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第3話 「餡子と巫女のリズム」

『伊瀬ちゃんをアイセ!』

第3話 「餡子と巫女のリズム」

初ライブから数日。岩渕高校の校内はまだ「おかげ☆ガールズ」の話題で持ちきりだったが、長屋深園の心は重かった。練習中の屋上。舞理が和太鼓を叩き、双実がステップを刻む中、深園の歌声が途切れがちだ。高音が出ず、声が震える。「ごめん……今日、ちょっと調子悪くて……」深園は小さく謝って、赤福の包みを握りしめた。ライブの失敗シーンが頭から離れない。あの時、自分の声が裏返った瞬間、観客の笑いが聞こえた気がして……。放課後、深園は一人で教室に残り、ノートに手紙を書いた。『舞理ちゃん、双実ちゃんへ 私、グループを辞めようと思う。みんなの足を引っ張っちゃうから……ごめんね。』手紙を二人の机に置いて、深園はそっと教室を出た。一方、舞理と双実は屋上で待っていた。「深園、遅いね……」「なんか元気なかったわよね。最近」二人が教室に戻ると、手紙を見つける。舞理の顔が青ざめる。「深園が……辞める!? そんなの嫌だよ!」双実は眉を寄せた。「バカね。あの子、ライブの失敗を引きずってるのよ。放っておけないわ」二人はすぐに深園の家へ向かったが、すでにいない。実家の和菓子屋の母親に聞くと、「海を見に行ったみたいよ」とのこと。二見興玉神社の夫婦岩前。夕陽が海を赤く染め、夫婦岩が静かに佇む。深園は岩に腰掛け、膝を抱えていた。いつも持ち歩く赤福の箱を傍らに置き、波の音を聞いている。「私、みんなの邪魔してるだけだよね……歌、ちゃんと歌えなかったし……」涙がぽろりと落ちた。その時、後ろから声がした。「深園ー!」舞理が息を切らして駆け寄ってくる。双実も少し遅れて到着。「手紙見たよ! 辞めるなんて、絶対許さないから!」舞理は深園の隣に座り、強く手を握った。「ごめんね……私、失敗しちゃって……みんなに迷惑かけてる……」深園の目から涙が溢れる。双実は少し離れて立っていたが、ゆっくり近づいた。「アホね。失敗なんて誰でもあるわよ。あの時、笑われたなんて思ってるんでしょ? でも違う。みんな、深園の高音にびっくりしてただけ。綺麗すぎて、声が出なかったのよ」双実の言葉に、深園が顔を上げる。「でも……私のせいで……」「違うよ!」舞理が強く言う。「深園がいなかったら、私たちの歌は完成しないよ。高音のハーモニーがあってこそ、おかげ☆ガールズなんだよ! 伊勢の空みたいに、ふわっと包んでくれる深園の声が大好きだよ!」舞理の目にも涙が浮かんでいる。「伊瀬ちゃん……」深園が嗚咽を漏らす。三人は自然と抱き合った。夕陽が夫婦岩を照らし、三人の影を一つに重ねる。双実が珍しく優しい声で言った。「まぁ、やるなら本気でね。一緒に。深園の歌詞、いつも楽しみにしてるんだから」深園はポケットからノートを取り出した。そこには、新しい歌詞が書かれていた。「実は……今日の気持ち、書いてみたの……」舞理が読む。『夫婦岩のように 離れていても繋がってる 波が来ても 摇れても ずっと一緒に 伊勢の海が教えてくれた 絆の約束』「これ……オリジナル曲にしようよ!」三人は顔を見合わせ、笑った。深園が赤福をみんなに配る。「ふわっとね……もう、辞めないよ。一緒にがんばろっか」その夜、三人は屋上で新しい曲を練習した。「夫婦岩の約束」。和太鼓の力強いリズムに、双実のラップが絡み、深園の高音が優しく包む。歌い終わると、三人はハイタッチ。「これで、フェスに一歩近づいたね!」「次は絶対、完璧に決めるわ」「ふわっとね、みんなで」夜の伊勢神宮が遠くに見える屋上。星が瞬く中、三人の絆はこれまでで一番強くなった。翌日の学校。深園は明るい笑顔で登校。クラスメイトに「おはよ」と声をかけ、屋上練習もいつも以上に熱が入る。夫婦岩で交わした約束が、少女たちの心にしっかりと根を張った。

(第3話 終わり)

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