ヒーロー候補・D.E.T.O.N.A.T.E.①
ネムネムのいる遊園地、その入り口付近で待ち合わせをした。
それなりにはやく来たつもりだが、既に幸也は到着していた。
周りにいる女性が「どうする? 声かける?」とかそわそわしているのが聞こえる。やべえ。
壁にもたれかかり、少し俯いている幸也はモデルのようだ。絵になりすぎる。
カットモデルどうですかとか、モデル事務所に所属しませんかとか、そういうのに声をかけられる前に、俺が急いで声をかけた。
「というわけでD.E.T.O.N.A.T.E.くんだ、よろしくしてやってくれ」
「聞いてない! 祈さん、俺聞いてないですよ!」
「あれ? 言ってなかったか?」
俺が手を引っ張って連れてきたのは、D.E.T.O.N.A.T.E.だ。
言えば俺の後をついてくるのだろうが、こいつは常にふらふらしていていついなくなるか心配なので、外を歩くときには手をつなぐことにしている。
「最近拾ってヒーローに更生させようとしてんだ、順調だぜ」
アイアンクラッドの更生はもはや不可能と諦めているが、D.E.T.O.N.A.T.E.に関しては非常に順調である。
今日はヒーロースーツの相談に来た。幸也は頭を抱えた。
「うわあーっ、そうか。無意識に自分が特別だと思ってて恥ずかしい。そりゃ俺を気にかけてくれるような人が、俺だけを気にかけてくれてるわけないんだよなーっ」
「幸也、お前それラブコメで言ったら告白と同義だぞ」
「……? 罪の……?」
「いや、懺悔室でやる方ではなく」
ともすれば「俺だけ見てくれ」に変換できなくもないセリフだった。
こいつ、いずれ勘違いした女に刺されるんじゃねえか。
コミュ障やってて友達をつくらないというのは正しい生存戦略だったのかもしれねえ。
「悪ィ、そうか、俺とお前とネムネムだけだと思ってたのか。すっかり言ったかと。知らねえやつがいるとなると緊張するわな、配慮不足だった。すまねえ」
「いえ、それもそうなんですが、連れてきたのが極悪ヴィランであることも問題ですよ」
幸也はじっとD.E.T.O.N.A.T.E.を見つめるが、D.E.T.O.N.A.T.E.の視線は相変わらずあちこちを行ったり来たりしている。
どうせデトネイト構文じゃなきゃ会話は成立しねえんだ。
俺は勝手に幸也に事情を放す。
「こいつデルタに人質取られて、言われるがままにあちこちで爆発しまくってたんだと。別に能力も爆発じゃねえ。ターゲット諸共爆発しても生き延びる術があるだけのやつを人間時限爆弾にしてたわけだ。この度人質を殺されたおかげで自由の身になったから俺が引き取った」
「ちょっと整理する時間もらえます?」
「どうぞ」
幸也は眼鏡を外し、片手で目元を覆った。
しばらくその状態でいたかと思うと、目元を覆ったまま話し出す。
「正直デルタに関しては、正体不明なあまりに悪としてピンと来てなかったんですよ。ヴィランはみんなデルタの手下とか言われてますけど、そうとも限らないし、まずヴィランとして暴れる時点でその人にも責任があるし……そう思ってたのが全部覆された気分です」
「デルタ倒すモチベ上がった?」
「そんな簡単に言っていい感じなんですかね……」
幸也は少し疲れた様子で、眼鏡をかけなおした。
申し訳なくなってきた。事前に言っていたらもっと心の整理ができたんだろう。
マジで言ったと思ってたな、なんだかんだ俺も忙しくて混乱し、色々詰めが甘かったらしい。
「そうだ、お前俺と違って文系だろ。D.E.T.O.N.A.T.E.とうまく喋ってやれるんじゃねえか」
「おかしなこといいますね。文系がみんなコミュニケーションに特化していたら、こんな世の中になってないと思いますよ」
「ごめん」
大学に友達がおらず、週一で俺と食堂で飯が食えるだけで「憧れの大学生活!」とか言っていた人間だ。
そりゃあ、コミュニケーションに特化している、とは間違っても言えないだろう。
俺はD.E.T.O.N.A.T.E.に声をかける。
「できるか? 友達に名前教えてやってくれ」
