賢者のアシスト
「何なのよ。あいつは。感謝されてるのに!酷いわ!何が『もっと自分の立場をわきまえろ』よ!どうかしてる!」
「サファ、そう言ってくれるな。あいつは役目を果たしている。俺も動揺していた。」
サファは とても怒っていた。
確かに、ツンとしてたし、普段なら少しだけ隠し味のように含まれるデレが無くなってたけど。
( …不甲斐ない。)
確かに、フロウは 仕事以外に向き合うのが不器用で見てられないよね。
( 違う。俺が悪い。)
ルビが悪いことはないと思うけど。
「とにかく、兄さまは!…兄さんはあんなこと言われることはないの!きっとフロウには血が通ってないのよ!」
「それは違うんじゃないかな。ルビが悪く言われるのは僕もいい気分ではないけど。」
「何でそんなこと言うの?フロウがもう少し私たちに 優しくしてくれたっていいでしょ?あなたも思わない?」
むむ、なんか噛み合わないな。フロウだって血ぐらい通ってるだろうに。
( …経優、たぶんな。どうして冷たい態度だったのかを聞いてると思う。)
そっか、そっちね。うーん。そうだなぁ。
「僕も思う。けど、仕事と友情を割りきれる人だけど、その切り替えができなくて 強く言っただけにもみえる。
仕事モードが抜けない状態で気を張ってたんだよ。」
「…いくら自分の立場があるからって…」
唇を震わせて静かに言った。
「…フロウは今は関係ないことを言いってルビが傷つけることを…もうわかんないわよ。フロウの気持ち。」
彼女は そう言うと うつむいてしまった。
確かに…フロウが余計なことを言うのは以外だった。
「気づかないうちに地雷を踏んじゃったとかかな。」
「じらい?なによそれ。」
問われて 彼女をみると泣いていた。
感受性が豊かなんだろう。
そんな彼女に これ以上、嫌な思いを掘りかえすのも体に悪そうだな。
「うーん。地雷っていうのは…逆鱗にふれたって言うのが一番近いかな。言っても伝わらないよね。」
「馬鹿にしないでよ。それぐらいは知ってるわよ。」
こっちの例えの方が分かりにくそうだけど…
( 龍には逆鱗がある。それをふれたら怒ると伝えられている。)
そうだった、龍を知ってるんだったね。
「…きっとそうだな。フロウのことは もういいだろう。サファ。クリスを送ってやれ。」
「そうよね。私、しっかりしなくちゃ…クリスと晩ご飯に行ってくるわ。」
そんなルビの一声で彼女は泣き止むと、いまも落ち込んで立ち上がれないクリスの方へ行ってしまった。
…正直僕にとって、フロウの性格よりもサファの心模様の方が"分からない"けど。
♢
サファ、クリスが道場を去り、僕とルビは マラカイトが意識を取り戻すのを待っていた。
忘れないように覚えてるうちに 止血していた結び目を緩めてから 気になっていたことをルビに聞いてみる。
いつのまにか、姿が見えなくなっているスピネルとアンドルについてだ。
僕にとって以外だったのは、ルビがすんなり教えてくれたこと。
本当にルビは秘密にする出来事の線引きがわからない。
何でも、アンドルは、スピネルを一階の部屋に寝かせた後、水を汲んでサファに渡していたらしい。
確かに、スピネルが何をしでかすか分かったものではないので納得したのだが。
心の中でルビに怒られてしまった。
「大変だったんだね。」
「…何を言っている。今日は経優の大活躍だった。」
「何でさ。」
ルビは おかしなことを言うやつだと不思議がっている
「お前がフロウを呼びに言ってくれなかったら、後遺症が残る大怪我になっていた。」
「ルビが適正な指示をくれたからだよ。そうじゃなきゃ何をどうすればいいか分かんなかったし。」
ルビは首を振ってから、振り返るように言った。
「俺は お前に聞かれるまで、混乱していた。あの場で冷静になれたのも、お前がしっかりとしていたからだ。」
「…怪我してる人がいたら、救急車を―違うな…緊急事態が起きたら何をするか、すぐ動くのは当然だよ。」
それが命に関わってくるなら尚更 早急にマニュアル通りに動く。
それ以外、考える必要がないのに。
( …)
「…大事な人であれ、そうでなくとも人が倒れれば動揺が走る。そんな中、適正に動けるものは少ない。」
そう呟くとルビは遠くに目をやった。
少し持ち上げすぎだろう。ピンとこない。
( 動揺は伝染する。人の心は揺さぶられれば、平常を保てず 動けなくなる。)
実際に自分の尊厳が失なわれたり、命の危機にさらされていなくても?
