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コウジツセイ、日の出と向き合って

 ルビは何が言いたかったんだろう。


 柔らかく考えることができれば 世の中は違って見えるのだろうか。


 

 僕は とりあえず柔らかいものを想像してみることにしてみた。お餅とか、スライムとか?


 お餅はともかく、スライムって弱いイメージあるよな。


 某RPGゲームの青いスライムが浮かび上がる。


 いい考え、浮かばないし、他のことを考えよう。



 

 瞑想ができないのは たしか、悪魔がくる前兆だとかいってたな。


 悪魔は 言ってしまえば現代病だ。


 不眠症、鬱病、僕が悩まされていた自律神経失調症(原因不明の体調不良)とか…目に見えない病や障害。



 こんな、文明の光が届かない原始の世界でも 起こってしまうもんなんだなぁ。意外だ。


 

 この世界は科学の代わりに精霊や悪魔、神様が信じられてる。


 現代を生きる僕からしたら、便利なテクノロジーの一切ない理不尽な世界に思える…


 けど、それでも、ここの人たちは あまり不自由に感じてなさそうだった。




 ネットや娯楽がないのは、信じられないけど…


 ふと、今朝のサファが ミミズ入りサボテンサンドを美味しそうに 食べている姿を思い出した。




 …大人しく瞑想するかぁ。ルビのためにも…


 

 僕は深呼吸をしてみた、が 上手くいかなかった…


 なんでだろう。


 「…こういう時、ルビに聞ければいいのにな。」


 僕は肩を回して独り言を言った。


 肩が凝ってしまっている。おかしいな、傷もたちまち治る体なのに…肩凝りは治らない…



 うーーん。肩がほぐれない…ほぐれない?


 ルビの最後の言葉を思い出した。



 柔らかく考えてみる。


 柔らかいのは、スライムとか、お餅とか、ぷよぷよモチモチだ。それが優れているともいっていたよな。



 『もう少し、肩の力を抜けよ。肩肘張らずにやってこうぜ。』


 学校に行けなくなってきた時、優しい友達がそう言ってくれたっけ。



 「これじゃあ、瞑想どころじゃないわな。頭も体もガチガチだったみたい。」


 それからは 気が楽になり少しだけ長く瞑想が続いた。



             ♢



 ( ―む。朝か。)


 おはよう、寝れたみたいだね。


 ( ああ。それよりも経優、凄く静かになったな。ずっと瞑想していたとは。) 


 え、うん。そうだね。


 ( 心の中が一晩で良くなった。昨晩、なにかあったのか?)


 …もしかして忘れた?


 

 僕は 話をしながらも、目を瞑って瞑想をやめないようにする。


 心の中で話をするのに目を開ける必要がないからだ。



 僕は昨夜のことを思い出しつつ、ルビに軽く確認してみることにした。


 どうやら、話し合いが何とか上手く落ち着いたことしか良く覚えていないようだ。よかった、一安心。




 うん、まぁ。眠かったしね、覚えてないよね。君の妹のことを話してくれたりしたんだけど、そこは思い出せる?


 ( …ぼんやりとは覚えている。経優に弱音を聞いてもらったな…)


 

 ルビは まだ眠いのか かすかに放心状態だった。


 

 その後は、悪魔とか、強い弱いとかの話したんだけど。


 ( すまん、それは全く覚えてないな。)


 

 僕が変なテンションだったのは覚えていないようでホッとしていると、朝日が部屋を明るく包み込んだ。


 僕は光を感じて 自然とそっと目がいた。



 「わぁ、世界はこんなに明るかったんだ。」


 目の前には、青白く輝く世界があった。

 

 この世界に来て景色を綺麗だと思ったのは、二度目だが、まさか特徴もない部屋を美しいと感じるとは。


 こんなことは初めてのことだった。



 ( 瞑想をすると頭がからになるからな。)


 うん、なんだか新鮮だ。


 こんなに光がいいものだったなんて。





 僕は 嬉しくなって自分の部屋を飛び出して走った。


 走って下の大広間に出向く。


 廊下には 僕の足音が響いていた。昨日と同じで まだ人がいない時間帯だ。



 「おはよう、数時間ぶりだね。」


 「おはよう。朝早いのね。経優、もう平気なの?だいぶ酔っていたでしょ?」



 爽やかな青い世界で サファが手を後ろに組んで部屋の真ん中でたたんでいた。


 広間中の壁が白いので、彼女の群青の髪と雪のような白い肌を より良くみせている。


 

 「平気だよ。さっきはありがとう。それよりもサファは寝なくていいの?」


 たしか、彼女は長時間 眠らないといけない体質だったはずだ。そういうやまいだったはず。


 「大丈夫よ。最近は調子がいいのよ。」


 よかった、元気そう。


 ( 今のサファは とてもいい目をしている。)



 言われてサファの目を覗くと、変わらず綺麗な深い青い目をしている。


 美しい瞳に目が吸い寄せられた。サファと目が合う。


 

