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立ち上がる才

 「どうしよう、戻らなくなっちゃった。」


 「えっ。膝は曲がる?」


 「曲がらない、これどうすればいい?」



 詰んだ。痛みは引いたけど、治らなくなっちゃった。


 ( ほぐすしかないな。太ももを叩けば治る。)


 

 昔のテレビの治し方でもあるまいし、まぁやってみるか



 太ももを叩いてほぐしてみた。これは意味あるんだろうか。


 やっぱり叩いても治らなかった。

 

 「割れてはいないみたいだし、最悪な状態ではないみたいだけど。ルビを呼んでくるわ。」


 「いや、いいよ。こうなったら、力技だ。立ち上がるの手伝って。」


 「ええ、それはいいけど…」


 

 サファに手伝ってもらい、立ち上がると 勢いよくジャンプした。


  バキッ。


 骨が折れたような音がしたが、相撲をする前の相撲取りのように蹲踞そんきょの姿勢になった。



 「あー、よかった。治った。」


 もう、ここまできてしまえば 元通りになった。  


 そのままシコを踏んでみたが、どこもおかしくはなってない。



 ( 人間の出来ることではないな。その尋常ではない治癒は恐ろしいな。)


 

 「今、骨が折れた音してた…大丈夫なの?」


 「うん。この通り。」



 サファがあまりに心配するので その場でケンケンしてみせた。



 「わかったわ無理はしないで、…ごめんなさい。こんなことになるなんて思わなかったのよ。」

 

 「大丈夫だって、こんなことは あるあるだよ。そんなに謝らなくていいよ。」


 

 僕は もう一度、開脚をしてみると、


 「おお、みてサファ。柔らかくなったみたいだよ。」


 「えっ。そうね。柔らかくなってる…」


 

 ストレッチ(柔軟)する前は直角(90°)にしか開かなかったのに、180度とはいかないまでも、130度ぐらい開けるようになった。



 「凄くない?こんなに開けることある?サファもやってみてよ。」


 「私?うん。やりにくいわね…」


 

 彼女は立った状態から、足を開いていき―

なんとそのままベッタリと床についてしまった。


 「凄い。体操選手みたいだね。」


 「え、ええ。"たいそうせんしゅ"って言うのはわからないけど、褒めてくれてありがとう…」



 何かやりにくそうにしていた。


 

 にしても、凄いな。綺麗な開脚だ。


 上から見たら漢字の一 に見えることだろう。



 (サファは昔から柔らかかったからな。柔軟は辞めていなかったか。)


 

 ルビは 嬉しそうだ。前から思っていたが、かなり年が離れた兄弟みたいだな、と ふと思った。


 

 ( 7年ぶりにこうして、経優を通じて一緒になって稽古が出来るからな。サファの成長が嬉しい。)



 こうして口にするのはよっぽど嬉しいのだろう。つられて僕も嬉しくなった。



 「次はどうすればいいかな。」


 「体を前に倒すのよ。息を吐きながら、フゥーー。」


 「めっちゃ柔らかいね。」



 彼女はゆっくりと地面に胸をベッタリつけると手を広げた。人ってこんなに柔らかくなるんだ。



 僕は 彼女にならって体を倒してみる。


 「フゥーー!」


 僕は、手を前にして同じようにしたのに全く地面に手が届かない…


 

 ( …む。固いな。)


 わかってるって、恥ずかしくなるじゃん。


 ( サファに乗ってもらうか。足の裏を合わせて、足を柔らかくしてからだな。)


 「ごめん、サファ乗ってくれる?」


 「そうね、いいわよ。」


 

 僕は足の裏を合わせてみたが…不恰好な体育座りにしか見えない。


 サファに膝を押してもらいながら乗っかって貰った。



 ……。


 虚しいな。


 人によっては、と言うより男子高校生なら年が近い女子に こんな風にストレッチしたら 心が躍るだろうに…

 

 

 いかん、いかん。もういいや。



 ( …俺は同情していいものなのか…一つ言えるのは 目の前のことをやれば、心を乱さずに済む。)


 大丈夫、気にしないで。平気だから。


 ( 今は安全な柔軟だが、稽古は 気を抜くと危険だ。)


 ごめん、そうだね。切り替えるよ。


 

