体の耐久性
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こうして、マラカイトの応急手当てが終わった。
全治3週間というので、たいしたことないと思ったが 心の中のルビによれば、重症なのだという。
コランダム族を含め、この世界の人は血を流すような怪我は 致命的なことだった。
というのも、ここハーラの大地に生きる人間の肌は アフリカにいるサイ並に分厚く、硬い。
ルビ曰く ( 鋭利なナイフも肌を切り裂くことはない)らしい。
ここの人たちは 鈍器のようなもので殴られない限り、ダメージ(怪我)は負わないのだ。
…これを聞いてゾッとした。だって、素っ裸で重装備を着てるのと同じじゃないか…
…この例えは はちゃめちゃで、脳がバグる(逝かれる)かと思うぐらい僕は 驚いた。
だって、外見は変わったところないし、手で触れた時も感触おかしなところなんて無かったのに。
じゃあ、なんであんなに切り傷があったの?分厚いし、めったなことではダメージがないんでしょ?
( それがそうでもない。俺たちには硬度の他にもう一つ靭性という性質を持っている。)
マラカイトのいる治療室で彼が眠りにつくのを見守ってから、僕は自室でくつろぐことに。
そのうち自然とマラカイトの話しになり、今こうして休むつもりが気づけばルビに疑問をぶつけていた。
じゃあ、その"じんせい"?ってやつが、マラカイトが重症を負った要因になっちゃったんだね。
( …マラカイトの硬度4と半分という数は、低すぎるというわけではない。ただ、生まれつき脆い…)
ルビは 言いにくそうにそう告げた。
脆い。そう聞くと、彼の裏拳の後に血と一緒にボロボロと何かが落ちていたような…
てっきり、4.5…4と半分って値は低い方かなって思ってたよ。
( すまん、経優。言い方だ。硬度4と半分は低くないんだ。お前の肌ぐらいが低いと呼ばれる境界だな。)
さっきから、話が掴めない。
僕は そんな数字(硬度)がなんだって 人を見下すようなことしないよ?
( …ああ。わかった。わかりやすいようにフロウの硬度は"4"なんだ。マラカイトはフロウより[硬度が]高い)
え!じゃあ、フロウよりマラカイトの方が強いの?
そういうと彼の悲しそうな心の波長が伝わってきた。
うう、ごめん。悪気はないんだ。
( 経優が謝ることはない。一週間も心を共にすればお前の人となりはわかっている。…)
彼は一呼吸おくと、僕にもわかるように話してくれた。
(…そうだな。さっき話した靭性の話をしよう。一言で言えば、頑丈さだ。)
彼は そういうと詳細を話した。
一度どこかで聞いたことがある話だった。
噛み砕いて言ってしまえば、物は叩けば壊れる。
硬度が10の(最も硬い)ダイヤモンドも、ハンマーで何度も叩けば割れる。そんな話。
( 俺たちは肌の硬さの他に、頑丈さも確かめる。)
そうか、聞いたところだと
硬度の高さは 攻撃と防御のステータスに関係してる。
その他にも靭性という名前のHPみたいのもある。
その限界値(HP)を超える攻撃は 致命的なダメージになる。
と、そういうことか
うーん…
( 本来なら、硬度が高ければ 繋がって靭性も高くなる。)
?じゃあ、かなりシビア(鬼畜仕様)だね。
その法則でいけば フロウは マラカイト以上にHPが低くなるんでしょ?スピネルのパンチで粉々じゃないか。
( …マラカイトは靭性が[硬度のわりに]極端に低いんだ。特に脆い者は 脆弱と言われる…)
…そうだったんだ。
( そうだな。体感だが、マカカイトは経優と同じぐらいの靭性だろうな。しかし…)
しかし何?
( …経優の場合は[肌が]割れないで裂けるのだな。)
…そりゃ普通の人間(異世界人)だからだよ。
昼過ぎに、食堂にいった。何となく、水が飲みたくなったのだ。
心の中で、ルビに聞いたら 冷たい水は 食堂(広間)に行けば飲めると言っていた。
部屋にあるのは1週間も前の水だ。
「おう!経優じゃねえか!隣りいいか?」
「こんにちは、アンドル。どうぞ」
満面の笑みを浮かべて隣りに座ったのは アンドルだ。
彼の笑顔はずるい。
とても嫌とは言えなくさせるのだから。
「あんちゃんは 眠くねぇのか?ルビのやつは眠てぇと言って つれなくてよ。」
「へぇ。そうなんだ」
あんちゃんって…アンドルの方が年上だよね…
「しょうがねえんで、ガキどもの様子でもみようとな。立ち寄ったわけよ。ルビが来てくれりゃあな。」
「そりゃ、アンドル。しかないよ。ルビは夜通し、マラカイトの側にいたんだもの。」
そういうとアンドルは いけねぇと手をおでこに当てた
「あー悪るいな。スピネルのやつに俺から言っとくか。」
「え?スピネル?ああ、マラカイトは重症かもしれないけどちゃんと治るから。」
「そっかぁ。あんがとな。よかったぜ。俺は あん時、ぐるぐる部屋ん中を回ってるので手一杯だったんだぜ?」
笑顔で背中を軽く叩かれて困惑した。
なんでこの人嘘ついてるんだ?
