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柔軟になろう 心の壁と意欲

 武道って痛いやつだよね。そんなの嫌なんだけど、

ボコボコにされちゃうよ。


 ただでさえ、不安定な心理状態なのに そんな怖いことなんて できっこない。



 何でだろうか。もの凄く気分が落ち込んでいた。


 

 あれ、何でだろうか。さっきまでは 何ともなかったはずなのに、あれ?



 ( …経優、一度 深呼吸してみろ。先が見えず 不安になるのは分かる。だが、一歩を踏み出してみるまで 何も見えないものだ。)


 厳しいよね、ルビは 何でそんなに前を向いていけるの?


 

 ここのところ、ルビは 厳しめな発言をしている。


 とてもじゃないが、自分で自分の気持ちが整理できる気がしない。


 こんなに 落ち込むなんて自分でも馬鹿げているなとも、当然だ とも思う。


 心が大きく揺れて分離して 自分を纏めることができないほど、僕は動揺どうようしていた。


 人間の三大欲求は 人を形作る大きな存在だったのだ。



 ( 朝、お前は 凄く いい心をたもてていた。俺は安心したんだ。)


 うん…そうかも…けど、今は誰とも顔を合わせたくない。



 サファは 急にふさぎこんでしまった僕を心配していた。


 無視したいわけではないけど、声が出せなかった。


  


 ( お前は 物腰が柔らかいし、冷静な判断ができる。なぜ 人との交流に身構えてしまうのか。)


 …そんなことはないよ。出来れば人と関わりたくないと今でも思ってる。


 (そうか?既にお前はコランダムに受け入れられ、認められているというのに。)


 僕はただ、その場に身を預けて 適当なことを言ってただけで…僕は殆ど何もしていない。



 そう、今までここに来て一度も僕は―全てみんなが勝手に解決していたことをただ眺めてただけ…



 ( 経優、これまで現状を変えるために団結を成し遂げたのは まぎれもないお前自身の力なんだ。)


 うう、けど 僕は…コミニケーションができていないって、人の心が分からない人間だって言われたから…そんなことはできるはずがない。



 僕はルビに自分自身も見ないようにしていた 心に引っかかっていたものを 掘り起こさせた。


 そうか、今もずっと そこが引っかかってたんだ。


 ずっと見ないように無視していたから、心に無理が生じて 今、ぶり返し(再発)にあっている。



 ( いいか、無神には 自分も相手すらも分かろうという気持ちがある。お前のことを知ろうとせず、傷つけた奴こそ もろく歪んでいる。)



 …そうかな、結構、ぼくは無神経むしんけいだってことなんだよ。



 人と比べて おとっているし、集団の中で生きていくために必要な 心情フィーリングが大きく欠落してる。


 ただ、生きているだけで、他の誰かを知らないうちに 傷つけて、もしくは邪魔をしていることに気づけない…


 僕が人と違うし、変わってることは紛れもない事実、なんだと思う…



 ( …経優、俺は思うんだ。人は皆 違う、だからこそ 人は大きな事を 色々な方面から見て、考えて、最後に成し遂げることができるものだとな。)


 

 確かに、みんな違ってみんないいってやつだね…



 ( その通りだ、いいことを言う。自分と他人は違っているものだ。互いに認め合い、分かり合うのは難しい。)


 ルビは キッパリと言い切った後で、踏ん張るように して続けて言った。

 

 ( それでも望む理想は叶えられるはずだ。俺は どのような人生が待ち受けようと、決して諦めたくはない。)


 うん、そうかもしれないね。ハーラの人達のこれからが僕らの手にかかってるわけだもんね。


 僕が問題を解決するためには必要なんだ。


 ( …そうだな…だが、決して経優を 利用しようというわけではない。お前が責任を背負うことはない。全てはハーラに生まれ落ちた 俺たちの試練かべだ。)



 僕は最初から、そんなに自分に期待しちゃいないよ。ここに僕がいる。


 それに、ルビは ルビの、僕には 僕の主観(主義)がある。僕は したくないことは絶対にしない主義だ。



 ルビが これから何をそうとしているのかは分からない。けど、同じ景色を見てみたいと今思ったよ。


 

 ( …そうか、ありがとな。…俺の景色か…)


 ( 経優には格好の良いことを言ったが、俺だって 未だに在りたい己に近づいていない。人生みちとは長いものだな。)


