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硬度で傷がつく


 「じゃあ、何か?こいつは自分の硬度も知らないで生きてきたのかよ。」


 「…スピネル、経優は純粋なポラリスの使徒(異世界人)なのよ。」


 「な、何だよそれ。身寄りのねぇ追放者じゃないのか?」


 サファは 思いのほかシブい顔で言った。


 「想像も出来ないでしょうけど、真実なの。だから、私たちの常識を全く知らなくてもおかしくないのよ。」


 「まじかよ。ありえねーな。」


 スピネルは ありえねー と連発しながら 僕をまじまじと見た。


 「硬度ってそんなに知ってないといけないものなの?僕の世界では あんまり聞かない言葉だけど。」


 「これは まじなやつか。いいか兄ちゃん、硬度が全てと言っても良いぐらいだぜ。」


 スピネルは、かなり興奮した様子で たしなめるように大声で そんなことを言い出した。


 「それは言い過ぎね。何て言えばいいかしらね。例えれば 体重みたいなものよ。」


 みかねたサファが 訂正する。


 体重か、確かに知っていた方がいい情報だけど…



 「お前、それ本気で言ってるのか?けっ。お前ら兄弟揃そろって そんな幻想を口走りやがる。」


 「兄さんは確かに 夢見がち(ロマンチスト)だけど、硬度が全てではないわよ。」


 

 食い下がるように言うサファは ソワソワと落ち着きがない。


 

 「チッ。それは お前が"高い"から言えることじゃねぇのか?硬度が高いやつと低いやつじゃ、努力じゃ埋まりようのない格差があるだろ。」

 

 「…私、そんな風に言ってない―私が言いたいのは―違うのよ…」


 

 サファはスピネルに言われて、元気を無くしてしまった



 「くそっ、やりにくいやつ。とにかく、硬度こうどってのは そいつの『格』だ。高いやつは勝組なんだよ。」


 「へぇ、具体的にどう違ってくるの?」


 「仕方ねえ、教えてやるか。一度しか言わねぇから、良く聞いとけよ。」

 

 彼は フンっと鼻を鳴らして 腕を組みながら雄弁ゆうべんと語り出した。


 「硬度ってのはな。強さだぜ。硬度が高いやつほど、打撃の威力が強えし、かてえから防御をすれば逆に相手が痛えんだ。」

 

 「へぇー。それは凄い。」


 肌の硬さ。それが全てというのは極端だと思ったけど、

聞く限りだと、ゲームのステータスのようだと感じた。


 硬度によっては ダメージを全く受けない。攻撃すれば

刃物で刺す、くらいの攻撃力が こぶしに乗る…



 「スーパーマンかな?とても信じられないけど、戦士としては あった方がいい能力だね。」


 「兄ちゃん、思ったより聞き分けいいな。そうだぜ。生まれ持って資質が決まってるんだ。」



 僕の世界だと、IQ(知能指数)がそうだろうなぁ。


 知識社会の中でIQがある程度 高い方が生きやすい。


 …ここでもあるのか、そういうの―


( 経優、硬度の高さは 優劣に関わるものではない。そんなに身構える様な話ではないぞ。)



 「ねぇ、スピネル。戦士の資質以外で硬度が高い方がいいっていうのは無いの?」


 「ああん?そりゃあるぜ。占い師になるには硬度が7以上じゃないとなれねえ。」


 

 まじか。けど、勉強が出来ないと医者に慣れないし、似たようなものか。


 ( 経優、そんなことはない。お前は いい戦士になれる。力が強いことが全てではない。)


 そうかな、能力が全て…とはいわないけど、


 僕は スピネルは そんなに間違ったことは言ってないと思うんだ。

 


 …まんがいち、異世界転移をしたときに そんなスーパーパワーが与えられていたら別だけど。


 転べば 擦り傷ができる。人造人間のような鋼の体にはほど遠いからな。


 「だとすると、この治癒ちゆ力が頼りか。」


 

 「兄ちゃん、大丈夫か?さっきから ぼさっとしやがって。それに治癒力だぁ?何の話だよ」


 「経優は たまにこうなるのよ。今朝もそう、あなたの相方と同じよ。」


 

 待てよ、そもそもサファが言ってた9という数字はなんだろうか。


 というか硬度ってどうやって見分けをつけるんだ?



