第6話 「松阪の牛と伊勢の海」
『伊瀬ちゃんをアイセ!』
第6話 「松阪の牛と伊勢の海」
三重県アイドルフェスティバル、Aブロック2回戦。会場は松阪市内の大型ホールに移り、観客数は1回戦の倍以上。熱気が充満している。おかげ☆ガールズの対戦相手は松阪市の殿町高校「ミート☆プリンセス」。松阪牛をテーマにした、総勢12名の大型アイドルグループだ。肉汁感あふれる赤とピンクの衣装に、牛柄のリボンが特徴的。控え室で、舞理はモニター越しに相手の練習風景を見て目を丸くする。「すごい人数……! 迫力やばいよ……」双実は腕を組んで冷静に分析。「人数が多い分、フォーメーションが武器ね。でも隙も多いはず」深園は赤福を食べながら頷く。「ふわっとね……私たちは3人で心を一つにすれば、負けないよ」相手チームのリーダー、愛宕は明るく元気な少女。ステージ袖で出会った時、にこやかに声をかけてきた。「伊勢の巫女アイドルさんだよね! 動画見たよ、めっちゃ可愛かった! でも今日は松阪牛の旨さを全国に知らしめるから、負けないよー!」その言葉に、舞理も負けじと笑顔を返す。「こっちも伊勢海老のプリプリ感で勝つんだから!」バトルは交互パフォーマンス+観客投票方式。先攻は「ミート☆プリンセス」。12名の整然としたフォーメーションがステージを埋め尽くす。松阪牛の焼ける音をサンプリングしたビートにのせて、力強いダンス。「ジューシーな夢 噛みしめて~ 松阪の誇り 熱く燃える~」ステーキを切るような振り付け、サーロインをイメージしたターン。観客は大興奮、手拍子と歓声が鳴り止まない。おかげ☆ガールズの3人はステージ袖で息を飲む。「人数差……圧倒的だね……」舞理が呟くと、双実が静かに言う。「人数じゃない。心よ」おかげ☆ガールズのターン。和太鼓の重い一打でスタート。「夫婦岩の約束」から始まり、続けて新曲「伊勢海老のダンス」。舞理がセンターで巫女袖を翻し、歌い上げる。「プリプリ伊勢海老 赤い情熱~ 海の恵みで みんな笑顔~」双実のキレダンスが海老の跳ねる動きを表現。深園の高音が会場を優しく包む。人数は少ないが、3人の息は完全に一致。巫女風の優雅さと力強さが融合し、観客を引き込む。2巡目。「ミート☆プリンセス」はさらにパワーアップ。12人で波状フォーメーションを作り、牛の角をイメージしたポーズで圧倒。しかし、おかげ☆ガールズは動じない。ラスト曲は「伊勢の風に乗って」スペシャルアレンジ。双実が即興ラップを入れる。「松阪の牛も 伊勢の海老も 三重の宝 みんな繋がってる ライバルじゃなく 仲間なんだよ!」観客がどよめき、手拍子が一つになる。フィナーレは3人で大きくジャンプ。和太鼓の連打がホールに響き渡る。投票結果――おかげ☆ガールズ、僅差で勝利!ステージ上で両チームが並ぶ。愛宕が悔しそうに、でも清々しく笑う。「負けたー! でも、めっちゃ楽しかった! 伊勢海老のダンス、可愛すぎ!」舞理が手を握り返す。「ミート☆プリンセスのフォーメーション、すごかったよ! 松阪牛食べたくなっちゃった!」深園が赤福を差し出し、愛宕たちも松阪牛のジャーキーをお返しにくれる。「これ、食べて! 次は応援に行くからね!」ライブ後、ホール外では観客が列を作り、両チームのグッズ(手作りうちわ)が飛ぶように売れる。控え室に戻った3人は、疲れ果てて倒れ込む。「また勝った……! 3回戦進出だよ!」舞理が喜びを爆発させる。双実は珍しく満面の笑み。「人数差を跳ね返せたわ。私たちの絆が勝ったのね」深園が優しく言う。「ふわっとね……ライバルみんな、故郷を愛してるんだね。それが伝わって、嬉しかった」その夜、SNSは大盛り上がり。『伊勢vs松阪の肉海鮮バトル最高!』『おかげ☆ガールズの巫女ダンスに癒された』『三重県アイドルフェス、レベル高い!』動画の再生回数は10万を超え、地元テレビ局から取材のオファーも入った。屋上練習の帰り道、3人は伊勢神宮の参道を歩く。「次は熊野の井戸高校……もっと強くなるよ」「うん! 故郷を輝かせるのは私たちだもん!」星空の下、三人の影が長く伸びる。フェスティバルは中盤戦へ。伊勢の少女たちの夢は、さらに大きく広がっていく。
(第6話 終わり)




