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ep3 アンカウンセリング

 「よろしくお願いします。」


 僕は自分を騙して嘘をつくのが嫌いだった。いつわる事はもっと苦手だと思う。


 北乃先生はまっすぐに目を覗き込んだ後ノートに目を落として話し始めた。


 「今回はちゃんときてくれて安心しましたよ。前回は何故来なかったんですか。」


「それは何度も伝えたはずですが、

 僕は精神科の先生に診てもらっていますし、行かないという意思は伝えたからです」


 しばらくノートをペラペラとめくり指でなぞりながら、続けて言った。


「私の伝え方の問題でしょうか、

 あなたは以前、市の運営している鑑別診断(精神検査)を受けてアスペルガー症の傾向が診られると診断が出ましたね。」


 さらにページをめくりながら読み上げる。


「簡潔にいえば、人や社会に対して消極的で、関わろうとしない。」


 …うーん。


「完璧主義な事から、興味のないことに関心を全く持てない代わりに自分の興味の向く分野には専門家並みに博識だという。

 あなたの場合、グレーなので人とのコミニケーションにおいて、微妙なニュアンスや冗談が通じなかったり、と言った所ですね。なので――」


 ―自分でも調べた事と一応同じだ。


 アスペルガー症は自閉症スペクトラム症(ASD)のうちの一つで、10人に一人の割合なので、クラスに一人はいるかもしれない。


 というのも近年になって、症状が強く出ている場合には、国による援助の対象になり施設に集められる(あくまで自主制)場合もある。


 そのために日常生活に支障が出る程の精神障害を抱えた生徒を多くの学校で見かける事は少なくない。(明らかに会ってみると個性的で直ぐにわかる)


