表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/5

4.夢の向こうで、また会えたら

 中学生の羽鳥悠真は、頬を押さえたまま、力尽きたようにベンチに腰を下ろした。


 久美は彼の前にしゃがみこんで、小さく息をついた。


「ほんとはね、私……ずっと、好きだったの」


 虚ろだった少年の瞳に、微かな光が戻った。


「小学校のときからずっと。声をかける勇気もなくて、遠くから見てるだけだったけど……でも、本当に、大好きだった」


 自分でも驚くほど、すらすらと言葉が出てきた。

 十数年分の想いが、音になって流れ出す。


「たい焼きがチョコだったら当たり。そんな自分ルールを決めて……いつか、それを君と分け合える日を夢見ていた」


 くすっと笑って、そっと彼の横に座り直す。


 彼はまだ何も言わない。ただ、紙袋をじっと見つめたまま。


「ねえ……中身、食べてみて。たぶん、それ、当たりだよ」


 久美の言葉に、羽鳥はようやく紙袋を開けた。

 少し冷めたたい焼きを、恐る恐る口に運ぶ。


 もぐ、もぐ。


「……うん。チョコだ」


 そして、ほんのすこし、照れくさそうに笑った。


「やっぱり、変な人だな」


「よく言われるの」


 また、同じやりとり。だけど、今度はちゃんと届いた気がした。


 久美は立ち上がって、空を見上げた。


 遠くから、風の音が聞こえる。葉擦れの音に混じって、白い霧がまた、静かに立ち込めてきていた。


「……あー、そろそろ行かなきゃ」


 久美がつぶやくと、羽鳥が振り向いた。


「どこに?」


「うーん、夢の向こう……かな?」


 曖昧に笑ってごまかす。彼は眉をひそめて、それでも何かを言いかけたようだった。


 けれど、言葉より先に霧がすべてを飲み込んでいった。


 公園も、たい焼きも、そして、少年の姿も。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