ep6 投影された部屋と魔法道具
顔を見て抱いていた違和感に気づく、諭の顔をしているが僕の知る諭より幼い。
僕の中ではこの頃の諭のイメージが強かった。中学に上がったばかりの頃の顔だ。
よく見たら背格好も違うし、髪も白くて着てる服も和服だ。
白い生地の端に青の三角形の模様が連なっていて、新撰組の青と白を反転した様な袴を着ている。
腰には脇差しと刀を差している。
何でこんなに見た目が違うのに弟だと思い込んでたんだろう。
「何者だ、なぜ敵意を向ける。」
後ろの方から低く大きな声がして振り返る。
ルビさんが警戒して少年に声を掛けたのだ。
ふと後ろの二人の方をみると一定の距離を保って警戒している。
何をそんなに警戒してるんだ?僕には何も感じない…
「敵意か、ルビ それは違うぞ、明らかに殺意を向けている。」
「君たちに害を与えるつもりはないよ、かと言って干渉するつもりもないけど。」
彼らの言葉を受けて 弟に瓜二つの美少年は周囲を見回してからそう言うと部屋の隅に座り込んでしまった。
「―嘘は言っていないわ。わかるもの、彼の言葉は真実よ。」
パイラさんは彼の言ったことを当たり前だというようにルビさんとラズさんを宥めた。
「パイラ君がそう言うなら信じよう。」
ラズさんは、そう言って少年を一瞥する。
最初から何がどうなったか分からなかったので直接本人に聞いてみる事にした。
「ねえ、君。そんなこと言わずにさ、名前を教えてよ。
僕は経優って言うんだけど、君は?」
「無神、それ以上刺激するのはよせ。」
ルビさんが止めてくれるのを他所に少年を見つめ続けると観念したのか、やれやれと立ち上がり名乗った。
「僕の名前か、そうだね、苗字は朱意。
名前は、仁武蒔だ。」
それだけ言って再び座ると寝てしまった。
♢
「経優さん、確かに私は彼の言った事は真実だと言ったわ。けど、信頼できるとは言ってない。私たちはいつ殺されてもおかしくなかったんだから!」
そんな大袈裟なと言おうとしたらルビさんもラズさんも真剣な顔をしている。
そんな危険なことだったのかな。
「無神、無事でよかったな。俺も奴が動けば防ぎきれなかっただろう。」
「経優。君には肝を冷やされたが結果として、余程の事がない限り反撃はない事がわかった。」
やけに みんなに心配されたけど結果往来なのかな。
朱意仁武蒔と名乗った少年を彼らは化け物か祟り神かのように扱っているのはわかる。
事の重大さは結局わかんないけど。
♢
僕たちはラズさんの立ててくれたプランを聞いた。
主に三つ。現状の把握、計画の検証とその実行。
うーん、ムズいなぁ。
学校で総合学習の時間に習ったPDCAサイクルみたいなものかな。
プラン(計画)→ドゥ(Do)…Cは何だったかな…
まあ、ラズさんの言っていることは何となく掴めた。
ようは行動あるのみだろう。
現状の把握には情報が必要だという話になり、僕が彼らにここに飛ばされてきた経緯を話すことになった。
忘れていたが僕以外の全員、記憶が曖昧な状態で 気がつけば目の前に扉があったのだと言う。
僕は今日の出来事を思い出し できるだけ詳細に、必要な部分だけを汲み取るように意識して話す。
地下にあった水晶玉の事。
その水晶玉から白い煙が溢れ出し部屋中を覆った事。
煙が晴れたら真っ白な世界にいて、そこに三色の鳥居と扉があった事。
「それで鳥居をくぐり終えたら体の自由が戻ってね、
振り返ると鳥居が消えてて、あとはみんなと同じかな。」
「鳥居が消えたのは何故かしら、潜っていくと体の不調が治ったりするのも興味深いわね。」
パイラさんはそういうと、顎に手を当てて考え始めた。
「時空間が歪んでいるのは私も確かめて検証したが、鳥居に関しては にわかには信じがたいな。」
「そうだね、僕も鳥居のことは今でも信じられないよ。
何が起きていたのかも説明できないし。」
誰かが仕掛けたものだとしても何の為にやったのか。
仕掛けた側は何の特にもならない。
これじゃあ今のところ僕しか得してないじゃないか。
「無神が元気になったのはいいことだ。俺はそんなに悪い事には思えない。」
ルビさんは首をかしげながらそう言った。
確かにそうなんだが、わからないとモヤモヤが晴れない。
僕にとって わからない事が一番不安になる。
「無神、君が体験した事はこれで全てか?」
「そうだよ、そこからはラズさんが知っての通りだよ」