 今の僕は 本当に何にもなくなってしまった。あとは目の前のことを頑張ろう。


 「もっと足を引きつけて、足を痛めちゃうわ。」


 「はい。―こんなもんかな。」



 なかなか床に付かなかったが、かなりマシになってきた



 「もう一度 試してみましょう。」


 「わかった  ハァ。ふぅーー」



 開脚した状態で おでこが地面についた。



 「わーすげー。みてよ、おでこ ついた。」


 「うーん、足の指は天井向けないと、ほら、」


 「え、別にいいじゃ、 イテテ!痛っ!」



 彼女が足のつま先の方向を変えると、めちゃくちゃ痛かった。


 僕は 座ったまま飛び上がりそうな勢いで後ろに一回転した。


 うう、嫌になっちゃう…


 「見事な後転だな。」


 「どこが、ってルビじゃん。いつからいたの?」


 僕にだって分かるぐらいの 皮肉に振り返れば ルビが覗き込んでいた。


 「いつから?今来たとこだ。柔らかくなったか?」


 

 僕が ショックで ふてくされているところに、ルビが様子を見にきていた。


 スピネルはというと、珍しいく 大の字になって休んでいた。



 「兄さん、スピネルの方はもういいの?」


 「今日は けんの日だからな。休んで貰っている」



 遠目だと伸びてるようにしか見えませんけど、彼は大丈夫かな。


 ( いつも、見の日も一日中、鍛錬をしようとするからな。いつも 無理のないよう休ませている。)


 なかなか、ルビさん、おっかないね。


 察するに、たぶん けんの日は休みの日か何かなんだろうな。


 確かに、スピネルも たまには 体をしっかり休めた方がいいしね。うん



 「兄さん、経優は…柔らかくなりましたよ。」


 「そうか。経優、股割またわりをしてみせてくれ。」



 股割り?相撲で聞いたことあるような…


 ( サファがやっていただろ。足を開いていって、出来るだけ地面に近づければいい。)


 なんだ、意外と簡単なんだね。



 僕はサファと同じように…


 

 「痛い!これどうしよう!戻れない!助けて、ルビ、サファーー」


 「やっぱり…兄さんそっち持って」


 「…ああ」



 僕は二人に体を起こしてもらった。



 「ふぅ、死ぬかと思ったよ。ありがとう、二人とも。」


 「体はまだまだ固い。気長にやればいい。休憩の後、受け身だ。」



 彼はそういうと道場を後にして、どこかへ行ってしまった。



 「なんとかなったわね。たまに、柔軟しておいてよかったわ。」

 

 「うん、こんなに柔軟がキツいなんて思わなかったよ。」


 そういうと彼女は苦笑いを浮かべ、こう言った。


 「これで音をあげてたら、技を受けるのは厳しそう。柔軟で わからないことがあれば言って、教えるわ。」



 技…必殺技か。そんなの喰らったら やばいよな。


 ( 大丈夫だ。受け身の才能は ずば抜けている。俺はもう、あの天性の受け身を見届けている。安心しろ。)


 …なんのことだろうか。


 ( 忘れたのか?)


 「ねえ、経優。休憩中だけど、やってみましょうよ。私が教えてあげるわ。」


 「えっ。いいよ、(休憩)終わってからで。ちょっ。待って。、」


 彼女は 僕の手を引いて 広い道場の中央へといくとしゃがんだ。


 「私の真似をすればいいわ。」

 

 彼女はそう言ったかと、思うとベットに倒れ込むかのように 背中から倒れた。



 「あっ!」


 バタッ。クルッ。


 「わかったかしら。やってみて。」



 何がなんだか、勢いよく背中から倒れ込んだのに、回転して、素早く立ち上がった。


 逆再生?いや、おかしい。


 

 「やっぱり難しいわよね。ルビには私が言っておこうか」


 「いや、やってみたい。」


 

 僕は、本当に自慢じゃないけど。幼い頃に体操をかじっていた。お遊戯ゆうぎレベルだけど。



 ( 自分からやろうと言うのは偉い。見直したぞ。)


 む。子供扱いですか?


 ( 違う、対等な戦士としてだ。いいか、今さっき開脚の時の後転を思い出すんだ。)


 そうか、あんな感じ。よし。


 ビックリしてひっくり返るみたいに


 ダン!クルッ

 

 

 「…!凄い、初めてやったのよね…」


 「出来た!みた。凄くない?ビックリした。」


 

 バクバクと心臓がうるさい。


 込み上げてくる喜びが、じわじわと体中に湧き上がっていた。

いつもご愛読ありがとうございます。

 今回は無神が立ち直ってよかった。すみません、ちょっと愛着がついて来てしまって。

 書いていて楽しいですが、長くなってしまっていて、ビックリしました。整理して絞っていこうと思います。

 それでは、また次回もよろしくお願いします。

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