 だから、義務教育の前段階の幼児期に分かり、その人にあった(これも曖昧だか)環境にひとまとめにされるから交流の機会も少ない。


 義務教育に付いていけている時点で発達障害である可能性はかなり低く、あったとしても軽度グレーゾーンだ。


 何度か交流をする機会があり、めちゃくちゃ絵がうまかったり、好きなアニメのセリフやナレーターのナレーションを一字一句、暗唱して見せたりもした。


 僕が出会った人達は皆凄いと思ったし、感覚の合う人ばかりだった。


 というのも、僕自身が黒に限りなく近いグレーという、中度か軽度かの紙一重に在るらしい…


 この学校は偏差値が低めで、特にそう言った生徒(北乃先生に言わせればだが…)が多いらしいのだ。


 これには、目の前の先生の偏見もあるにしろ、何かしら社会で生きていくのが難しい生徒が多いのかもしれない。正直、ど偏見だと思うが。


 「――ですから、いい所も悪い所もある、それは人間なら誰しも長短があるのも確かです。」


 ふと巡らした思考から戻ってくると、先生が顔を顰めているのに気がつく。顔に出ちゃってたのかな。


 「あなたの場合、気をつければコミニケーション能力も身につけれるはずです。コミニケーション講座に参加して頑張っていたのですから、健全に努力して直すべき事です。」


「……―僕は…」


 コミニケーション講座―名ばかりの雑談。


 好きなものを話す場で僕は号泣した―それを知った上で―。


「…自閉症は病気ではありません。一つの個性です。直すという発想こそ歪んでると思います」


 あーあ、言ってしまった。もういいや、どうなったって。


「何も病気とは言っていません。やれば出来ると言っているだけです。日常生活の上で不憫な目に遭わないために言っているのです。」


 先生は驚いた後に声を荒げて訂正した、いや、変わってはいない。そう言った後に何やらノートに書き込んでいる。


「もっと簡単に言わなければなりませんか、あなたはそうは思ってないかもしれないけど、社会に出て上手くやっていけません。

 溶け込めない何処ろか大勢の人に迷惑をかけかねないのよ。」


 先生はペンを置いて睨む勢いで、(睨んではないだろうが)顔を覗き込む。


 ああ、そうか。この人、僕と離して話をしてるのかな。


 鼻から僕を知ろうとしていないのかも、ずっと勘違いしてた。


 自分の発言は書かずに相手の言葉尻を書き留めてるんだ。人のためではなくて自分が可愛いのだ。


 「先生、先程安藤さんに対してもそう仰っていたじゃないですか、彼女のどこが人を困らせるんです?」


 「あなたは彼女が何も問題がないのに、私が指導をしていると思っていたのね、彼女と話したことは?」


 「ないです、席も離れていますし特に関わることはありませんでしたが、、」


 「彼女はクラスメイトと話せないのです。」


 「―それのどこが悪いんですか。」


 先生はキョトンとしたあと、わからないとばかりに眉をひそめる。


 「学校生活の中で殆ど人とコミニケーションを取れないことは、充分に不健全と言えることです。」 


 今度は僕の眉がハの字になったことだろう。何一つとして問題なんてないだろう。

 僕はうーんと、額をポンポン手で叩く。


 どう考えてもプライベートなことに介入し過ぎている。過干渉にも程がある。


 「うーん、わからないです。人前で話せないというのは思春期の多感な時期ならむしろ健全ですし、生まれつき舌が回らない人もいます。

 先生も 彼らは皆健全という認識をするはずですよね。」


「…しかし、それは正論であって世の中通用しません。」


 これは平行線だな…


 「学校という場所に来ている以上は人と話せなくては支障が出ますし、他の生徒の学習の足を引っ張ってしまっています。」


 「そんな考え方の上では、やがて優秀な出来る人でなければ学校生活はままならない事になって極端な話、蹴落としあい監視し合う。


 先生のやっていることは選別し、ふるいにかけているのと変わらないですね。」


 「何が問題があるとでも?私の目指す教育は互いに競い合い切磋琢磨して勉強の意義や意欲を得れる場所です。


 むしろ、積極的に自分のクラスや学年の順位を一人一人が自覚してランキング形式にするべきです。」


「僕は競争が嫌いです。楽しめる人はどれだけいるか。絶対嫌ですねそんな世界は―」


 そんなつまらないことを…大半が不幸になっていくのは目に見えてるのに…


 「もう、先生のカウンセリングは辞めたいです。以前もお話しした様に、僕はもう精神科の専門の先生に観て貰ってますし、」


それに精神科の先生からは嫌なら無理に学校のカウンセリングを受けなくていい事、


 むしろ原因が学校にあるから本人の意思や学校側の意見に関わらず離して診療を受ける様に言われたと何度も伝えているのに…


「そんなに私を信用してくれないのですか、私が精神科医の資格を持っていないから?私はあなたのことをあなたよりも、誰よりも知っています。全て分かっているのよ。」


 もう、何といえばいいのか、自閉症スペクトラムの事を知らないのかな。

 完璧主義な人からすれば、どんなに知ろうと全て分かった。ってならないし、そんな万能なのは神様ぐらいだろう。


 プライドが高くて上手くいかないと、周囲を取り込む為に自分を誇示する…精神的に不安定になりやすいのは、自分だけじゃないみたいだ。



 こういうことを考えてしまう僕は社会不適合な部分なんだろうな。嫌でも自分のダメなところが分かる…


 「先生、あまり言いたくないですが、今の医療では、自閉症スペクトラムは治らないんです。

 治せたとしても一時的なものです。脳に微量の電気を流してコミニケーション(心が繋がる)能力を叩き起こすという事は出来ますが効果は長くて1週間ほどで、人によっては2、3時間で元の状態に戻ってしまうんです。」


