第1話 「私たちがアイドル⁉︎」
『伊瀬ちゃんをアイセ!』
第1話 「私たちがアイドル⁉︎」
三重県伊勢市。朝の陽光が神宮の鳥居を優しく照らす中、岩渕高校の校門をくぐる少女の姿があった。伊瀬舞理、15歳。巫女の家系に生まれた彼女は、長い黒髪をポニーテールにまとめ、いつも明るい笑顔を絶やさない。「今日もいい天気! 伊勢神宮さん、ありがとう!」舞理は毎朝、神宮に手を合わせてから登校するのが日課だ。クラスに入ると、いつもの席に座る親友の茶屋双実と長屋深園が待っていた。双実はクールな表情でスマホをいじり、深園はおっとりとした笑顔で和菓子を頬張っている。「おはよー! 双実、深園!」「遅いわよ、舞理。朝から神宮でお参りしてたんでしょ?」双実はため息をつく。「うん! 今日も伊勢が大好きだなーって思っちゃった!」放課後。舞理は学校の掲示板の前で立ち止まった。そこに貼られていたのは、色鮮やかなポスターだった。『三重県アイドルフェスティバル 開催決定!地域を盛り上げる高校生アイドル大募集!優勝校には県公式PR大使の称号と、伊勢神宮での奉納ライブ権利!』舞理の目がキラキラと輝いた。「これだ……! これこそ、私がやりたかったこと!」伊勢の魅力をもっと多くの人に知ってほしい。厳かな神宮の空気、おかげ横丁の賑わい、二見の夫婦岩、美味しい伊勢海老に赤福……。そんな想いが胸に溢れる。「アイドルになって、歌とダンスで伊勢を全国に発信するんだ!」興奮冷めやらぬ舞理は、すぐに双実と深園を屋上に連れ出した。「ちょっと、急にどうしたのよ」双実は怪訝な顔。「見て見て! このポスター! 三重県アイドルフェスティバル! 私たちで出ようよ!」「アイドル……?」深園が目を丸くする。「うん! 双実のダンス、めっちゃカッコいいじゃん! キレキレでラップもできるし! 深園の高音ボイスは天使みたいに綺麗だし、私……私、和太鼓叩けるよ! 巫女衣装でパフォーマンスしたら、絶対伊勢っぽくなるって!」舞理の熱弁に、二人は顔を見合わせた。「私は興味ないわ。ダンスは趣味でやってるだけだし」双実はそっぽを向く。「私も……人前で歌うの、ちょっと恥ずかしいかも……」深園は餅菓子を頬張りながら小声で言う。「えー! でもでも、考えてみてよ! 伊勢を元気にするチャンスなんだよ! 観光客も減ってるってニュースで言ってたし……私たちが故郷を輝かせられるかもしれないんだよ! 伊瀬ちゃん、がんばるよ!」舞理の真剣な瞳に、二人は少し心を揺さぶられた。「……まぁ、やるなら本気でね」双実は小さく呟く。「ふわっとね……私も、やってみてもいいかも」深園が微笑む。「やったー! じゃあグループ名は……おかげ横丁から取って、『おかげ☆ガールズ』でどう?」こうして、三人組アイドルグループ「おかげ☆ガールズ」が誕生した。その日の帰り道、三人はおかげ横丁を歩きながら作戦会議。「まずは練習! 屋上で毎日やろう!」「衣装はどうするの? 巫女服って動きにくそう……」双実が指摘する。「私がアレンジするよ! 可愛く巫女風にリメイクしちゃう!」深園は赤福をみんなに配りながら、「オリジナル曲も欲しいね……歌詞、私が考えてみようかな」と提案した。家に帰った舞理は、部屋で一人興奮していた。巫女衣装を広げ、鏡の前でポーズを取る。「伊勢の魅力を、みんなに届けたい……! 絶対にフェスで優勝して、神宮でライブするんだ!」窓の外には、夕暮れの伊勢神宮が静かに佇んでいる。新しい夢が、少女たちの青春に灯った瞬間だった。翌日から練習が始まった。屋上で和太鼓の音が響き、双実のダンスが風を切り、深園の歌声が空に溶ける。まだぎこちない三人だが、笑顔が絶えない。「初めてのライブ、どうする?」「学校内で小さくやってみようよ! みんなの反応見て、もっと良くしていこう!」伊勢の海風が吹く中、三人の挑戦が静かに幕を開けた。
(第1話 終わり)




