第2話 「学校中に響け、私たちの歌!」
『伊瀬ちゃんをアイセ!』
第2話 「学校中に響け、私たちの歌!」
結成から1週間。おかげ☆ガールズの3人は、毎日のように屋上で練習を重ねていた。伊瀬舞理は巫女風にアレンジした白と赤の衣装を着て和太鼓を叩き、茶屋双実はキレのあるダンスで空間を切り裂き、長屋深園は高音の美しいハーモニーを重ねる。「もうすぐ文化祭の予行だよ! そこで初めてのステージ、やっちゃおう!」舞理の提案に、双実はため息をついた。「いきなり人前って……練習不足じゃない?」「大丈夫! 伊勢神宮の神様も見守ってくれてるよ! 伊瀬ちゃん、がんばるよ!」深園は餅菓子を頬張りながら頷く。「ふわっとね……みんなでなら、きっと楽しいよ」文化祭予行の日。体育館のステージ裏で、3人は緊張で手が震えていた。観客は全校生徒と先生たち。まだ知名度ゼロの新人グループに、期待の視線は少ない。「次はおかげ☆ガールズの皆さんです!」司会の声が響く。幕が上がる瞬間、舞理は深呼吸した。曲はJ-POPのカバーに和風アレンジを加えたもの。タイトルは「伊勢の風に乗って」。和太鼓のドン!という一打でスタート。舞理の明るい歌声が体育館に響く。「伊勢の神宮 朝の光~ おかげ横丁 笑顔が咲くよ~」双実のダンスは鋭く、ステップが床を叩く音がリズムを刻む。深園のコーラスが高く澄んで、会場を包み込む。――しかし、緊張が勝った。舞理は和太鼓のバチを落としそうになり、慌てて踏ん張った拍子に足を滑らせる。双実はタイミングを少し外し、ターンでバランスを崩す。深園は高音で声が裏返り、小さく「ひゃっ」と可愛い悲鳴を上げてしまった。会場から小さなクスクスという笑いが漏れる。(やっぱり……失敗しちゃった……)舞理の心臓がドキドキ鳴る。双実は唇を噛み、深園は目を潤ませている。その時だった。後ろの席から、ぽつん、ぽつんと拍手が聞こえてきた。1年生の女の子たちが、小さく手を叩いている。「がんばれー!」「可愛いよー!」その拍手が、少しずつ広がっていく。――みんな……見てくれてる。舞理は顔を上げた。笑顔を取り戻し、大きく息を吸う。「みんな、ありがとう! ここから本気で行くよ!」和太鼓を強く叩く。ドドン!という音が、失敗の空気を吹き飛ばす。双実は「まぁ、やるなら本気でね」と呟き、クールな笑みを浮かべてダンスを再開。キレが戻り、観客の視線を釘付けにする。深園も目を閉じて集中。高音が美しく伸び、会場を優しく包む。「夫婦岩のように ずっと一緒に~ 伊勢の海は 広い夢を運ぶよ~」3人の息がぴたりと合う。巫女風の振り付けで手をかざし、和太鼓とダンスが融合。最後は3人でジャンプしてポーズを決めた。――体育館が割れんばかりの拍手と歓声に包まれた。「すごい!」「伊勢っぽくてカッコいい!」「あの巫女衣装可愛い~」ステージを降りた3人は、控え室で抱き合った。「やった……成功したよ!」舞理の目には涙が浮かんでいる。双実は照れくさそうに髪をかき上げ、深園は赤福をみんなに配った。「ふわっとね……みんなの拍手、嬉しかった」ライブ後、校内は「おかげ☆ガールズ」の話題で持ちきりになった。クラスメイトが声を掛けてくる。「フェス出るんだって? 応援するよ!」「次のライブ、絶対見に行く!」放課後、3人はおかげ横丁で反省会。夕方の横丁は観光客で賑わい、抹茶味のかき氷を食べながら語り合う。「最初は失敗したけど、あの拍手がきっかけで立て直せたよね」「あれは舞理の笑顔のおかげよ。ドジっ子なのに、なんであんなに前向きなの?」「えへへ、伊勢神宮で毎日お参りしてるからかな? 神様パワー!」深園が微笑む。「私、もっと歌詞作り頑張るよ。今日の気持ちを、次のオリジナル曲にしよう」双実はスマホで動画を見返す。「ダンスのタイミング、もう少し詰めないと。次は完璧に決めるわ」帰り道、伊勢神宮の参道を歩きながら、舞理は空を見上げた。「今日、学校中に私たちの歌が響いたよね。これが始まりだよ。フェスまで、もっともっと伊勢を輝かせよう!」双実と深園が頷く。夕陽が宇治橋を赤く染め、3人の影を長く伸ばす。小さな一歩を踏み出したおかげ☆ガールズ。地域を盛り上げる夢が、少しずつ現実味を帯びてきた。
(第2話 終わり)




