第4話 「おかげ横丁でゲリラライブ!」
『伊瀬ちゃんをアイセ!』
第4話 「おかげ横丁でゲリラライブ!」
「夫婦岩の約束」が完成してから、おかげ☆ガールズの練習はますます熱を帯びていた。屋上でのリハーサルは毎日続き、3人の息は日に日にぴったり合っていく。しかし、フェスティバル本番まであとわずか。学校内のライブだけでは物足りなくなってきた。放課後、おかげ横丁を歩きながら舞理が提案した。「ねえ、次はここでお披露目しちゃわない? ゲリラライブ!」双実は目を丸くする。「いきなり横丁で? 観光客だらけなのに?」「そう! 伊勢の魅力を直接届けられるチャンスだよ! 伊勢ちゃん、がんばるよ!」深園は赤福氷をスプーンで掬いながら微笑む。「ふわっとね……いいかも。みんなの反応、リアルにわかるよね」3人はすぐに計画を立てた。週末の土曜日、観光壇の前広場を狙う。許可は取れないので、本物のゲリラ。機材は簡易スピーカーとマイクだけ。衣装は巫女風アレンジの新バージョンだ。土曜日。おかげ横丁は観光客で大賑わい。和菓子屋の本店の前には長い行列ができ、夫婦犬のゆるキャラが写真を撮られている。舞理たちは広場の隅でスタンバイ。緊張で手が冷たい。「本当にやるの……?」双実が小声で言う。「やるよ! みんなで決めたんだから!」舞理がスイッチを入れる。スピーカーから軽いイントロが流れ始めた。最初は「伊勢の風に乗って」のアレンジ版。和太鼓の音が横丁に響く。観光客たちが足を止め、スマホを向ける。「何これ? 巫女さんのダンス?」「可愛い! 地元のアイドル?」舞理の明るい歌声が広がる。「伊勢神宮 朝の光~ おかげ横丁 笑顔の輪~」双実のキレダンスが観光客の間を縫うように動き、深園の高音が優しく重なる。最初は数人だった観客が、どんどん集まってくる。子供が手を叩き、おじさんが拍子を取る。外国人の観光客も動画を撮り始めた。2曲目は新曲「夫婦岩の約束」。「夫婦岩のように 離れていても繋がってる~」夕暮れの横丁に、3人のハーモニーが溶けていく。舞理の和太鼓が力強く、双実のラップがクールに決まる。「波が来ても揺れても ずっと一緒に~ 伊勢の海が教えてくれた 絆の約束~」最後は3人で手を繋いでお辞儀。広場が大きな拍手に包まれた。「すごい!」「またやってね!」「これ、フェス出るの? 応援するよ!」観光客から声がかかる。子供が駆け寄ってきて「巫女さん、かっこいい!」と言い、舞理は嬉しそうに頭を撫でる。しかし、楽しい時間は長くは続かなかった。「おい、許可取ってるのか?」お店の人がやってきて、注意されてしまう。「あ、ごめんなさい! すぐ片付けます!」慌てて機材をまとめ、3人は横丁の裏路地に逃げ込んだ。息を切らしながら、3人は顔を見合わせて大笑い。「バレちゃったね……」「でも、めっちゃ盛り上がったじゃん! 伊勢の人が喜んでくれた!」深園が餅菓子を配る。「ふわっとね……みんなの笑顔、最高だった」その夜、SNSに動画がアップされ始めた。『おかげ横丁で可愛い巫女アイドル発見!』『地元の高校生らしい! フェス楽しみ!』動画はあっという間に拡散され、再生回数は数千を超えた。翌週の学校。クラスメイトが騒がしい。「舞理たち、横丁でライブしたんだって? 動画見たよ! めっちゃ可愛い!」先生までもが「地域貢献、いいことだね」と褒めてくれた。屋上練習で、3人は動画を見返す。「これ、私たちの初めての“外”ライブだね」双実は少し照れくさそうに言う。「まぁ、やるなら本気でね。次はちゃんと許可取って、もっと大きなところでやりましょう」舞理が拳を握る。「うん! フェスまであと少し。この勢いで、絶対優勝するよ! 伊勢を全国に届けるんだ!」深園が高音でハミングを始める。3人の歌声が、伊勢の空に響いた。ゲリラライブは、彼女たちに大きな自信を与えた。おかげ横丁の賑わいが、少しだけ彼女たちの力になった気がした。フェスティバル本番が、すぐそこまで迫っている。
(第4話 終わり)