 「それに先生にはお伝えしていませんでしたが、前回の精神科の診療で、自律神経失調症と診断されたんです。

 先生は僕を観て治してしまえると断言していましたが、すみません。僕は精神科の先生に観てもらいたいんです。」


「分かりました。ですが、あなたが集団から孤立してしまうことは周りに迷惑をかけてしまっているのだと自覚しなさい。

 これはあなただけの問題ではない。もう既に"逃げる"のは通用しないということを今から実例を踏まえて説明します。」


 逆鱗に触れたのかなぁ。明らかに今までと違う雰囲気モードだ。


 「まず、これから話をします。もう一ヶ月も前になりますが」


 紙の音がやけに大きく聞こえてくる。


 物的証拠とでも言いたげなその音に不信感を覚える。


 「あなたが前回出席した私の授業での事で、伝えておきたい事があります。」


 「問題なのはやはり、ペア活動をしている最中、忘れ物が多くて課題に取り組む時間が減ってしまったというクレームです。心当たりがあるのではないですか。」


 「全くありません。英語は苦手ですが、積極的に取り組めているし、周りの人に助けて貰ってますから。」


 普段からそんな自分のした事に困っている人は見たことも聞いたこともない。


 これは明らかに言いがかりだ。余りにもピンポイント過ぎるクレームに呆れはするが、真に受けるのは幼児ぐらいだろう。


 「やはり分かってはいないようね、

 本来なら誰に迷惑を掛けているかは自覚があるものだから、教えてくれた人の名前は伏せる(匿名にする)ものですが言わないと伝わらないのよね。」


 全く何を言いたいのか、分からなかったので頷く。


 だが、さすがに先生が呆れているのはわかった。


「…隣の席の椒塩しょうえん君は知っているでしょう。彼なのよ、伝えてくれたのは」


 2年も同じクラスのメンバーと過ごしてきて顔と名前が一致する人は46人いる中でも6人ぐらいしかいない、

 彼は聞いて直ぐに顔が思い出せる友達、の一人だ…


 一気に体が重くなり目が回って上手く焦点が定まらない。


 「知っています、ですが彼が本当に迷惑だと言ったのですか。」


 僕は既にテーブルの中央に視点を合わせるだけで、精一杯だった。


 そんな僕の様子を気に止めず先生は喋りだす。


 『ええ、あなたが学校に来なくなる前から学習に支障が出ていると、言っています。

 ――ありますが、――ではまともに授業にならないと』


 先生の声が遠くから聞こえてくる。

 頭の中でエコーがかかったように、脳に、直接、ダメージを負って、それでも声が止まない。


 『―これでは貴重なリスニングをやる際いつも無神君の面倒を観ることになって迷惑していると―』


 僕は彼の心の声を汲み取ることが出来ていなかった―


 たまに顔を出したかと思えば足を引っ張り、時間を奪いのうのうとして負担をかけ続けていたのか、


 僕のせいだ― 人の細かい視線や表情、声色が分からないから、、


 『他の授業のことは ―先生方から頻繁に重要なプリントを忘れて――

他の大勢の生徒に

――あなたは分かっていなかったでしょう。』


 目の前が歪んで視界の真ん中の一点に吸い込まれる、視界が赤色に染まった。


 僕はここに居てはいけないと思い。立ち上がった。


 後ろで何かが倒れる音がした。


 来た道を辿っていけば安全なところに行ける。


 よろめきながらドアを開けて壁伝いに歩き始めた時、足から崩れ落ち、意識が飛んだ。





 僕はベットの上で横になっていた。視界は元に戻っていたが、体が金縛りになってピクリとも動かない。


 体中痛かったが何より何もかも無くなってしまう事の方が怖かったので、痛みを感じ取れる事が自分が有る証明になった。


 あれからどうなったんだろう。とにかく今起きている事を知りたい。


 「すみません。どなたかいませんか。」


 声が掠れてガラガラに枯れていたが、届いたのか、カーテンが開いて保険の先生が顔を出す。


 「無神君、起きたのね。まだ顔が真っ青だわ、そのままでいいから体温計は測れる?」


 「すみません動けなくて―」


 「謝ることはないのよ、今持ってくるから、少し待って。」


 そういうと、直ぐに体温計を持ってきて口に食われた。


 初めてこうやって測るな、これでテンションが上がるとか、ほんと変わってるかも…


「31.5度…普段の体温は分かる?」


 「36.7度ぐらいです。」


 「―寒くない?直ぐに湯たんぽを用意します。福衣先生、手袋をさせてあげて、」


 「はい。」


 そこで初めて視界の端にもう一人、保険の先生がいる事に気づいた。2人いたんだ、知らなかった。


 福衣先生と呼ばれた先生は手袋をさせてくれた。僕が申し訳ないと思っているのを察してか、声をかけてくれた。


 「大丈夫よ、少し体温が低いから体を温めて安静にすれば治るわ。 汗はかいてない?首元寒いとか、何んでも言ってね、」


 「ありがとうございます。汗も書いてないし、首元も大丈夫です。ご迷惑をお掛けして…」


 「大丈夫、仕事ですし、迷惑なんて思っていないわ」


 そう言って手袋を手際よく付けてくれた。


 なんか、あったかいな、

 壊れたと思った心が温まるのを感じた。


 その後しばらくして湯たんぽを持ってきてくれた。体を横に出来るか訊かれたので、出来ないというとラッコの様にお腹に乗せる事になった。


 「体は起こせなくても水分を取らないと、ポ◯リでいいかしら?」


 「はい、」


 「今日お水はちゃんと飲みましたか、朝食は取りましたか、お腹は空いてない?」


 そういえば、朝から水も殆ど飲んでないし、何も食べずに来ちゃったからな…


 「朝から何も口にしていません。水も…」


 保険の先生はびっくりしていた。だが、優しく怒ってくれた。 

 食欲が無くても水はきちんと飲む様に言って最後に安静にするように告げると、カーテンを閉めて仕事に戻っていった。


 僕はポ◯リをなんとか飲んで、気絶する様に寝た。

こんばんは、石乃岩緒止いしのいわおとです。

いつもご愛読ありがとうございます。

 今日のエピソードは辛い場面が多くなってしまいすみません。

 今回のエピソードは個人的に思い入れがありまして、お気づきの方も多いと思われますが、このお話は実体験を元に書いてみたもので、

 つい感情的になって力が入ってしまった部分もありますが大目にみていただけると嬉しいです。

 次回はエピローグのシーンまで戻ってくるので お楽しみに 

 よろしければブックマーク、高評価、コメントを頂けると嬉しいです。ばいばい

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