 「おい、突っ立ってないで行くぞ。晩飯にしようや。」


 「え?うん。晩飯かぁ。もうそんな時間なのか。」



 あたりが急に暗くなった。もうすぐ、7時ごろかな。



 体内時計は狂っていても、太陽の位置で時間がわかる。


 夜空を見て5月上旬だったし。そのぐらいの時間だろう。


  

 

 ( 凄いな、才能か。お前は既に資質があるな。)


 ん?何が?



 「経優、行くわよ。同じ日に2食も食べれるなんて楽しみだわ!」


 「わかった、今行くよ。」


 

            ♢



 僕たちは 大広間に夕食をとりに行った。


 大広間では、マラカイトくんが僕たちが来るのを待っていた。


 「お前、どこに居たんだよ。あんだけ来いよって言ったのに稽古に来なかったな。」


 「だ、だって。今日はけんの日(休日)だったし、  じ、自由にしていい日だから。」


 「そんなサボってたんじゃ、戦士に慣れないぞ。まぁ、弱いままでいいんじゃ。それでもいいだろうが!」



 彼に会って早々に、スピネルはそんなことを言った。



 「あなた、そんなんじゃモテないわよ。」


 サファが呆れたように肩をすくめて言うと スピネルはそれに乗っかるように続いた。



 「そうだ。モテないぞ、マアラ。」


 「お前よ。スピネル。わかってないなぁ。」


 スピネルの頭に肘をついて シルバーの髪の少女が割って入ってきた。



 誰だっけ。


 ( クリスだ。クオツの弟子の。)


 ああ、でも髪が。


 ( …光の具合だ。暗闇だとそう見える。)


 

 スピネルが好きな子だったよね。


 ( …ああ、そこは覚えていたのだな。)



 「何だよ。手ぇどけろよ。」


 「スピネルだって、けんの日ぐらい好きなことをしたいのよ。分かりなさい。」


 「チッ。つまらねぇ。わかってらぁ。」



 そんな二人のやり取りを見て サファは ふふと笑った


 

 「あなたたち仲がいいのね。若い夫婦みたいよ。」



 知ってか知らずか、サファは二人を見てそう言った。



 「は、はぁ?ちげえわ!お前の目は腐ってるのか?」


 「サファ様やめて下さいよ。こいつは違います。」


 「……そうだよ。ありえねぇ。」


 

 両思いじゃないんだ。


 ( …経優、放っておいてやれ。)


 

 「マラカイト、あなたも嫌な時は嫌って言わないと伝わんないわよ。特にこいつには。」


 「そうなのかよ、マアラ。」


 しばらく、沈黙が続いてから、首をいって緑の少年は言った。


 「 そんなことないよ。僕は 戦士になる…」


 「だろ?こいつ、硬度が低いけど。戦士になるために頑張ってるんだ。」


 「スピネル、あんた。そんなこと言う奴だったのね。呆れたわ。」



 クリスは そういうと、僕とサファにあいさつをしてマラカイトを連れ 遠くへ離れていった。


 

 「今のは あなたが悪いわよ。」


 「…ああ、ちくしょう。俺は 見栄張ってダチにキツいこと言っちまった。」


 「スピネル、硬度が低いことと 戦士に "なれる"こととは何の関係もないんでしょ?」

 

 コトン。


 石の食器が跳ね上がり、サボテンが床に散らばった。


 「俺が全部悪いってのか!いいさ!勝手に言ってやがれどうせ俺は悪役だぜ。」



 彼は吐き捨てるように そう言うと広間から出て行ってしまった。


 

 「これは先が長そうね。あなたも揚げ足を取らないようにしなさい。」



 そうか、やってしまったのか。


 ( …そうだな。悪気はなかったんだな。難しいかもしれんが言うべきではなかったな。)


 そうなんだ。じゃあ、次から教えて。


 ( ああ、そうだな。)


 

