表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/39

ep4 旅立ちの夜

 久しぶりに夢をみた。夢の中で夢だと直ぐに気づいた。


 ―それは現実には絶対に起こり得ない事だったのだが。よくある悪夢だった。


 何故か少し安心さえした。だって小中の友達が当時の姿で囲んでくれてるから。当時の古い教室で―


 その時点で夢だと分かった。夢なのにはっきりと顔が作られていてみんな真顔で絶対言わない事を僕に言ってきた。一人一人。


 実はあの時、お前にこんな事をされて言われて傷ついたと。事務的に告げる。悪夢―なんだと思う。


 余りにも単調に告げるし、びっくりするほど具体的に言うので、悪口とは思えない。


 僕はただただ、黙って友人の顔を見て思った。

 もしかしたら、僕が友達だと思ってた人は仕方なしに付き合って貰ってた人達なのではないか。


 もしそうなら、僕が、勝手に傷ついてるだけで、彼らは何も自分に興味も関心も持っていないと。

 お互いに噛み合うことが無くて、それが悪い事とも大事だとも思ってもいなくて。今はそれが何よりも楽だった。


 だから悪夢なのに馴染んでるし、ここから抜け出したくないと思ってるんだ。自分が何もせずに控えれば全てが上手くいくと、諭されるような気がした。


 もうこの先はいらない。ここで充分。これ以上進んでも(生きても)傷が増えるだけで、癒えも救われもしないなら、ずーとこのまま、閉じこもれれば―


 そう思っていたら、唐突に終わりが訪れる。




 「―無神君――無神君…起きていますか、」


 「うー。はい。起きました。」


 「太打ふとだ先生がお見舞いに来てくれてますよ。」


 寝ぼけていたが、一気に目が覚めた。太打先生、担任の先生だ。


 「入っても構わないか、」


 「はい、大丈夫です…」


 カーテンの開く音がして、先生が左端の椅子に腰をかけた。僕はなぜか生唾を飲んだ。急に緊張して口の中がカラカラになる。


 「大丈夫か、まだ顔色が優れないな」


 僕は体を起こそうとして動いた。枕が高いから手をついて起こせたが直ぐに体勢を崩してしまった。


 「横になったままでいい、北乃先生、ああ、 副担任の風見かざみ先生の方から話は聞いているよ。」


 そうか、この学校には北野先生もいる。まぁ、分かるけど。


 「北乃先生から伝言を預かっていてな、手紙も貰っているから、帰ったら必ず読んでくれ、鞄にしまっておく。」


 僕は"伝言"と聞いてまた頭が痛くなってしまったが、話だけは聞いておこうと思った。


 「北乃先生、無神の事心配していたぞ。俺も直ぐに行きたかったんだが、仕事が立て込んでいてな。

 相談中に具合が悪くなってしまったと、聞いていたが、今は大丈夫なのか。」


 「大丈夫とは言えませんがだいぶよくなりました。それで、なんと言っていましたか?」


 「?ああ、生活に支障が出るほどの障害も克服することが、出来る。得意不得意が、無神の場合は人よりブレが大きい。

 目が悪い人がメガネをかけて生活が豊かになるように、きっと良くなる方法がある。そのためには何に自分は躓いているかを知る必要があったから、と伝える様に言われてな。」


 ―納得できない。


 「これは俺の解釈だが、最も重要なのは一つの事に固執し過ぎない方がいいって事だと思う。」


 「ごめんなさい、意味がいまいち掴めないのですが、」


 先生は関心するよう頷いて、続けた。


 「無神は前に夢を教えてくれただろう。それを叶えるのに道は一つじゃないって事だ。」


 それでもわからないと首を傾げた。


 「先生は無神が素直過ぎるところ―なんて言えばいいのか。」


 しばらく、考えたあとに何か決心をする様にゆっくりとした口調で話した。


 「無神、素直な事はいい事だし、自分の意見をちゃんと持っているのは凄いことだ。それが得意なところなんだ、自信を持っていい。」


 力強く言ってくれるのはありがたいけど、後ろめたさを感じた。


 「そんなことは―捻くれてるじゃないですか、」


 「そんなことはない、捻くれているんじゃなくて、視野が狭まってしまっているから苦しんでしまってる様に見えるんだ。」


