第3話 魔道具店の魔女店主
【エルト視点】
バーモンドと一緒に城下街の隅の隅のほうにひっそりと佇む魔道具店に顔を出した。店の中に入ると無人。来客を知らせる鐘の音が鳴ったからすぐに店長にして唯一の従業員であるトーレが出てくるはず。だが、数分経ってもトーレは店の奥から顔を出さなかった。
「なあバーモンド、トーレ、出てこないな?」
「ああ、この際、ここの魔道具を物色して持ち逃げすることも……」
次の瞬間、天井に檻が現れたと思えば一瞬にして落ちてきた檻にバーモンドが捕まった。なにこれウケる。バーモンドが檻に手を当て苦虫かみつぶした顔してるんだけど。僕はバーモンドを指さし思いっ切り笑った。
「あははははは! バーモンドお前……ここがトーレの店と知ってそれ言ったのか? ここはただの店じゃないんだぞ? 怖い怖い化け物の魔女が店長やってるんだ……」
ガッシャン! ……なにこれ、いつのまにか僕も檻の中にいるんだけど……。店の奥から長い黒髪の女性があくびをしながら出てきた。
「どうもこんにちわ、そしてさようなら……時々牢屋に差し入れ持って行ってあげますよ」
そんなことを言うのはトーレ。本人の話では千年以上生きる大魔女。魔術と魔法を極めた最強の魔法使い。この世界で彼女ほどの腕を持つ魔法使いはいないと言われている。
「トーレ、お前に頼みがあってきたんだ」
バーモンドが檻の中からトーレに話しかけた。
「えっと……あなた誰ですか?」
トーレは不思議そうに小首を傾げた。それにバーモンドの額に血管が浮かぶ。
「バーモンドだよバーモンド! お前俺が今までどれだけ面倒を見てきたのか忘れたのか!?」
「ああ……ギルドマスターの……あっ! 誰かと思えばエルトじゃないですか! わあ……わたしの店にまた来てくれたんですね……? どうして檻の中にいるんですか?」
ちょっとトーレさん、それはさすがにないでしょ。バーモンド涙目だし、あなたが僕達を檻の中に閉じ込めたんじゃないんですか?
「いや、気づけば檻が天井から降ってきたんだよ……トーレ、お前自覚あってやってんじゃないのか?」
「ああ、これ、自動化してるんですよ。わたしやこの店に害意を持った人間に反応するんです。エルト、何考えたんですか?」
正直に言うと怒らせるかなあ……。
「そいつ、お前のことを怖い化け物って言ってたんだよ」
バーモンドの奴普通にゲロりやがった。それを聞いてトーレが口元に手を押さえながらうふふと笑った。なにかおかしなことを言っただろうか。
「エルトは相変わらず面白いですね。それで、ギルドマスターのほうは?」
僕はニコッと笑ってチクることにした。
「こいつ魔道具を窃盗しようとしたんだよ」
トーレもニコッと笑った。
「じゃあ殺しましょうか☆」
「俺とそいつとの扱いが違いすぎるだろ!?」
トーレは冷めた顔をバーモンドに向けてため息を吐いた。腕を組みながらじろりと睨む。それを見て僕は心の中でバーモンドに声援を送った。頑張れ~。
「はあ……それで、わたしに頼み事とはなんでしょうか」
「ああ、実はな……」
バーモンドがドラゴンの件を数分かけて説明した。それを聞きトーレが納得する。それはわたしを頼ってもおかしくはない案件だと。トーレがなにかの魔法を発動させて空中に立体的な地形の映像が浮かんだ。
「う~ん、この国周辺のドラゴンであれば魔道具を使わずともわたしの転移の魔法で呼び寄せられますよ」
「そうか……ならさっそく城壁へ移動し手伝ってくれ」
「えっ、嫌ですよ?」
「どうしてだ? お前も自分が必要とされてることはわかるだろ?」
「だって面白くありませんしドラゴンなんてどうでもいいですし……それにお店を開けて売り上げを落としたくありませんし」
「むむっ」
バーモンドももっともなことを言われれば反論することもできない。しかし諦めきれなかったのか僕にちらりと視線を向けてきた。
どうやらトーレを説得しろとの事らしい。
はあ、なんか色目使っているみたいで嫌なんだが……。しかしドラゴンの一件をどうにかしないとバーモンドは僕を解放してくれないだろう。ここはトーレに頼み込んでみよう。
「なあ、トーレ……」
「気が変わりました。やっぱり面白そうですし手伝います」
僕が言い切る前にトーレが言い切ってしまった。どうやら気を使わせてしまったらしい。なんだかすごく男として嫌な気分になったんだが……。
「それじゃあ早めに行きましょうか」
トーレが指をパチンと鳴らした途端店の雰囲気が少し暗くなった気がした。どうやら魔法でお店の警戒度をあげて戸締りをしたらしい。
そしてもう一度トーレが指を鳴らすと僕達三人は城壁の上に転移していた。空は晴れ渡り鳥が数羽飛んでいるのが見え、城壁の外には魔物の住み着く大森林が広がっている。
「それでまずは、街に結界を張ればいいんですね?」
質問にバーモンドが頷く。
トーレが空に手をかざした途端、街で魔力が震えるのを感じた。どうやら目には見えないが透明な結界が張られたらしい。
とんでもない魔力密度と高純度の魔法結界であることがわかる。恐らく空から隕石が落ちてきても余裕で耐えるほどの強度があるだろう。さすが魔女としか言えない。
「さて、トーレがドラゴンを呼び出したらどうするかわかるな?」
バーモンドがそう聞いてきたので僕は任せろと言うつもりで頷いた。軽く屈伸運動して柔軟運動する。僕も魔法が少し使えるので飛行魔法を発動させて空中に軽く浮く。準備ができたことを知らせるために声をかける。
「トーレ、ドラゴンを召喚してくれ」
「わかりました」
次の瞬間、この国の上空に大量のドラゴンが出現した。それも大量に、軽く百を超える……あれれ? ちょっと数が多くない? 僕は疑問になったのでトーレを見ると口元がにやついていることに気付いた。
『キャァァァァァー!?』
『ママー助けてえー!?』
『ド、ドラゴンだ! ドラゴンが攻めてきた!?』
街中がなんかパニック状態になっている声が聞えてきた。僕とバーモンドは目を合わせ、そして城下を見下ろして、最後にジト目をトーレに送った。
「トーレ……せめて結界があることが国民にわかるよう色を付けられないのか?」
僕がそう呆れたように聞くとトーレは一瞬に真顔になった後ニコッと可愛いらしい笑顔でこう言った。
「できますけど……こっちのほうが面白いので、嫌です♡」
「お前鬼だろ」