 そうか、ルビの強さは 自己実現(なりたい自分になる)のために 努力してる所からいてるのか。


 そうだよな、揺らがない信念と たゆまぬ研鑽をしてるから ブレずに立ち向かえるんだね。



 …けどさ、今思っちゃったんだけども…



 今まで 火を使わずに ずっとやってきたんだよね。


 僕が下手なことを言い出さなきゃ今ごろ こんな大きな賭けに出ることも無かったんじゃ…いらないことしたかな



 ( …経優、それは杞憂だ。いずれは誰かが声を上げていただろう。)

 

 僕が言わなくても?本当に?僕が変なことをしでかしてないの?


 ( ああ、お前が言わなくても、俺が次の祭典でシナバーに直接言っていた。)


 なーんだ。杞憂か。


 気が晴れ、スッキリした。思っていたほど今の状況は悪くないのかも。



 「よし、やってやろう。性欲が無いからなんだって言うんだ!」


 「わ!もう、なんなのよ!せいよく?というか、あなた大丈夫?」


 「え?何が?」



 彼女の顔を見ると、やけに心配そうにしている。



 「何がって!あなた、気が抜けて どこか遠くにいるみたいにずっと反応が無かったのよ!何で無視したのよ!」



 泣いてしまった彼女に 僕は思いがけずポカンと口が開いた。



 「え、うん。ごめん、心配かけちゃった?泣かないでよ」

 

 「泣いてないわよ!もう!二度とあなたを心配してやらないんだから!」



 恐ろしいことに彼女は 僕の肩を外れそうなくらい激しく揺らしながら言った。



 「わ、悪かったよ!無視したつもりはなかったんだ。もう僕は 大丈夫だから一旦いったん 落ち着いて。」


 彼女の手がやっと止まった頃には 僕の脳みそは激しくシェイキングされ、ストロベリージャムになりかけていた


 案外、これがよかったのか、頭が再生し、修復されていくのがわかった。シャットダウンして軽くなっていたのだ



 「君のおかげで、頭の中がスッキリした。落ち込んだら またお願いしようかな。」


 「何よ、急に。今更、おだてても何も出ないわよ。ほらサボダ、もっと食べなさい。」


 

 ( サファは 心配症なところがあるがな。経優、こうして お前を心配して気にしてくれる人が大勢いる。)

 

 サボテンをかじると、少し甘い気がした。僕には まだ味覚や嗅覚の五感が感じれる。


 彼女の少し怒ったような顔を見て いたたまれない気持ちになった。


 三大欲求がなくなったくらいで、女の子を泣かせるのは…いや、そりゃ凹むよなぁ。


 ( 経優、何とも言えないんだが 俺は味覚と食欲が感じられんのだ。最初から持たない人間もいる。)


 え!そうなの?


 ( だからと言ってサファを泣かせない。お前もいざとなれば大事な人を守れる、そんな男であればいい。)


 ふとサファの顔を見た。

 

 彼女は 僕がサボテンを食べ終えるまでの間ずっと見守っていた。


 少しデジャブが起こる。昨日の朝食に 僕の分をあげた時のものだ。あの美味しそうに食べている姿を思い出す。


 唇を噛み締めながら、僕が食べているのを 邪魔しないように我慢しているのだ。


 「いいよ、一緒に食べよ。」


 「バカね、あなたの分でしょ。朝食の分量は決まってるのよ。大事に食べちゃいなさい。」



 目を瞑ってそう言う彼女は、所々に優しさを感じた。


 

 「そうだね、ごめんねサファ。ありがとう。君の分も美味しく食べることにするよ。」


 「…何で謝るのよ。あたりまえでしょ。あなたの何だから、ゆっくり食べなさいよ。」


 ペロリと食べ終えた時には 広間に朝食を取りに たくさん人が入っていた。


 明るい部屋の中で彼らは楽しそうに食事を囲っていた。


 

 「サファ、人前に出ても大丈夫そう?苦手じゃなかったっけ?」


 「…あなたに出会ってからかしら、気にならなくなったわ…」


 彼女は、そういうと 首を傾げた。


 「私、あなたに そんなこと話したかしら?兄さまから聞いたの?」



 やっべ。口が滑った。


 どうしよう。ルビ


 ( 気づかないのか、まぁいい。気にすることはない、手を繋ぐんだ。)