 「教育者である俺の言うことではないかもしれない。だが、今の無神を見て思った事がある。」


 そう言われた瞬間に何かが変わる気がした。太打先生は絞り出すように慎重に話しはじめた。


 「先生は無神は夢を叶えられると思う、直ぐには叶わなくても無神なら、やっていけると思っている」


 「進路相談の時、先生に天文学者を考えてると聞いてびっくりしたよ、だが、同時に想像もできたんだ。」


 …僕が天文学者に…


 「今は体の状態が悪いが、高校さえ出てしまえば、何処からでも、選択肢はある。全日制が合わないなら、定時や通信もある。」


 先生、それは、先生に何もいい事が無いはず、、


 少し目を瞑って考えてみた。全く先が真っ暗だった。


 「すみません、決断が出来ないです。」


 先生の言いたい事を理解は出来る。でも、頭は追いついていなかった。


 「何も直ぐに決められる事でもないだろう。何か進展があれば、さとしに言えばいい。諭にはもう伝えてあるから。」


 なんだろうな、面倒見がいいのは北乃先生か、太打先生か、余計な事を考えてしまった。


 もし、どちらに相談をするのか選んでいいなら、断然 太打先生を選びたいと心の底から思った。


 僕は先生が出ていくま背中を見届けて、決意した。


 僕は頭をフル回転して、先程聞いた保健の先生の福井という名前を思い出し読んで事情を話すと、太打先生の下の名前を聞いた。 

 

 本当に情けなく思った。太打 陽助ようすけ先生。ありがとうございます。



            ♢



 時刻は午後5時、ベットで寝てから、2時が経っていた。


 徐々に体が動くようになってくる。


 こんなに心も体もボロボロになることは普段無いけど、夜に動けるようになるのは、いつも通りだった。


 僕は今一度、保健の先生にお礼を言って帰ろうとした。 


 保健室から出ようと取っ手に手おいたら、何故か涙がタラタラと流れ落ちる。


 「無神君、無理はしちゃだめよ、もう少し安静にして、保護者の方に迎えに来て貰う方がいいんじゃない。」


 「ありがとうございます。けど、大丈夫です。元気になったので、

 それに自転車で来ていますから、」


 保健の先生は最初は迎えを呼ぶように促したが、頑固として引かずにいると、僕の鞄を持ってきてくれた。


 そういえば、鞄、忘れてた。隣りの教室から取ってきてくれてたんだ。


 「ありがとうございます。」


 「自転車で帰るなら、裏から出て行った方が早いわ、上履きを貸して、2年1組の28番だったわね、」


 凄い良くしてくれるな、そんなに大したことないのに、申し訳ない…


 保健室の裏側は客の駐車場と繋がっていて、校門も直ぐ近くにある。僕はB1階と呼んでいるのは実は一階に当たる階で、二階より上から、教室や職員室がある。


 下駄箱も二階にあった。モダン建築だからか、この校舎が特殊だからか、どちらにせよ間際らわしい。


 「なんだか申し訳ないです。えーと、福井先生、もう一人の、先生のお名前って、」


 「え、ああ、鈴木先生よ、」


 「ありがとうございます。先ほども聞いてしまって、」


 うん…少しの間なら頭に入れておける。


 「さっき、鈴木先生と話してた時に、2年の1組って聞こえできたんですが、この時期からもう大学勉強してるのよね。無理して頑張り過ぎないようにね。」


 「いえ、全然ですよ…でも何故大学の事を、太打先生との話聞いたとか、」


 悪気はなかったが、盗み聞きを疑われたと思ったのか、慌てて手を振り気を使わせてしまった。


 「いいえ!そんな盗み聞きなんてことは!ほら、無神君は1組ってことは進学クラスだから、無神君も目指しているものだと思ったの。」


 ついつい自嘲気味に笑ってしまう。有名な国立大学に行こうって人間が、勉強も学習も手につかないのだから。


 「全然、そんなことはないです。勉強に身が入らないどころか教科書や参考書はここ何ヶ月か触れてません。」


 「…そう、今は出来ないかもしれないけれど、体調を整えて元気になれば、」


 「…なんだかすみません。」



             ♢


             ♢


             ♢


 