「D.E.T.O.N.A.T.E., Engineered Tactically Only, Navigates Any Threat Effectively.(デトネイト。戦術的に設計された存在として、どんな脅威にも的確に対処する)」
「やっぱこれが名前なんかなぁ〜そのへんも怪しいんだけど」
D.E.T.O.N.A.T.E.の声を聞いて、幸也は驚愕した。
「喋った! いや当たり前なんでしょうけど」
「ライデンを前にしたお前もこんなもんだったろ、口数」
「えっ俺客観的に見るとこんな感じですか!?」
「そこまでは言ってねえ」
D.E.T.O.N.A.T.E.はピンクの瞳孔をあちこちに走らせて、猫背で、生きているのが不思議なレベルでガリッガリの骨格標本のような男だ。
遊園地に来るのに白衣ではさすがに目立つと適当な服を着せたが、何着ても細すぎるのがわかってしまう。腹にタオルでも巻いてかさ増ししてやれば良かっただろうか。
ともかく、その辺の女の子に声をかけるか迷われる幸也とは全然違う生き物である。屈強な男でも不気味に思って近づかないようにするだろう。警察は寄って来るかもな、職質しに。
「D.E.T.O.N.A.T.E.はこの頭文字になる順番でしか喋れねえし、そう喋ってもらわねえと理解もできねえ。お前英語できる? いや、最近こいつ日本語のローマ字にも対応してることが発覚したから、日本語の方がいいか」
「ははあ、俺よりコミュニケーションに難がある人って珍しいな」
「それで済ますお前の懐の広さに感動してるぜ」
俺が急にこの説明をされたら「は?」となっているだろうが、幸也は一発で把握したようだ。
俺がデトネイト構文と呼んでいるその仕組みさえ、たったの一度本人の口から聞いただけで理解したようで、幸也はこう言ってのけた。
「思ってたより随分温厚な方ですね。もっとこう、Destruction Ensures Total Obliteration, Not Any Trace Escapes.(破壊とは完全な消去、痕跡すら残さない)とか言うのかと思ってました」
「お前デトネイト構文うまっ! 天才?」
「ええっ、生まれ持った才能これですか?」
「文系の力を見せたな、幸也」
「祈さんは文系に夢を見すぎですよ」
D.E.T.O.N.A.T.E.は顔をしかめた。
やべえ、幸也が不穏なこと言ったとこしか聞き取れてねえならそりゃそうだ。
「大丈夫だ友よ、大事にはならん。たぁだのジョークだって」
D.E.T.O.N.A.T.E.は頷いた。
これでもいけんの? 意外と融通効くな。
大根がいけたのでいけるかとは思ったが、実際大丈夫でいけると思わなかった。
多少言い方でD.E.T.O.N.A.T.E.になる部分を強調してやれば、強引な文章でも聞き取れるのかもしれない。
「え、祈さん、今のデトネイト構文になってました?」
「頭文字じゃなくてもいけるっぽいわ、さっき知った」
「頭文字じゃなくとも……」
幸也は顎に手を添え、俺の発言のどこにD.E.T.O.N.A.T.E.が入っていたのか考えている。
「初心者はあいうえお作文みてえに、一文字目をD.E.T.O.N.A.T.E.に合わせてく意識で喋るのが楽だと思うんだよな」
「初心者」
お手本を見せてやるか。俺は少し考えて、D.E.T.O.N.A.T.E.に話しかける。
「大事で
得難き
友、氷室幸也だ。
お前も
仲良く
あれたら
と願うぜ。
永遠とは言わずとも」
ついでに友人を紹介しておく。
D.E.T.O.N.A.T.E.は相変わらず視線を忙しなく動かしながらも、俺の言葉をしっかり聞き、返答した。
「誰にも
得難き
友がいる。
お前にも。
何者にも
有難き
天の導きだ。
永遠ではなくとも」
そのやり取りを聞いて、幸也は言った。
「祈さん、どう考えてもデトネイト構文の天才はあなたです」
「馬鹿野郎、これは才能じゃなくて努力だ」
俺がどれだけD.E.T.O.N.A.T.E.と会話を重ねてきたと思ってんだ。
速攻で適応した幸也を恨めしく思いかけるほどだぞ。
俺だって、D.E.T.O.N.A.T.E.と初めて会ったときでもそれなりに会話が成立したことを思い出してなんとかなったが。
幸也は頭が良過ぎる。ちょっと嫉妬心を覚えてしまうな。