 なんで?まぁ握るけども。


 彼女の手を繋いだ後で、何か変だと思った。


 言われるがまま、手を繋なぐと驚くほど手が冷たい。


 

 「…そうよね、顔色も良くないし 最初から、病気なのは誰から見ても分かっちゃうか…」


 「いや!そんなことない!分かんなかった。知ったの昨晩だし、最初は天女みたいに美しいと思ったよ。」


 彼女の顔は みるみるピンクに近づいていった。


 「わかった。わかったから、大きな声で言わないで。」


 「ごめん。」


 彼女は 手で顔をおおい俯いてしまった。


 しばらくして、彼女は立ち上がってから手を差し出されて、僕を立ち上がらせてくれた。


 「場所を変えましょ。恥ずかしいから。」


             ♢

 

 僕らは二階に階段を上がっていた。


 さっきから、彼女は顔を合わせてくれない。


 相当怒っているのだろうか、僕が口を開こうとした途端に彼女に声をかけられた。 


 「このまま、部屋で休むのもいいかもしれないけど、元気そうだから このまま見学に行きましょう」


 「見学?何の?」


 「忘れちゃった?私たち ルビに呼び出されてたでしょ。あなたが 場所知らないから私が案内するのよ。そのために 一緒にいてあげたのよ。」


 「そうだった、武道だったね。僕の為に大広に残ってくれてたのか。」


 

 そうだ、僕には これからいろんな事を"やらさせる"のだ。


 ( 経優、やらされるのではない。やってやる!だ。)


 やってやる!



 「サファ、頑張ろうね。」


 「ええ、もう6年ぐらいあいだが空いちゃってるものすっごく緊張しちゃうわ。」


 サファは 経験者だったんのか。通りで後ろ蹴りが キレキレだったわけだ。

 

 ( そうだな、俺より武の才に恵まれている。)


 ルビより… そりゃ凄い



 「ここよ。道場は広間の真上。上がって直ぐにあるのよ」


 階段を上がって直ぐに 道場の入り口があった。


 ここか、見逃してたな。



 こんなに分かりやすい構造だったんだ。


 

 中に入ると大広間より一回りほど大きな部屋だった。


 「お邪魔しまーす。」



 道場にお辞儀をして入ると、サファに不思議がられた。


 

 「?誰に頭を下げてるの?そんなことしなくていいわ。」


 「そ、そうなんだ。僕の学校の剣道部の人とかやってたからさ。」


 

 彼女は不思議そうにしながら、上がって来るように催促さいそくした。


 

 「ふかふかしてるね。裸足にならなくていいの?」


 「靴に砂が入るのが嫌なら脱いでいいわよ。確か兄さまが言うには 実戦では足が焦げるって言ってたけど。気にしなくていいと思う。」



 僕は靴と靴下を脱いで裸足になった。


 ( 初めはその方がやりやすいだろう。しっかり、地面を感じとれる。)


 ん?地面を感じとる?


 ( …時期にわかる。この世の俺が教えてくれるだろう)


 

 白い粉の感触が心地いい。


 外にあるザラザラしてトゲのある砂と違って、こっちは小麦粉のようにふわふわだ。

 

 敷き詰められた砂は どこから何のために敷いてるんだろう、



 「経優、こっちよ。」


 部屋の角でサファが 手を招いていた。


 「お疲れ様だね。ルビに、スピネル。」



 もう稽古を始めていたのか。スピネルの方は 汗を流して、足を投げ出して休んでいる。


 ルビは どことなく嬉しそうにしている。


 「あん?兄ちゃんやっときたのかよ。おっせーな。」


 「あなた、懲りないわね。」


 「やるのか、姉ちゃん。受けてたつぜ。」


 

 スピネルは、喧嘩っ早いね。


 ( …ああ、向上心は人一倍なのだ。許してやってくれ)


 

 「経優、サファ。来てくれたか。ゆっくりしていけ。」


 「今日はけんの日だったわよね。どこまでやるつもり?」


 ルビは、そうだなと少し考えてから言った。


 「受け身まで、あくまで 怪我がないようにやる。」


 「わかったわ。」


 受け身か、できるかな。


 ( なにを言っている。お前の受け身はいい筋をしていたぞ。)


 ん?何言ってるのさ。受け身なんて一度もしたことないけど。


 空から落ちて来て受け身を取っただろう。


 ああー。あったね。



 「経優、私たちは まず柔軟をしましょう。」


 「柔軟?」


 

