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ヒーローにゃなれねえから犠牲者やる  作者: 九条空


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ネズミ男爵・ラットロード③

 ラットロードは揉手した。


「ついでに駄賃も弾んでくれると嬉しいんでやんすがねえ~」

「俺は奨学金借りてる苦学生だ。あんま無茶言うなよ。ドーナツ無料券ならあるぞ」

「やりい!」


 それでいいんか。俺は財布から取り出したクーポンを渡した。

 ヴィランらしく財布を奪って逃げてくかと思えば、別にそんなこともない。

 ラットロードは心底大事そうにドーナツ無料券を懐にしまった。


「いやあ、無料って自分がやるにははらわたを引き裂くような思いでやんすが、人から無料って言われると小躍りしたくなるんでやんすよ」

「ちょっとわかる」

「ま、おいら目立つんで、たぶんこの券は使えねえんでやんすがね」


 ラットロードは軽く言ったが、これは重い発言だ。


 見た目が変質するタイプの能力者は、相当に生きづらいだろう。

 俺や幸也のように見た目が普通の人間ならば、黙っていれば一般人として生活できる。

 雛のように頑張れば擬態できるタイプも、なんとか馴染める可能性はある。

 しかしラットロードのように常に耳やしっぽが生えていれば、異常であることは一目瞭然だ。


 彼がこれまでにどうやって生きてきたのかはわからない。

 人間らしい生活を送って来れたのか。路地裏でネズミのように生きてきたのか。


 同情する余地は充分にある。

 こいつの人生は俺のものだったのかもしれないのだから。

 異能者、転生者として、そう思わざるを得ない。


「交換してきてやろうか?」

「ええっ!? いいんでやんすかぁ!?」


 俺の提案に、ラットロードは顔を輝かせた。

 こうして見るとかわいく見えてくるな。薄汚れた中年男性への感想とは思えねえが。

 でもネズミだと思えば、うん。

 動物が汚いのは当たり前だ、必死で生きているのだから。


「チョコかかってるやつがいいでやんす!」

「いいよお」


 うん、かわいい。

 世界的キャラクターもネズミだしな。げっ歯類っていいな、癒し成分がある。


「一緒に行くか?」

「本末転倒でやんすよ」

「んじゃここで待ってろ」


 ドーナツデートは断られたので、一人でドーナツ屋に向かう。

 贔屓のドーナツ屋はインフェルナとアイアンクラッドのバトルにより焼失したので、移転したのだ。

 それが前より大学に近づいたので、ラッキーと思っている。


 クーポンを使ってドーナツを1つ貰い、俺も自分用に1つ買った。

 無料って言われてもどうせなにかは買っちゃうんだよな。

 それを狙ってのクーポンなんだろうが。

 ラットロードの商法と同じだ。まずは無料でお試し、気に入ったらどんどん買ってねってこと。


 ドーナツを食べながら大学に戻る。

 逃げているかもと思ったが、ラットロードはその場にいた。

 足が速いと聞いているし、なにかあればすぐに逃げられるのだろう。

 雪狐からも逃げおおせてるわけだしな。俺は雪狐から逃げられなくて氷漬けにされた。


 しかし足が速いってライデンの特技と被ってるな。

 やはり大事なのはスピードなのか。

 こいつは攻撃能力を持っていないようなので、スピードだけでは駄目なんだろう。


 俺はちまちまとドーナツをかじるラットロードを見て、いつかペット飼うならハツカネズミとかハムスターがいいかもな、と思った。

 中年男は飼いたくない。

 いや今自宅にいるんだけど、ギリ中年になってないくらいの男は。


 流石にな〜、2人目はな〜。

 仁も2号がくるなら出ていくと言っていた。

 薬を打って以降体調に問題はなさそうなんだが、もう少し経過観察しておきたいんだよな。


「俺にもっと金があって、住んでる家も広かったら、ウチ来る? って言ってやれんだけどな」


 ラットロードはぎょっとした。

 喜ぶところだろ、ここは。俺は一応美少女で通ってんだぞ。


「随分お人好しなんでやんすねえ、お嬢」

「せめて風呂入ってくか? 接客業に清潔感は大事だぞ」

「水は苦手でやんす」

「苦学生だが流石にお湯は出る」

「温度に関係なく濡れるのが嫌いでやんす」

「最近多いよな、風呂嫌い。これもスマホの普及が原因なんかね。水場だと使いにくいもんな」

「そういう現代っ子みたいな問題でなく、動物的な特性でやんすねえ。猫や犬が洗われるの嫌なのと同じでやんすよ」

「犬や猫と自分を同列にするの、かなりおこがましいぞ」

「あっしはネズミでやんす」

「……ギリおこがましい」

「ええ!?」


 ラットロードはのけ反って驚愕した。

 なんて言ったらいいかな。言葉を考える。


「会話が成立してるんだから、俺はお前を人間だと思っている。お前がネズミの言葉を話せるなら、ネズミたちにとってお前はネズミなんだろう。だが俺にはネズミ語を理解できず、お前がチューチュー言ったところでチューチュー言ってる中年男だ。俺はお前を人間として尊重したいと考えているが、不満か?」


 ラットロードは食べかけのチョコドーナツを取り落した。


 呆然としながら拾い上げ、再びドーナツをかじる。おい。衛生観念。

 拾ったもん食うなよな。胃袋もネズミのように強いのだろうか。

 だったらいいのか? どうなんだ?


 ラットロードが、ネズミから人型に変化したタイプのミュータントであれば、人間扱いは不服だろう。

 人間っぽいネズミか、ネズミっぽい人間か。これは大事な問題だ。


 ネズミ最高! 人間はカス! と思っているのなら、俺の対応は屈辱的なはずだ。

 まあ俺もネズミ最高! 人間はカス! という気持ちはちょっとわかる。

 人間って体毛がないからキモいよな。いやでもハダカデバネズミはかわいいな。

 やっぱ人間って人間なだけでカスだな。人間以外に転生したかったわ。


「……また会いたいと思った人間は初めてでやんすねえ。長生きしてくだせえよ」

「お前もな。寿命は人間とネズミどっちに近いんだ? 人間に近いと良いな、俺もまた会いてえし」


 そう言うと、ラットロードはチチチッと鳴いた。

 だから俺にネズミ語はわからんて。なんて?


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ネズミすぐ死んじゃうからなあ 賢くて懐っこいからよけいに悲しい
姉御お!
やっぱり姉御じゃないか
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