 長い1日だった。鈴木先生にお礼を言って裏手から出た。


 帰るまでが登校。すっかり空が暗くなっていた。


 やはり、夜になるとずっと不安な気持ちが強くなる。


 とはいえ、昼間寝たのもあり眠気が全くない、その代わりに耳鳴りとぽっかりと穴の空いた心だったり、煩わしさや憂鬱度が増していった。


 自転車を走らせた頃には日が沈み始めていたが、反対に月が顔を出し始めた。


 海道にで大きなトラックとすれ違った。気を抜けば身を投げだしたくなってしまう自分がいる。


 夜の海はいつもより、怖く感じた。何処かに連れ去られるなんて考えたら嫌だなと思った。


 怖い、そう怖いのだ、包丁を持って首筋に当てようとか

胸に当てがって倒れ込もうと考えただけで、考えただけで怖くて…失うものなんてないだろ…


 気づくと玄関の前にいた、ベットに倒れ込む。


 ふと太打先生に貰った手紙を思い出して、鞄から取り出して読む。


 気になってしまってるし、どうしても読まなくちゃいけない気がする…


 読んでみると、殆どが補修のプリントとそれぞれの教科の単位を与える条件と課題について、


 最後の紙には直筆の手紙が書かれていた。

 

"今日のカウンセリングで何を伝えたかったのか、それはトラウマを克服すれば、あなたなら社会で上手くやっていけるということです。"


 今日の事が既にトラウマなんだけど…


 北乃先生流のメガネの話の後、とんでもない文が書かれていた。


"私は正直、天文学者には無神君はなれないと思います。

無神君が去年の図書感想文にあった本を読みましたが、著者の学者さんの様にあなたはなれない。"


 あまりの気持ちの悪さに吐き気がした。僕が感動した本を否定された。


 科学者になる若者達に書いた本は勉強だけでは決まらないと、教えてくれた本。

 

 心の支えをめちゃくちゃにされた。


 もう死のう、死にたい。


 ブー、ブー、


 携帯から電話が鳴っている。


 "さとし"


 ―緑のマークをスワイプして、耳に押し付ける。


 「さとし、今までごめん。僕、死のうと思う」


 「何があった…兄貴、無理すんなよ。一回深呼吸しろ」


 「もう、いいよ、どうでもいい。」


 「―経優、人に優しく出来る奴が自分をいじめるなよ。

  前に自傷してるの見つけた時、すっごい悲しかった。

  

  死なないでくれよ。お前の心配する仲間は多い。置い   

  て行かれる方の気持ちもわかってくれ。」


 ポタポタと塩っぱい水が溢れていた。言われても自分を責める事をやめれない。


 ひとしきり泣き終わるのを待ってさとしが、心配するように声をかけた。


 「経優、昔から俺は凄いと思ってたんだ。兄貴ならきっと変えられるはずだ。


 何か兄貴には強い守護霊がついている気がするんだ。だから大丈夫、なんとかなるはずだ。」

 

 不思議だ。さとしらしくない。普段スピリチュアルな事なんて言ったためしが無いのに、慰めてくれてるのか。


 「わかった、なんか安心したよ、たまには家の神様にお祈りでもしようかな。」


 「ああ、じゃあ、俺は部活が終わったら直ぐ帰るから、死ぬなよ経優。」


 プー、プー


 諭は僕が礼を言う前に切ってしまった。なんか不思議だったな。





 この家には秘密がある。といっても大層な話ではなくて、子供の頃から、秘密基地と称して遊んでた地下室がある。


 スリッパに履き替えると地下に通じる扉を開ける。

 昔ド◯えもんの秘密道具に"どこでもマド"という、どこでもドアの小型版があってそれにすごく似ている。


 入るとつめたい風が湧き上がってくる。スリッパに履き替えて、階段を降りる。


 直ぐに地べたに着いてびっくりした。子供の頃は永遠に続いている様に感じたのに。地下の明かりを付けると埃が舞っている。


 お目当てのものは部屋の片隅に追いやられていた。


 「…懐かしいな、子供の頃は地球の様に大きく見えたのに、こんなに埃を被って―」


 球体を擦ると息を呑むほど綺麗な

 表面が露わになった。


 透き通るように浄らかで、人を惹きつける神秘的な魅力があった。巨大な水晶玉。


 あれ、こんな煙みたいのが中に入っていたっけ?