 休憩が終わって 僕とサファは 部屋の隅で柔軟をすることになった。



 「準備体操は基本か、どうすればいい?」


 「屈伸くっしんからね。私の真似をすればいいわ。」



 僕は言われた通り彼女の真似をした。


 屈伸と言っても、スクワットに似たものはやらなかった。足を交互に前に出してアキレス腱を伸ばすやつ。


 

 「もう少し、体を起こして、そう。もっと腰を落とせる?もっと足の幅をとった方がいいかしら。」


 「こうかな?わっ!」



 僕は無様に 手をバタつかせて尻もちをついた。


  

 「いてて、 これさ、こんなにしっかりやらなくていいんじゃないかな。」


 体育の体操のような、直ぐ終わるのをイメージしていたが これは思ってたのと違った。


 「そ、そうかしら。ここまで 体が固い人は始めてだからどうしたらいいかしら。」


 うう、そこまで言わなくても、普通ぐらいだと思うけどなぁ。僕はそんなに言われるほど固いのか?


 ( コランダムは、と言うより 全てのハーラの民は物心がついた時から 柔軟と形成をするからな。)


 柔軟、難しい。


 「うーん。ちょっと待ってて、兄さんをつれてくるわ。」



 サファは、そう言ってからルビの もとへダッシュで行ってしまった。



 悔しい。そこそこ 体が柔らかい方だと思ってたのに…


 

 しばらくして、サファはルビを連れて戻ってきた。


 「兄さん、屈伸がが上手くできないみたいなの。」


 「…経優、みせてくれ。」


 「うん。」

 


 もう一度 前屈をしてみる。


 「サファ、丹田たんでんを押さえやれ。芯は通っている。大丈夫そうだな。」


 「わかった、ここだったかしら。」



 彼女は、股間の少し上あたりをがっちりと押さえた。


 へ?


 「経優、そこに力を入れて、腰を落としてみろ。」


 言いたいことは、山ほどあったが。言われた通りにすると ぶらつかずに姿勢を保てた。


 「サファ、できた!もういいよ。一人でできる。」


 「そう、よかった。離すわね。」


 ドサッ。


 「あれ?」


 僕は、サファに手を離された瞬間に崩して手をついた。



 「うむ、サファ。屈伸くっしんはもういい。経優、気を落とすな。お前は筋がいい。」


 「え、兄さん。どうすればいい?」

 


 満足したように頷いて、稽古に戻ろうとしたルビの背に引き止めて言った。



 「すまん。そうだな、股関節こかんせつを柔らかくする柔軟を進めて置いてくれ。スピネルを丁度よいところまで終えたら俺も参加しよう。」


 「ちょっと、兄さん!ルビ!」



 彼はスピネルのところに飛んで戻っていった。もう聞こえていないだろう。


 ( …すまんな。おそらく、スピネルの調子がいいんだろう。)


 …うん、わかった。


 ( もう少ししたら、また休憩だ。そこまでは俺が出来るだけ教えよう。)


 

 「股関節こかんせつか、またを開いてちょうだい。」

 

 「え!女の子がそんなこと!」


 「はぁ、足を開いて。」


 

 彼女に呆れられてしまった。つい反射的に変なことを言っちゃった。


 彼女は 無言で僕が開脚した足を 自分の足で思いっきり押した。



 「イッタ!ちょっと待って!痛いって!」


 

 「…痛いくらいがいいのよ。こんなふうに」

 

 「ぎゃーー!嘘でしょ。鬼!」

 

 彼女にめちゃくちゃ笑われてしまった。


 ああ、もうだめ。


 「もう、おおげさね。これくらいで音をあげるなんて あなたの冗談が面白いのね。」

 


 「…」


 「あれ、経優?しっかりして!大変どうしよう。」


 こうして、僕は武道の道の一歩を踏み出したのだった。

 いつもご愛読ありがとうございます。

 すみません、前回、修行を始めるところまで書こうと あとがきで書いたのですが、思うように書けませんでした。前のお話しが暗いラストに何故かなってしまって無神もショックが大きかったと思います。

 今回のエピソードで立ち直れたので、修行に集中してくれると思います。どうしても、一人の人間としてキャラクターを見ているので、脱線してしまう事がございますのでご容赦ください。では、次回!   ばいばい



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