ノンファンクション
「俺のところに来たいのか。構わないが、アンドルとフロウに聞かねばならない。」
「い、いえ。提携を結ぶのは、サファさんと経優さんです。ルビが困っていたので。」
「ん?どういうことだ?ああ、サファと経優を マラカイトのところに入れてくれるのか。」
ルビは 嬉しそうに頷いた。
「そうか、サファ。どうだ?」
「どうだって言われても…」
サファは 少年たちを見て、決心がついたのか頷いてからこう言った。
「マラカイトは良くても、スピネルは 私のこと、どう思ってるのよ?」
「へっ!眠り…サファは強え、そこは認めてやるよ。」
彼女は ため息を吐いてスピネルに聞き直した。
「あなたは私を 嫌ってはいるみたいだけど。どうする?私は こう見えて平和主義なのよ。できれば仲良くやりたいのだけど。」
「…姉ちゃんと馴れ合う気はない。俺のすきにやるだけだ。」
スピネルは頭を かきながらそういった。
「そう、好きにしなさい。けど、私と組むなら 態度を改めてもらうわよ。」
サファは そう言ってスピネルに手を差し出す。
スピネルは 彼女の手を叩いてそれに応えた。
「さ、サファさん。経優さん。よろしくお願いします。」
「あれ、これで成立した感じなの?うん、よろしく…」
サファとスピネルは いつの間にか仲直りを終わらせていた。
僕、彼らに付いていけるのかな。不安だ。
( 経優、頼む。俺の一生の願いだ。サファたちと仲良くしてやってくれないか。)
―わかった。そこまで言わなくても、僕の居場所はここだよ。受け入れもらった身だしね。
「あー!サファ様!サファ様ではないですか!」
僕の背中の方で大声がした。僕は ビックリして飛び上がりそうになりつつ、声の方へと体を向けた。
また、どこか見覚えのある少女が走って手を振っていた。
( クリスだ。)
ああ、そうだ。クリスちゃんだった。
彼女は よく見るとグレーの髪をしていた。ここの女の人は サファも含めてショートカットだな。
彼女を見て違和感だったものが はっきりした。
「サファ様!おはようございます!」
「え、ええ。おはよう、クリス。今日も元気いっぱいね」
彼女たちが あいさつをしているのをボーっと眺めていた。
「経優、どうかしたのか?目の光が消えている。」
「そう?そうかね。」
( どうしたんだ?なんで落ち込んでいるのだ?)
ああ、うん。気づいちゃってさ。人間として生きていくのに 大切な欲求が全部、無くなっちゃったんだなって。
そう、考えてみれば"それだけ"を失ってないという方が違和感があることだ。
…僕は 異性に色を感じ取れない体になってしまった。
それは男としての 起きて当たり前の衝動と欲望。
性欲までもが 無くなってしまったのだ…
♢
僕たちは、というよりも 抜け殻になった自分以外の人たちは 楽しく朝食を取っていた。
項垂れて俯いてしまう。単純に辛かった。
( 経優、そんなに こたえることなのか、性欲が無くなることは)
打ちのめされている僕にルビは 声をかけてくれた。
いや、僕はさ。生まれつき 人の気持ちを理解しにくい特徴を持ってるんだ。
さっきのサファとスピネルのケンカなんて 僕からしたらなんで 仲直りすることになったのかわかんなかったんなんだよ。
( そうか。)
だからね、みんなと同じように 見たり、聞いたりしても違って感じてしまうことが多くて…
( …人それぞれ 悩みはあるだろうな。)
うん、だから一つでも多くの共通したものを欲しているんだ。
あまり 人に興味を抱かない僕でも、人に魅せられたりすると 落ち着くんだ。
それが 性的なものだったとしてもさ、ちゃんと人間やれてるなぁって実感?があるから寂しくて。
( …そんなことか。)
え!今、そんなことって言った!酷いなぁ
ルビはどうなのさ!本能が無くなっちゃったら。
( 経優、もし 本能が無くなってしまっても、お前は今まで通り生活できる。)
うん。そうだね…そうだよね!
( ああ、それに 今はそれどころじゃない。お前は 人を纏めて統率していくのだ。色欲はいらんだろ。)
…いらない、ね。うん、いらない。
何でそんなに凹んでいたのだろうか。
性欲を失うのが一番こたえた ということは つまり
俗っぽいことで…
僕は 案外、何処にでもいる男子高校生だな…
去勢されたオス猫でもあるまいし、男として誇りは失われてはいないのだ。
誇りだとか、尊厳だとかは、最初から微塵も無かったかも知れないけど。
( 今のお前には必要がないだけかもしれん。試練とやらを終えたら3つの欲求も戻ってくる。)
そうかな、そうだといいけどなぁ。
( ああ、戻ってくるだろう。…お前が落ち込んでるところ悪いと思うが気になっていることがあるんだが。)
何?