 その後、お葬式でもするかのようにサファと二人で しんみりとした中で食事して 自室へ帰った。


 僕は 部屋の角へ頭を押し当てて そのまま座り込んだ



 ああ、しんどい。


 チームを結成して 初めての晩がこれか…



 ( かなり気を落としているな。)


 ああ、そうだよ…やっぱり、こういうことになると僕はいない方がいいよなって思ってさ。


 冷静に考えて、そう思ったんだ。



 今の僕は恐ろしいほど 冷静だった。


 今朝は、ショックだったし、ぶり返していたから 自分を責めていた。けど、今はどうだろう―


 ( 経優は、過去に起きた嫌なことを思いだすくせがあるな。)



 そう、かも…



 ( お前の性格からすると、深く考えすぎて 苦しくなってしまうんだろうな。)



 …考えるなって言いたいの?もう何度も試したよ。


 それに僕は考えるのを止めたことがない。


 ( …考えるな、とは言っていない。悩むことを止めればいい。)


 それって同じことじゃない?


 ( 全然違うことだ。考えは人を豊かに 悩みは人を苦しめる。)


 そんなこと言われても…悩みは消えないよ。


 ( そうだな、少しなら耐えれる大きいと思うほどに 重く人にのしかかる。捕まったら逃れるのは難しい。)


 

 気に食わない。悩みに囚われた方が悪いなんて言い出さないよね。

 

 ( …みんな悩みはある。)


 もう、説教はごめんだよ。瞑想することにするから、もうおやすみ。


 

 ( 俺の師匠が言っていた。人は 植物の木だと。俺は見たこともないが 葉というものを身につけている)


 …知ってるよ。砂漠には無いけど。一応、山育ちと言えなくもないから。


 ( そうか、経優は知っているのか。俺も一度見てみたいものだ。)


 …そこまで言われると続きが気になるんだけど。


 ( そんだな。木は 枯れてしまった葉を落としていくらしい。)


 

 落葉樹らくようじゅとか、葉を落とす木もあるよね


 ( 人も同じようなものだ。言の葉を身につけている。そして言葉を通じて生きるための源になっている。)


 あ、そうか。言の葉か。なるほど。


 ( 枯れた言の葉からは生きるための原動力エネルギーは生み出されない。悩み続ける事は 枯葉を付けて落せずにいる状態だ。)


 …悩みは枯葉か。落とせるもの?

 


 てつ学だね。けど、面白い視点。


 そのまま行けば 悩みは害にしかならないみたいだけど


 ( そうではないそうだ。師匠に言わせれば、枯葉を沢山 落とした木は より丈夫に豊かに育つという。)


 土壌が豊かになるってことかな。確かに。



 けど、落とすには どうすればいいの?


 ( 新しい言の葉を受け入れることを恐れなければいい)


 …どういう意味?


 ( そうだな。俺は 瞑想の時に悩みに気づけば ただ無心になり、水に流している。)


 ルビも悩むことがあるんだね。


 ( 人は誰しも悩みはあると言っただろ。俺も悩みにもはある。)


 そうだよね。ルビも強いけど人間だし。


 ( そうだ、思い悩むことがあったら、眺めて ただ悩みがしずんでゆくのを待つ感覚だ。腹の底に沈んでいくのを見ているだけでいい。)


 

 やってみよ。やることもないし。


 もともと瞑想はするつもりでいたし、アドバイスとしても面白いかも。


 

 昨日と違って本格的に座禅ざぜんを組めた。


 体が柔らかくなったからか。


 

 瞑想を開始して少しも立たない内に 悩みというより感情が浮かんできた。


 いいものではない。その感情を追って自己嫌悪するような昔の回想が浮かんでくる。


 

 最初は上から俯瞰ふかんしているような感覚から

地表スレスレの視界のような何も分からない状態になった。


 しばらくフラッシュバックは続いたが、同じものは浮かんでこなり 過ぎ去ってしまった。

 

 

いつもご愛読ありがとうございます。

 前回から日が空いてしまいすみませんでした。体調が優れなくて遅くなってしまいました。

 今回の硬度の話ですが、今後も登場する予定です。日常で聞き慣れない単語ですよね。

 分かり易く面白く お伝えできるよう頑張ります。

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