第7話 「熊野の炎、伊勢の祈り」
『伊瀬ちゃんをアイセ!』
第7話 「熊野の炎、伊勢の祈り」
三重県アイドルフェスティバル、Aブロック3回戦。会場は熊野市内の野外ステージ。熊野古道の緑に囲まれ、遠くに那智の滝を思わせる水音が聞こえる。観客は地元民に加え、観光客も多く詰めかけている。おかげ☆ガールズの対戦相手は熊野市の井戸高校「熊野ファイヤー」。世界遺産・熊野の神秘と炎をテーマにした、情熱的な8人組グループだ。黒と赤の衣装に、炎のようなエフェクトが映える。控え室で、舞理は相手のプロモ動画を見て息を飲む。「熊野古道や那智の滝をバックにしたパフォーマンス……めっちゃ神秘的でカッコいい……」双実は冷静に分析する。「炎の演出が派手ね。でも、それに頼りすぎてるかも」深園は赤福を頬張りながら言う。「ふわっとね……熊野の神様も、私たちの祈りを聞いてくれるよ」ステージ袖で相手リーダーの有馬と出会う。有馬は長い髪をなびかせ、力強い視線を向ける。「伊勢の巫女さんたち。動画で見たよ。綺麗だけど、熊野の炎に焼かれる覚悟はある?」舞理は負けじと笑顔で返す。「伊勢の祈りは炎にも負けないよ! 熊野の皆さんも、故郷愛が伝わってきた!」バトル開始。先攻は「熊野ファイヤー」。ステージに火柱の特殊効果が上がり、激しいビートが響く。8人のシンクロダンスが炎のように揺らめき、有馬の力強いボーカルが会場を震わせる。「熊野の古道 炎の道~ 那智の滝 魂を浄める~」観客は大熱狂。手拍子と歓声が山にこだまする。おかげ☆ガールズの3人はステージ袖で固くなる。「迫力……すごい……」舞理が呟くと、双実が静かに言う。「私たちは私たちの色でいくわ」おかげ☆ガールズのターン。和太鼓の静かな一打から始まる。新曲「神宮の祈り」。舞理がセンターで巫女の袖を優しく広げ、歌い上げる。「伊勢神宮 静かな森~ 天照の光 心を照らす~」双実のダンスは熊野の炎に対抗するように、流れるような動きで祈りを表現。深園の高音が神聖な空気を生み出す。人数は少ないが、静けさと祈りの力が会場を包む。観客が息を飲んで聴き入る。2巡目。「熊野ファイヤー」はさらに激しく。火柱が何度も上がり、ダンスのスピードが増す。炎のフォーメーションで圧倒。しかし、おかげ☆ガールズは動じない。ラストは「夫婦岩の約束」フルバージョン。双実のラップが熊野に向かって響く。「炎が燃えても 祈りは消えない 熊野と伊勢 三重の魂は一つ 古道を歩くように 共に進もう!」深園の高音が滝のように降り注ぎ、舞理の和太鼓が祈りのリズムを刻む。フィナーレは3人で手を合わせ、神前でお辞儀するようなポーズ。会場は静寂の後、爆発的な拍手に包まれた。投票結果――おかげ☆ガールズ、僅差で勝利!ステージ上で両チームが並ぶ。有馬が悔し涙を拭きながら笑う。「負けた……でも、あなたたちの祈り、熊野の神様にも届いたよ」舞理が手を握る。「熊野ファイヤーの炎、めっちゃ熱くて心揺さぶられた! 那智の滝みたいに綺麗だったよ!」深園が赤福を差し出し、有馬たちも熊野の名産・那智黒石を模したお菓子をお返し。「ふわっとね……これからも三重を一緒に盛り上げよう」ライブ後、観客は感動の余韻に浸る。SNSは「伊勢の祈りvs熊野の炎、神回!」と大盛り上がり。控え室で3人は抱き合う。「3回戦も勝った……! あと一つでAブロック優勝だよ!」双実が珍しく興奮気味に言う。「次は名張の鴻之台高校……絶対に勝つわ」深園が優しく微笑む。「みんなの故郷愛がぶつかり合って、三重全体が輝いてるね」夜の帰り道、熊野の星空の下をバスで移動しながら、3人は窓の外を見つめる。「フェスが進むごとに、ライバルが仲間みたいになってく」「うん! みんなで三重を全国に発信してるんだもん!」Aブロック決勝戦が目前に迫る。伊勢の少女たちの祈りは、ますます強くなっていく。
(第7話 終わり)