うーん、進展は無しか、
「朱意君に聞いてみるのはどうかな、彼も記憶があるかもしれないし、」
僕がそう言うとみんなが止めた。
「あなたって人は懲りないわね」
「奴はここにいる全員でかかっても敵う相手ではない。その気になればとうに命はなかっただろう。」
「ルビの言う通りだ、もし反撃が無くても、協力してくれる訳がない。」
やっぱり、朱意君が悪い奴だなんて思えないが。
こんなに危険な人だろうか。
「もう彼に聞こうなんて言わないよ、それはそうとこれからどうするの?」
そう言って話をずらした。この先どうしていけばここから出られるのか知りたかったのもある。
「そうだな、残るは行動するしかないだろう。扉を開けていく。」
ラズさんはそう言うと扉の前に向かった。この部屋には扉が全部で五つある。
さっき朱意君がここに飛ばされて来たのと同時に 扉も出現してるから人数分あるのか。
「最初に私が開ける。もし私に何かあれば別の道を残った者で探してくれ。私だけで済めばいいが こればかりはは先が読めないからな。」
彼は物騒な事を言い扉を開けた。
「これはどうなっているんだ」
扉を開けてもラズさんには何も起きていない。
僕達はすぐに扉の周りに集まった。
確かに不思議な部屋だけど、別におかしな所はない。
「見たことのない部屋のつくりね、これは確かに普通じゃないけれど、今の現象からしたら驚くことじゃないんじゃないかしら」
「俺にはさっぱりだ。」
ラズさんはしばらく考えて不思議だと思う理由を教えてくれた。
「違うんだ。ここは私の住んでいた部屋だ。」
ああ、そうなんだ。凄く珍しい構造の家に住んでいるんだな。
部屋全体がドーム上になっていて、上には天窓が二つある。
正面の壁には機械と椅子が張り付いている。床の奥に縦長穴が開いたり。
人が住むには随分と無駄が多そうだけど。
「間違いない、私の作った航空機は全て覚えている。」
航空機?これ飛行機なのか。正面に見えるのは操縦機なのかな。
「どう言うこと?ここは操縦室ってこと?」
僕は気になってラズさんに聞いてみた。
「ああ、ここは飛行船内のコックピットだ。私が最初に復活させ、墜落した航空機をタイガの木に吊るして住んでいる。
戒めとして忘れないようにな。」
「ごめん、そんな深刻な事を聞いたつもりは無くて…」
「いいんだ、私がそうしたいからしている事だ。」
そう言いつつ部屋の中に入っていく。
「気を落とすこともないわ、本人もそう言ってることなんだし。」
パイラさんはそう言うと部屋に入った。彼女は興味深そうに間取りをみては、間取りや部品などをラズさんに聞いていた。
「すごいわね、こんな場所に住んでみたいわ。これどういう装置なの?」
そんな彼女の適応力には驚かされるがもう一人、ルビさんもこの急展開にはついていけないようだ。
「ルビさん、やっぱり何が起きてるのかさっぱりですよね。」
「ああ、俺には"こうくうき"とやらが何かさっぱりわからん。」
うん、ルビさんは文明の利器には疎そうだもんな。
ラズさんの部屋は何もなかった。寝袋があるだけだ。
その寝袋も殆ど意味が無かった。
というのも、部屋の家具や装飾すべてハリボテというか使えないようになっていた。
舞台のセットのようだ。張り付いているだけで使えない。電気もつかなかった。
窓の外は闇が広がっているのに何故か部屋の中は明るい。やはり常識が通用する所ではないようだ。
「これといった手がかりはなかったな、本来なら下にいけるはずだが、透明な床で塞がれている。」
ラズさんは下へと続くという穴の上で足をコツ、コツとならした。
怖くないのかな、
「とりあえず、全ての扉を開けてみましょうよ。次は私の扉にしてみましょ。」
さっきからパイラさんは上機嫌だった。この状態を楽しめているらしい。
僕達はパイラさんの扉を開けて中をみた。
先ほどとは部屋の印象が全く違っていた。
赤のカーペットに高価そうな西洋の家具が並んでいる。
泊まった事はないけど高級ホテルとか、皇族の寝室だと言われても違和感なく信じられるだろう。
ただ、部屋の豪華さとは裏腹に生活感があった。
床には本の山が積み上がっていて、テーブルには紙の束。
壁には絵や図解が貼られている。
部屋の真ん中に巨体なベットがなければ寝室とは分からなかっただろう。
「すごい部屋だね、研究者の部屋みたいだ。」
