた事象を改変すること。
この能力によって僕はこのドラゴンが首輪を付けられたという過去をなかったことにした。
これは僕の持論だが過去を変えても歴史の修正力は働かない。
なにせ僕はこの能力で過去を改変しまくってきたが、都合のいい現在しか生まれんかった。
まあ、正確には、歴史には確かに修正力と呼べるものはある。僕が過去を変えるたび変化したのはほんのちょっとの事象だけ。
しかしそれはこの世界の時間軸に生きる人々がすべて改変前と改変後の時間で同じ行動をとっているだけともとれる。
だから僕は歴史の修正力を信じるが、あまり過信はしない。
やり方にはちょっと気を使う。
「良し、今感じている魔力で試しにブレスを撃って見ろ」
僕がドラゴンにそう言うと、ドラゴンは口元に光を収束させる。
さて的はどうしようか……試しに森に立っている大きな樹を指さしてみる。
「あれ、撃ってみ?」
「グゥゥ」
放たれたブレスは先ほどまでのブレスと段違いの威力となり樹を一瞬で燃やした。
周囲に立っていた樹も巻き込みちょっとした火事が起こる。
僕は楽しくなってきたのでドラゴンの魔力が尽きないことに気を使いながら、何度も無差別に森に向かってブレスを放たたせた。
「あはははは! 楽しいな! よ~しっ……今度はあれを狙え!」
僕が指さした先には何かこちらに向かって叫んでいる様子のバーモンド。
それを見てドラゴンにも目に力が入る。
ドラゴンはブレスを収束させた後、思いっ切りバーモンド目掛けてブレスを吐いた。
バーモンドの姿が青い光の中に消え見えなくなる。ああ、さよなら、バーモンドよ……我が永遠の知り合いよ。
光りが晴れた先には仁王立ちして頭に血管浮かべているバーモンドが即席の魔法障壁に守られていた。
どうやらトーレが守ったみたいだ。
魔法障壁にかなりヒビが入っているのを見るにわざと構成に力を抜いてバーモンドの恐怖を煽ったようだ。
さすがトーレ。やることが性格悪い。
急に頭に魔力が流れてきたと思えばどうやら魔法でトーレが思念を飛ばしてきたみたいだ。
『帰ってきたらぶっ殺す、だそうですよ。あとそのドラゴン面白そうなのでわたしにも触らせてください』
『バーモンドに伝えてくれ、僕はちょっと急用ができたと』
僕はドラゴンの相手をもう少しすることにした。トーレにこのドラゴンを触れせても大丈夫かなあ?




