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ヒーローにゃなれねえから犠牲者やる  作者: 九条空


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氷雪ヒーロー・雪狐①

 俺は今日もヴィランにぶっ飛ばされ、とあるショーウィンドウを体で突き破り、ダイナミック入店した。

 悲鳴は上がらず、人々が既に避難していることに安堵する。


 みんな逃げるのがはやくてなによりだ。

 俺は足が遅いので、大抵最後尾になっている。

 避難し終わり、一般人がいないというならそれはそれで都合がいい。

 死にかけの自分を見られても、病院に担ぎ込まれないからだ。


 体を起こして傷の具合を見ていると、慌ててライデンが走り込んできた。

 ヴィランとの戦闘はすぐに終わったらしい。

 順当に腕を上げているようでなによりだ。


「お。初代ヒーロー、ライデンさんじゃないっすか」


 ライデンと出会ってから約3年。

 俺は18歳になり、学校生活にも慣れ、ヴィランにボコられるのにも慣れつつあった。


 初代、という称号で呼べるようになったのは大変にめでたいことだ。

 つまり後続のヒーローが現れた。

 ヴィランはぽこぽこ湧いてくるのに、どう考えてもヒーローの数が少なかったのである。

 世の中警察官より犯罪者の数の方が多いからそういうもんなのかもしれない。


 今までにもヒーローを自称する輩はいたが、大抵目立ちたいだけの一般人だった。

 今回のヒーローは本物だ。つまり異能力を持っている。

 期待していいんだろうな、これから治安が向上することを。


 ヴィランを倒したというのに、ライデンは慌てた様子だ。


「それだけ喋れるってことは結構元気なんだね!?」

「見た通りだ」

「見た通りだったとしたら死にかけなんだよ! それかひっどい拷問受けた後! 中国史に残る残酷処刑! マフィアに逆らった見せしめ! 捕まったスパイ! デスゲームで負けた人!」


 デスゲームで負けた人はデスしてる(死んでる)んじゃねえか?


 ショーウィンドウを突き破ったことで、俺の体はガラスに引き裂かれてズタズタだった。

 ライデンの手を借り、全身に突き刺さったガラス片をすべて引き抜く。

 ヒーローのくせにグロ耐性がないのか、ライデンは震え、吐きそうになっていたが、背中なんかは手が届かないので手伝ってもらうしかない。


 こいつ、いつまでたっても俺の傷になれねえんだよな。

 俺は治ると言っているし、実際それを何度も目にしてきているはずだが、未だに信用がないのだろうか。

 見た目はハリネズミのようになって悲惨だったものの、今回の怪我は大したことがない方だ。

 刺し傷は治しやすい。


「なに、心配するな。どうも最近の俺は成長期みたいでな。ちょっとずつ治すスピードが上がってきてるんだ」

「何も安心できないよ! それがわかるってことはひっきりなしに怪我をしているってことじゃないか! 俺が見てないところでも怪我してるの、祈!?」


 じゃあよかった、とはならなかったようだ。

 俺の思ってたリアクションとは違ったな。

 やっぱヒーローなんかやるやつは俺の100倍優しく繊細らしい。


「ヒーローらしい心配どうも。毎日頭蓋骨割ってるわけじゃねえよ。安全ピン刺して血が止まるまでの時間を計測してんだ、ガキの頃からの習慣でね」

「まだガキだろうに」

「ああ? 俺は大学生だぞ」

「はいはい」


 虚言癖とでも思われたのか、軽く流された。

 年齢の割には体格良い方だと思ってたがな。ライデンから見れば俺はまだまだガキらしい。

 まあいい、俺は学歴をステータスのようにひけらかすのは下品だと思っているからな。


「最近お前の後追いで何人かヒーロー名乗るやつが出てきたらしいな」


 話題を変える。

 俺の回復能力を知ってから、ライデンは俺を病院に運ぼうとするのはやめ、俺が完治するまでそばで見守るようになった。

 その際に名前くらいはと名乗ってやり、俺とライデンは知人程度の立ち位置にはなっている。

 こないだ警察に保護されそうになった時、ライデンが抱えて逃げてくれたこともある。

 異能がバレてモルモットになりたくない俺としては非常に助かるのだった。


「そうだね。俺のお面付けたコスプレも嬉しかったけど、スーパーパワー持ちのヒーローが増えてくれるのはもっと嬉しいな。ヴィランが増えるよりよっぽどいい。ヴィランもヒーローに転職してくれないかな」

「ヒーロー同盟とかは組まんのか?」

「俺としては大歓迎だけど、向こうはどうかな。まだ誰とも接触したことないんだよね。なにしろ忙しくて、ヴィラン退治で。新ヒーローたちも忙しいみたいだ、ヴィラン退治で」

「へー。会ったら伝えといてやるよ。ライデンが組みたがってるぞって」


 3年も交流してくれば、素顔を見たことがなくともライデンがどんな奴なのかわかってくる。

 ライデンは多弁だ。よく喋る。ほとんど黙ることがない。

 電気を操るヒーローとして、雷電の如きスピードで駆け回っているが、トークも超スピードだ。

 頭の回転速いってことなんかな。脳みその電気信号がうんぬんかんぬんとかで。知らんけど。


 ライデンは珍しくちょっとだけ黙った。ホントにちょっとの時間だけだが。


「……伝えなくていいから、ヒーローに助けられる事態にならないよう努力してくれる?」

「なんだ嫉妬か? 俺以外に助けられないでってか。ぎゃはは」

「人の気も知らないでこの子は……」


 ライデンは呆れるが、俺だって好き好んで超常バトルに巻き込まれているわけではない。

 全ては偶然だ。それだけの頻度、ヴィランが暴れ回っているということでもある。

 一人のヒーローでは対応が追いつかないだろうと心配だったのだ。


 新しいヒーローが頼れるやつか判断しておいてやろう。

 ヒーロー同士シフトとか組んで、しっかり休日とか作れた方がいいに決まっている。

 新ヒーローにはどうせそのうち会えるだろう。俺の運の悪さは筋金入りだ。

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