うーん。それに わざとらしいのは気のせいか?
さっきから、本心を言ってない気がする。
( アンドルは周囲を和ませるために、わざとバカを演じている。)
そうなんだ。よかった。
やっぱり頭のいい人なんだね。ちょっと落ち着けたよ。
「そんで、マラカイトの容体は どうなんだ。やっぱり重てぇのか。」
「貧血が酷いけど、全治3週間だって。 フロウが言ってた。」
そうなのか、と相槌をいれた。
あんまり驚いてなさそう。
「今日な。クリスがお見舞いに行ったんだが。控えるようにフロウに言われたらしくてな。」
「まだ、起き上がることが出来ないから。もう1日空けるのがいいかもしれないね。」
そう返すと、感心するように頷いた。
「お前さん、フロウの助手に向くかもな。」
「いいえ、まったく。彼の下では 体がもちません。」
「そうか!そうだよな。」
彼はそう言って高笑いした。
読めん。この人、どういう原理で動いてるのか。
( 俺は フロウと経優は 互いに分かり合える仲になると思っていたが、違ったか?)
フロウには いつも値踏みされている感じがして、気が休まらないよ。
( そうか。)
特に僕にはプレッシャーを放ってる。
けど、正直なところ 警戒されない方が僕は困惑しちゃうから、別に悪いことは 無いんけど。
( そうなのか?冷たく扱われるのは苦しいだろう?)
警戒心は理由のわからない偽善より、怖くなくていい。
まぁ、自分のことをとやかく言われたくないのが嫌なだけなんだけど。
( 経優は 言われたく無いことを言われ続けてきた… そういうことに過敏に反応してしまうのも無理はないか。)
え?
「そうだ、言い忘れてたが 今日は見の日だそうだ。
昨日は色々あったからな。ゆっくりしていけばいい。」
「けんの日?」
( 休日だな。)
「ああ、それ。休みのことか…」
視線を感じて向きなおると アンドルは 眉をひそめて こう言った。
「大丈夫か。寝不足は良くねぇ。疲れてるならお前さんも休んだ方がいいぜ。」
独り言が気がかりだったのか。
アンドルに気を使わせたのかな。
「それにしても、休みの日が多いんだね。」
「ああ、そうか。ハーラの外から来たんだもんな。お前さんのところは違うのか?」
言われて、考えてみる。
ここに来て、カルチャーショックを受けまくっていた。
その一つには この、ゆったり まったりとした雰囲気がある。
日本は 時間に厳しいし、なにかと時間に追われる。
生きていくことで手一杯になって、こうしたゆったりとした休みは一瞬で 溶けて無くなってしまう。
「うん。僕の国は 物は豊かだけど、こうして自由に 時間を過ごせないんだよ。」
私的な見解だし、正確にいえば違うのかもしれない。
けど、僕は 常に社会に 管理されている気がして休日も疲れてしまうのは 普通にあることだと思う…
監視社会とまではいかなくとも、周りからの圧力。
周囲に合わせようとする同調圧力でつぶれる。
ひっきー(ひきこもり)は それだけでぺちゃんこだ。
「くに?なんの話だ?」
…そうか、文明が違うと頭つかうな…
「えーとね、とっても大きな集団の名前。」
「族みてぇなもんか?」
「もっと大きい。なんて言えばいいかな、広い土地の…
うーん。当たり前にあることだから表すのが難しい。」
僕が、もやもやしていると アンドルはわかった!と膝を叩いて言った。
「ハーラみたいなものかじゃないのか?」
「あ、かなり近いかも。」
アンドルは満足げに うんうんと頷くと立ち上がった。
「俺はこの後、マラカイトのことをクリスに伝えておく。話しておきたいことがあれば言ってくれ。」
「わかったよ。違うのは人の手で運営されてるってところなんだ。」
顔を見合わせて、お互いフリーズした。
「すまねえ。間を違えちまったな。今度ゆっくり話そうぜ。」
「あ、うん。何の話だったっかな。」
「クリスのところに行くんで、なにか伝えておきたいことはあるか?それとも一緒にくるか?」
「彼女か、マラカイトの件で落ち込んでたね。よければ一緒に行ってもいいかな。」
「もちろんだぜ。」
彼は 清々しくそう言った。
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いつもご愛読ありがとうございます。
今回のお話しは、いつも以上に こだわりグセが出てしまいましたね…
強度ではなく、靭性という言葉を使うのには理由がありまして。
硬度と靭性の二つは お互いに作用しあっていて、セットで使うものだからなんです…ほぼ同じ意味ですが…
これは作者のこだわりなので、許してください。




