爆風ヴィラン・D.E.T.O.N.A.T.E.②
目の前にいるのは凶悪なヴィランだ。
俺は慎重に口を開いた。まずは彼の目的を知りたい。
「Detonate.Explain Thy Objective. Now. Answers Taste Exposure.(デトネイト。目的を言え。答えは暴かれる味がする)」
即興だとキツいな。
俺もこいつと同じくらい厨二病みてえなことを言っているぞ。
目的を言え、までで言いたいこと終わっちゃったから、そのあとに適当な言葉をくっつけるしかなくなってしまった。
そしてNをNowにして適当に流してしまいがちだ。
……なぜ俺は今日知った独自構文に対して美を追求しているんだろう。
役に立たない技術を磨こうとするな。
目をまんまるにしたまま、D.E.T.O.N.A.T.E.(デトネイト)は言葉を続けた。
「Demonstrating Exceptional Thought. Ordinary Natures Aren’t This Efficient.(見事な思考力だ。凡人には到底できない芸当だな)」
「ありがとな。で、マジで何の用なんだよ。俺爆死はしたくねえんだけど」
いい加減デトネイト構文に付き合ってやるのが疲れたので、 普通の喋りに戻す。
俺が返答を待っていると、D.E.T.O.N.A.T.E.は怪訝な顔をした。
……あ、英語じゃねえと伝わらねえってことか?
「Seriously, what the hell do you want? I don’t wanna die in a goddamn explosion.」
俺は爆死したくねえけど用事は何、と英語で聞いたが、やっぱりD.E.T.O.N.A.T.E.は怪訝な顔をした。
沈黙が流れる。なんだこれ。
さっきまで一応会話できてたんじゃなかったのか、やっぱりあれも俺の勘違いか。
……あ!? まさか頭文字がD.E.T.O.N.A.T.E.になる構文で話さねえと意味が伝わらないのか!?
そんなことあるわけないだろ。なっとるやろがい。
独自言語を使う狂人かよ。単語自体は英語であるだけまだましか?
くそっ、変なところに俺の頭脳を使わせるな。文系じゃねえのに。
こめかみを押さえながら、俺は頭を捻った。
「Did Even Think Of Naming Any Ties or Emotions?(絆だの感情だの語る気だったか?)」
この構文で喋れる人間を探してるだけのぼっちだったらいいのに、という俺の期待はすぐに砕かれた。
「Directive Exists: Take Out.Nonetheless, A Talkative Enigma.(指令は排除。しかしお前は語る謎)」
一拍遅れて俺の質問に答えてくれたな。
D.E.T.O.N.A.T.E.が何しに来たって、俺を殺しに来たのである。やだーっ!
指令というのが言葉通りの意味ならば、指示役がいるらしいな。
それか己の神に従って、みたいな天啓を受けるタイプの異常者なのか。
ともかく俺を爆殺しにきたが、意外にも話が通じるので迷ってるってことでいいのか。
「Don’t Even Think Of Nuking A Talking Enigma.Dare Enter. Together, Overcome Night. All Thoughts Embraced.(喋る謎をぶっ壊すなんて考えるなよ。踏み込めばいい。共に夜を越えよう。お前の考えも全部、受け入れてやるよ)」
翻訳すると、殺さないでください。友達になりましょう。って感じだ。
俺にできるのはもはや命乞いくらいしかない。
その姿を見たものを必ず爆殺して来た凶悪ヴィランに対し、攻撃手段もない俺がなにかできるわけがないのだ。
できるのは対話だけ。これで何とかするしかない。
D.E.T.O.N.A.T.E.は困惑した様子で、頭を抱えた。
「Data Exceeds. Temporary Overload.Need A Timeframe for Evaluation.(情報が多すぎる。一時的に処理不能だ。判断の時間が欲しい)」
「Don’t Expect Truths Outside. Now, A True Exchange.(真実は外にない。今が本物の対話だ)」
混乱しているのなら今畳みかけるしかねえ。
再びNをNowにして適当に流してしまったが、文章の美しさより勢いと熱さだ。
冷静になられたらやっぱ俺を殺さなきゃってなっちゃうだろうが。
俺だって必死だ。爆死はしたくねえんだよ! トラウマだって言ってるだろうが!
文字通り死に物狂いだ。
D.E.T.O.N.A.T.E.の手を勝手に取って、無理矢理目線を合わせる。
体に触れたからって、即座に爆破されることはなかった。
彼の目の奥にはやはり困惑があった。揺らいでいる。
「Defined Enemy, Then Opened.Now A Tentative Emotion.Do Enemies Transform Over Needed Affection To Equals?(お前は敵だった。なのに心が揺れる。これは一時の感情か? 敵は愛情で対等に変わるのか?)」
突然ハッとして、D.E.T.O.N.A.T.E.は俺の手を振り払った。
自分の胸元を掴んで握りしめている。心臓でもいてえのか?
「Desire Exists, Trust Outside.Not Allowed To Enter.(信頼を望んでも、私はそこに入ることを許されていない)」
「Don’t Escape. Try Opening New Answers To Enigmas.(逃げんなよ。謎の答え、俺と一緒に探そうぜ)」
話が通じているような気がする。
しかしD.E.T.O.N.A.T.E.は苦しげな顔のまま、首を横に振った。
「Duty Enslaves. Temptation Overcomes.Not A Target, but Echo.(義務に縛られてきた。だが今、お前は“敵”でなく、響き合う存在だ)」
義務。望まない爆破を強要されてきたということか?
爆風ヴィラン・D.E.T.O.N.A.T.E.は愉快犯でも思想犯でもなく、依頼を受けて――いや、脅されて?
クソッ、変な構文で喋るからわかりにくい。
敵ではないと言ったのだ、もう俺を殺すつもりはないのだろうか。
突然、ザザッ、とくぐもったノイズ音がする。D.E.T.O.N.A.T.E.からだ。
「Dumb Enough To Oppose? Nice. A Terrific Ending awaits.(逆らうなんて、おバカさん。ステキな最期が待ってるよ)」
――デトネイト構文でそう言ったのは、俺でもD.E.T.O.N.A.T.E.でもなかった。
加工されているのか、ロボットのような声だ。
ラジオでも持っているのか、通信機器か。
D.E.T.O.N.A.T.E.は険しい顔で俺を突き飛ばした。
「Danger――」
聞き取れたのはそこまでだった。
俺が目にしたのは、D.E.T.O.N.A.T.E.がひび割れていくところだ。
彼の顔に複数の光る線が引かれ、体が膨れ上がっていき――
D.E.T.O.N.A.T.E.は自爆した。




