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5.チョコ入りなら、当たりだよ

 久美は、自宅のソファで目を覚ました。


 時計は朝の七時を指している。

 カーテンの隙間から差し込む光が、ぼんやりとまぶしい。


 ――やっぱり夢だったんだ。


 じんわりと、胸の奥に切なさが広がる。


 でも、心は軽かった。

 わだかまりが取れたような、長い旅を終えたような。


「……ありがとね」


 久美はぽつりとそう呟き、立ち上がった。


 そして、冷蔵庫を開ける。


 中には――


 昨日のうちに買っておいた、チョコクリームたい焼きが一つ。

 それを見て、ふっと笑った。


 当たりだ。



 数日が過ぎて、オフィスは活気立っていた。

 新しいプロジェクトの人員発表と、顔合わせミーティングがあるというので、久美も緊張混じりに出社していた。


 ホワイトボードに書かれたスケジュールを確認する。


>「新規共同開発PJ:合同キックオフ MTG」


 「主任! 今回のプロジェクトで良い出会いがあるといいっすね!」


 佐藤くんがニヤついた顔で冷やかしてくる。

 苦笑いで返しつつ、ミーティングルームへ向かった久美は、そこで言葉を失うことになる。


「はじめまして。今回のプロジェクトリーダーを務めます、羽鳥です。よろしくお願いします」


 その声。

 その笑顔。

 名前も、まったく同じだった。


 頭の中が真っ白になっていく──。


 ──休憩中の自販機の前。

 久美が缶コーヒーを取り出していると、佐藤くんが珍しく遠慮がちに質問してきた。


「主任……あのプロジェクトリーダーさんとは、お知り合いですか?」


「……たぶん。幼馴染だと思う」


 小さく笑ってそう答えたとき、背後から声がした。


「やっぱり、中3で転校しちゃった高瀬……だよね?」


 驚いて振り向いた久美に、彼は言った。


「ずっと返事できないまま、こんな歳になっちゃったけど……今度一緒に、たい焼きでもどう?」


 そして、少年のように、いたずらっぽい笑顔を向けた。


 久美の頬が、すこしだけ熱くなった。


「チョコ入りだったら”当たり”、だろ?」


 そして二人は、ほんの少しだけ近づいた。


 まるで、永い間止まっていた時間が、少しずつ動き始めたように。

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