( お前の親しい人が倒れたら、直ぐに動けるか?)
うん。動けるよ。
…そうか、鈍いんだな僕は、そういう所。
それから、心の中のルビも思うところがあるのか反応をしなくなった。
数分ほど経ってルビは 僕にもお礼を口にする。
心の中のルビにも思い出したように お礼を言われた。
ぼんやりと、二人でマラカイトが起きるのを待っていると辺りが明るくなっていった。
♢
マラカイトの意識が完全に戻るのに 半日かかった。
「…僕は 確かスピネルと試合して…」
「気がついたか。無理をするな。」
マラカイトが立とうとするのをルビが制止する。
「ど、どれぐらい気を失っていたんですか。」
「半日ぐらいかな。」
「ッ…イテテ」
彼は痛そうに自分の腕を押さえた。
「僕は負けたんですか。」
「勝った。お前は 正々堂々と勝負に勝った。」
ルビは 力強くマラカイトの肩を持ち言った…
「痛ッ。痛いです。」
「す、すまん。」
ルビは パッと手を離し、申し訳なさそうに謝った。
「マラカイト、立てそう?フロウに もう一度、観てもらわないといけないだ。」
「ちょっと力が入らなくて。手伝ってもらえば何とか。」
そりゃそうだ。顔が真っ青だし。
( 辛いな。)
「…水は飲むか。」
「ルビ、白湯がいいんじゃないかな。それも、フロウに任せた方がいいかもね。」
水分を摂った方がいいけど、急に飲むのも良くないだろう。
辛いだろうけど、診てもらうのが先決だ。
僕たちは まずはフロウの部屋に行くことにした。
移動の際にルビが肩を貸そうとしたが 背が高いため僕が支えることになった。
道中は 凄く痛そうだった。
今までは アドレナリンが切れてるから、急に痛みはじめたのだろう。
ゆっくりと、しかし出来るだけ迅速に向かった。
「フロウ。連れてきたぞ。診てやってくれ。」
「隣の部屋に 寝床をこしらえている。寝かせておいてくれ。」
部屋に着くと、フロウは 薬を調合していた。
天秤に乗せて重さを計ったり、水に溶いたりしている。
「経優、隣りだ。いくぞ。」
「え、ああ。」
僕は 隣の部屋のベットのようなところに、マラカイトをそっと寝かせた。
床の窪みに綿を敷き詰めて、なめした皮を敷いているだけだった。
これも、ここでは上等品の寝具なのは間違いない。
「あれから、何か口に入れたか?」
「いや、水も飲ませていない。」
外でルビがフロウの質問を受けていた。
「火が使えないからな。常温のぬるい水にセキテツを溶いたものを飲ませる。」
「経優、場所を替われ。マラカイト、体を起こせるか。」
そう言うと、フロウは マラカイトを診察し始める。
瞼を裏返したり、舌や手を診たりした。
「調子はどうだ。何か不調があるか。」
「あ、頭が痛いし、めまいと耳鳴りも…」
「…そうだろうな。これをゆっくり飲め。」
フロウはそう言うと、赤い水を飲ませた。
めちゃくちゃ苦そう。
「後は寝ることだ。困ったことがあれば呼べ。」
彼は、そう言い残し部屋を出て行こうとしたが、入り口で立ち止まってこう言った。
「…ちょうどいい。ルビ、経優。話しがある。隣の部屋に来い。」
今度こそ、彼は部屋から出ていった。
部屋に入ると、フロウは 僕たちにイスをすすめた。
昼に来たときは こんな歓迎されなかったのに。
「座ってくれ。」
「…俺たちに話しとはなんだ。」
ポットで お茶まで入れ、僕らに差しだす。
なんか、怪しい。
「話しは、経優にあるんだ。」
「僕に…マラカイトのこと?」
フロウは お茶を口にすすってから頷く。
「お前の都合のいい時間でいい。療養中は2日に一度、俺を手伝いにこい。」
そう言ってお茶をすすった。
なーんだ。
お茶を口にしてみたら 香ばしく、ルイボスティーのような味がした。
「いけるな。分かりました。」
これはなんのお茶だろう。
( マフラバ[芋虫]の糞だ。俺もこの色味は好きだ。)
「ブーー!ゲホッゲホ」
いつもご愛読ありがとうございます。
すみません。今回のエピソードは、書かないと気が済みませんでした。
医学の知識がないので、現実とは異なってますが、フィクションとしてお楽しみ頂けたら幸いです。
それでは次回。お楽しみに。