 前に見た時は確かになかったのに。


 白い煙が渦巻いて見えるのは僕が疲れてるからだよね。


 水晶玉は答えるように煙を生み出しモクモクと溢れ出し始めた。


 狭い地下室が白い煙で満たされるのにそんなに時間はかからなかった。


 僕は何が起こったのか分からないまま、意識が真っ白な煙の中に取り込まれた。


 その日一人の青年は存在ごとこの世から消えた。



            ♢



            ♢



            ♢


 

 僕は完全に忘れていた記憶が一気にフラッシュバックして、膝を抱えていた。


 何で今まで忘れていたんだろう。

 ただ時間が流れて冷静になってくると、今の状況を別に大したことはないなと思えるようになった。


 よし、とりあえず頬をつねると普通に痛かった。


 「イテテ、現実におきてることなのか…」


 自分が夢の中にいるのかもしれないと試してみたものの、痛みは本物だし。


 再び立ち上がると、カラフルな鳥居と向き合った。


 縦一列に赤、黄、青と並んでいる。


 一番目の赤の鳥居に触れてみる。


 冷たい― やっぱり石造りになってる。


 ふと鳥居を横から見ようとしたら、壁にぶつかった。


 「何これ、触れても感触がない。」


 ここでピエロがやってるようなパントマイム(見えない壁)やったら凄い上手くできそう。


 鳥居は結界としての役割もあるって聞いた事があるし、進めないような心理現象か何かかも。


 そう思って、鞄を背負っていた事を思い出して、ペンを取り出し投げてみる。


 ペンは壁に当たった時と同じく、跳ね返り落ちた。


 うーん。当たった音がしないのは気になるけど、物理的に壁があるんだ。そういえば足音も鳴らない。


 「何かワクワクする―」


 普通は気が変になりそうな無音の環境は、今の僕にとって苦にならなかった。


 「けど、普通に困ったな。このままだと、水も食料もないし…」


 お腹がクゥーと鳴って、喉はカラカラだった。水だけでも飲めばよかった。


 どうしようかな、鳥居をくぐるのは抵抗がある。全て試しておきたい。


 僕は90度回れ右して歩いてみることにした。何となくだけど、小さな惑星かもしれないし。


 期待して歩いていくと何もないはずの場所から太陽が登るように鳥居が現れて元の場所に戻った。


 極々小さな惑星みたいだ、一キロもない。300メートル歩かないくらいで戻ってこれた。


 しかも、鳥居の順番もその奥のドアの装飾も変わらずに…


 おかしいな、もし球体の上を回ればドアが一番手前にくる。


 今度は鞄を床に置いてもう一度反対方向へ走ると僕の鞄が置いてあった。


 「ハァ、ハァ、同じような違う場所ということではないと、」


 久々に走ってみてすぐ後悔した。めっちゃきつい。引きこもってずっとベッドでゴロゴロしながらスマホをしてた付けがきたのかな。


 息を整えてから、鳥居の右側に鞄を置いて、今度は鳥居を正面からみて左回りに透明な壁伝いに回ってみる。


 しばらくして、同じ様に鳥居が出現した。


 ここはどうやら球体でいいらしい。鳥居の右手に僕の鞄が置いてあった。

 


 うーん、横方向だと、3次元になって、後ろに行くと異次元で元の位置に戻ってくる。


 やっぱり。鳥居をくぐれば縦方向は異次元の様になってるんじゃ。


 やってみよ。


 僕は鳥居の左側に手を通そうとした。だけど、透明な壁があった。


 もしかしてそもそも通れない?


 右側も試してみるも見えない壁に遮られる。


 うーん。鳥居って、左通路が人、右は獣が、真ん中は神様が通るって決められてた気がする。

 

 左右は本当に合ってるか自信はないけど、真ん中が神様なのは間違え様がない。


 急に怖くなって鞄を投げ入れてみようと思った。また何処かへ飛ばされては敵わない。


 鞄は勢いよく垂直に勢い良く飛んでドアに音を立ててぶつかった。


 「え、そんな強く投げてないのに、」


 けど少なくとも物は通っても何ともない。


 うーんどうしよう。どうなるか知りたい。


 僕は手を潜らせてみた。通ってる、やっぱり入れってことなのか。


 手を引いてみようとした瞬間引き抜けなくなっている事に気がついた。


 「えっ。抜けない。」


 ピクリともしない、引き替えせないんだ。


 「入るしかないのか、」


 僕は覚悟を決めて足を踏み出した。

おはようございます。石乃岩緒止いしのいわおとです。いつもご愛読ありがとうございます。


 何とか、エピローグの場面に戻ってこれて内心ほっとしてます。


 いよいよ神隠し編も終盤に差し掛かってまいりました。

 書き溜めていたエピソードはこれで投稿しきってしまいましたが、土日で書き上げてしまおうと思います。

これからも多重世界の先々で〜無神ノ者語り〜をよろしくお願いします。面白かったなと思って貰える様に頑張ります。バイバイ

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