僕は部屋に入って本を手に取ろうとしたが張り付いて取れなかった。やっぱりハリボテのようだ。
「そうかしら、ここは殆ど書き込んだ書類やお気に入りの本を置いているだけよ。殆ど寝るだけの部屋だけど。」
彼女はそう言いながらも何処か嬉しそうだった。
凄いな、とても子供の部屋には見えない。
僕らは周囲を調べて見たがやっぱり部屋として機能していなかった。
「俺は役に立てそうにない。全て見たことがないものだ」
ルビさんはそう言うと扉の外で待っている。
扉を止めた途端にまた別の場所に飛ばされでもしたら嫌なので一人は扉を見ていた方がいいだろう。
「ルビ、君は扉の護衛をお願いしたい。何が起こるかわからないからな。見張り役は必要だ。」
ラズさんはそう言いながら部屋を出る。続いたパイラさんと僕も部屋を出た。
「残りは三つの扉だ。これは私の感だが残りの扉の中でも経優と朱意の扉が何かありそうだと思っている。」
僕はそうだよなと頷く。他の二人も同じ意見らしい。
安全だと予想出来る扉の順番で開ける事になった。
ルビさん→僕→朱意君の順。
みんなの意見は素早くまとまった。やっぱりそうなるよね。
♢
ルビさんの扉を開けると想像以上に心にくるものがあった。
言葉が出ず、しばらく立ち尽くした。
今まで訪れた一風変わった部屋の感じとは別物だ。
ラズさんの様な変な構造の冷たい淡白な部屋でも、パイラさんの豪華で生活感があった不思議な部屋でもない。
この部屋を言葉にするなら窓も家具さえもない、殺風景な部屋―
こんなのは牢屋とそうかわりが無いではないか。
「これは部屋なのか、何も無いようだが…」
「ああ、俺の寝室だな。仲間の中では一番広い部屋を使わせてもらっている。」
パイラさんはポカンとしていた。無理もない。
「ルビさん、もういいよ。何もないみたいだし、」
「そうか、毛皮を寝床に敷いているんだが。」
何となくルビさん以外暗い雰囲気になった。
「…次は経優の部屋を見てみるか。」
ラズさんが暗くなってる。ここは僕の部屋で場を和ませてみるか。
僕は扉の前にいって思いっきり開けた。ジャジャーンと効果音が付くぐらい張り切ってみんなに見せる。
途端に僕の部屋が散らかっているのを思い出し、恥ずかしくなった。
「どの部屋も変わってるわね」
「ああ、だがここが一番住みやすそうだな。」
パイラさんとラズさんは感想を言い合って、ルビさんは頷いている。
住みやすいかな、色々と散乱してるはずだけど。
そう思って僕も覗いてみると、誰よりも驚いた。
引きこもりである僕の部屋は殆どゴミ屋敷だったけど、綺麗になってる。
大体、高校入学当時といったところかな。壊れているはずのお気に入りの目覚ましがあるし。
ん?あれは何だろう?
見慣れたはずの部屋には一つだけ見たことのない物が混じっていた。
上下が白と黒のステッキ。買った覚えはない。
「これ、このステッキ僕の部屋には無かったんだけど」
僕は謎のステッキを取り上げると、ラズさんに渡す。
「経優、それ動かせるのか」
「?動かせるも何も、僕も何に使うものなのか分かんないよ。」
ラズさんにしては変な事を…動かせるかだって?ん、動かせる…
「あ、本当だ。ハリボテじゃないね」
「ちょっと私にも見せて…うーん。祭事に使う道具か何かかしら。」
「…俺たちの部屋には手がかりがなかったが 一歩前進、だな」
パイラさんも、ルビさんも、ここにきて進展があり前向きに捉えているようだ。
何かが動きだす流れができて、僕もワクワクした。するともう一つ机の上に羊皮紙がある事に気づいた。
「みんな、こっちに来て、また何かヒントがあったよ。」
僕は彼らを呼んで羊皮紙の巻物を広げてみせた。
こんばんは、石乃岩緒止です。
いつもご愛読ありがとうございます。
最近、執筆していて思う事がありまして。本当に先輩方は凄いなと。書いてみるとしみじみ感じました。
調子のいい時は書けてもまた直ぐに手が止まってしまったりしますし。
休みの日でも一日に良くても3時ぐらいしか集中が続かないので、休みつつやると全然進まないですね。
本当に続けれる人って凄い。モチベーションが続くのも読者の皆様のおかげです。ありがとうございます。
私情を長々とすみません。少しずつではありますが、私も頑張って行きますので、これからも多重世界の先々で〜無神ノ者語り〜をよろしくお願いします。ばいばい