( 経優は サファかクリス、どちらかに気があるの
か?)
無いけど?
( ?!じゃあ何で落ち込んでいるのだ?失恋したからじゃないならなぜだ?)
だって、
美少女に囲まれても 心が動かないんだもん。つまらないじゃない?それだけ
( ……俺の気遣いを返せ…)
♢
「だ、大丈夫かな。き経優さん、さっきから抜け殻だけど。」
「ほっといて、やれよ。こんな強え女の間にいるんだ。びびってるんだよ。」
「はっ!危なかった。ブルーな気持ちになってた。」
僕は 気づけば二人の少女に挟まれていた。
「本当に、私たちと提携を結んでくれるんですか!夢みたい!今度 星読みを教えてくださいよ!」
「ええ…そのうちに、気が向いたらね…」
あのサファが 若干引いている。
サファは 僕を盾として勝手に使っていた。その証拠に僕の影に入るように して縮こまっていた。
気づかなかったが、僕の制服の袖を掴んでいた。
「経優、気がついたらのね。ちょっと この子どうにかできないかしら。」
何だろうか、サファは 人好きする性格だし、本人も望んで人に好かれたいものだと思ってたけど。
( サファは 星読みの話がしたくないんだろう。星読みが好きなクリスに言うのが嫌なのだろう。)
へー。そういうものなのか。
「クリスちゃん。サファ、困ってるし。僕が教えてあげようか。」
「経優さん…ポラリスの使徒とはいえ、教えれるのですか?私は できればサファ様にお願いしたくて。」
彼女は そう言ってサファを覗き込んだ。
サファは 苦笑いを浮かべ、さらに袖を握りしめている
「いいや。クリスちゃん。僕も、星に関してだけは サファには負けてないと思うよ。どんな質問も僕にかかれば イチコロだよ。」
なんせ物心がついた頃からずっと夜空を見つめてきたのだから…サファとは 一つしか年は変わらないけど…
「そうですか…機会があればよろしくお願いします…」
彼女はどこか残念そうに言った。
「けっ。飯が不味くなる。星読みの話なんざ、やめろよ」
スピネルは、くだらない、と 朝食のサボテンに食いつく。
「ぼ、僕は 経優さんのお話聞いてみたいな。」
マラカイトくんは もじもじと手の指をクネクネさせながらそう言ってくれた。
「もちろん!もちろん教えるよ!ありがとうね。」
「は、はい。お願いします。」
彼は顔を赤くして言った。
ああ、気を使わせちゃったかな。
そんな僕とマラカイトとのやりとりをみて、彼女は なぜか 落ち込んでいた。
「く、クリス、サファさんは 僕たちと組んでくれるんだから、きっと そのうち教えてくれると思うよ。」
「そうね、まずは認められないと。ありがとう マラカイト。」
「う、うん。つ、付き合いは これからだよ。」
マラカイトくんは クリスに笑顔でそう言って返した。
良い子だなぁ。マラカイトくんは。
凹んでいた僕は マラカイトのほんわかとした優しさに癒されて身も心もほぐれた。
そんな みんなが癒されてふわふわしている中で、一人だけツンツンと気を荒立てている少年が一人いた。
「へっ。面白くねー。なあ、ルビ。稽古つけてくれよ。」
「む。気合い十分だな。…そうだな。クリス、今日の占いはもう出たか?」
「はい、今日は 乙の牙でした。ルビたちは もう稽古にいかれるのですか?」
え?乙の牙?
「では、今日は見の日か、ちょうどいい。経優、お前には今から 武道の見学をしてもらう。」
「武道?僕が?」
武道って言えば、戦うのか?素人のぺいぺい なのに?
「ああ、食べ終えたら二階の稽古場に来い。」
武道どころか、運動そのものが 壊滅的なのに?嘘だろ。
「私はどうすればいい?」
「サファも、経優と一緒に見学するといい。かなり間が空いている、お前も一から学んでくれ。」
「わかったわ。」
サファは 嬉しそうに答えた。
「経優、少しでもサボダ(サボテン)を食べておけ。ゆっくりして、落ち着いたら サファとくればいい。」
ルビはそう言って、広間を出ていってしまった。
後を追うようにスピネルとマラカイトが退出しいった。
最後には クリスも クオツに用事を頼まれているらしく、しぶしぶ サファに一言断ってから退室した。
一気に鎮まり返った部屋で サファと二人。しかし、僕は 彼女を忘れて ただただ茫然としていた。
いつもご愛顧読ありがとうございます。
、、、すみません。自分の中で書きたいことが沢山あって、長引いてしまうのは悪いクセだと分かっているんですが、、
はい、今回は茶番、、ですね。次回から修行が始まるのでお楽しみに、ばいばい。