 「変わった人よね。私と同じような特殊な人だと思っていたのに、今のあなたには影がなくなってしまったわ。」


 「え?どういうこと?」



 我慢できずに目を逸らしていった。



 「ここの人たちと同じ、日の下を堂々と歩けるぐらい影(闇)が薄くなったってことよ。」


 「君は面白いことを言うね。もともと、僕は空からやってきたし。お日さまの下を歩けないはずないよ。」


 

 真面目に答えたら笑われてしまった。



 「ふふ、そうだったわね。あーあ、私とあなたは はぐれもの同士、お互いに 分かり合えると思ったのになぁ。」 


 彼女は手を後ろに組んだまま、背を向けてしまった。


 「そんなことないんじゃない?僕たちは ここの人(コランダム族)に担ぎ上げられた同士だし。」



 僕がそういうと 彼女はその場で固まってしまった。



 「えっ、ごめん。僕、何か気にさわること言った?」


 

 彼女の肩が小刻みに震えはじめた。


 また いつものように空気が読めなくて とんでもない事を口走ったのかな。


 「プッ、フフフ ハハハハッ。おかしい、ごめんなさい。私、おかしくって。ウフフフ。」


 不安で そわそわしていた僕をよそに彼女は お腹を抱えて笑った。



 「そうよね、私たちは頼られてるもんね。はーああ、よく笑ったわ。」


 「いや、ウケたなら儲けものだよ。サファが楽しそうでよかった。」


 彼女は笑顔で答えた。


 「今まで落ち込んでいたのがバカみたいね。私、あなたと一緒ならやってけそうだわ。一緒に頑張りましょう。」


 彼女はそう言ってまた微笑んだ。



 そんな彼女をみて 可愛らしいなと思った。




 ( ……)


 …あ、ルビ。可愛いっていうのは 異性としてではなくて、年下の女の子として……いや変だな……あれ、ルビさん?


 ( ズーー〜。グス。ああ、ああ。よかった、 よかった!)


 

 ………うん。よかったね。



 ルビさんは何年か越しに笑顔が戻った妹に号泣していた。



            ♢



 僕たちは、その後 朝食を取った。

 

 今朝とは違ってミミズは数匹しか置いてなかった。


 「どうぞ、サファさん。お食べになってください。」


 「え、いいの?貰っちゃうわよ。私は食に関しては 遠慮しないのよね。」


 彼女は、目を輝かせながら僕の方をみた。


 「食いなよ。冷めないうちに。」


 「本当にいいの?!信じられない!頂きます!」


 彼女は これまた美味しそうにミミズの入った、サボテンサンドを食べた。


 

 信じられないのは 僕のほうだ。生きたまま そのままいくなんて とうてい信じられない事だ。



 「ご馳走様でした。」


 手を合わせてそういうと彼女は不思議そうに首を傾げた


 「っ。ご馳走様って何?」


 「あ、頂きます言い忘れてた。え?ご馳走様って何って?」


 彼女は急いで水を飲み、胃に食べ物を押し込んで尋ねてきた。


 そう慌てなくても、僕はどこにも行かないよ。


 ご馳走様、か。うーん、なんて伝えればいいのだろう。


 「ご馳走様は、作ってくれた人への感謝の言葉だったかなぁ。僕の故郷では 食べ終えたらこれを言うんだ。」


 「へぇー。素敵ね。ハーラでは 寝る前に一日の振り返りをしてハーラには祈るけど、食べ終わったときにも祈った方がいいかしら。」



 ハーラに祈る、こっちだと 感謝するのは神様になるんだなぁ。


 ( ハーラは大地にあるものは全てハーラ(大地)自身のものになるからな。)



 「なんか、ハーラって凄い存在なんだね。」


 「そうよ。ハーラの大地は私たちの母であり、父でもあるのよ。」


 「へ、へぇ。雌雄同体しゆうどうたい(性別不明)なんだね…」


 楽しく雑談していると、ルビが部屋に入ってきた。


 「!サファ、経優。朝が早いな。」


 「おはよう、ルビ。」


 「―おはよう。兄さん…」


 彼は目の前に座って、水差しのツボから そのまま水を飲んだ。


 「飲むか?」


 ルビからツボを差し出されて、手に取った。


 「うん、頂きます。」


 僕は ルビの真似をして 口を付けずに空中で水を口で受け止めて飲んだ。


 「美味しい!」


 「兄さん、変な事を教えないで。経優、この湯のみを使いなさい。」


 彼女にコップをもらい、飲んだ。


 陶器とうきで できている水差しより、手渡されたコップは重かったが、やっぱりコップで飲む方がしっくりくる。


 「はぁ!水ってこんなに美味しかったっけ?」


 久しぶりの水にその後も何杯も おかわりをして、気づけば水差しの水は底をついてしまった。


 飲み終わり、二人の顔をみると そんな僕を驚いた様子でみて、二人は顔を見合わせた。


 

 なんだろう。


 もしかして、水は貴重だったとか?飲みきったらいけなかったかな。


 ( コロネルは水が飲み放題だ。そんなことはない。俺も思い当たらないが。)


 

 彼らは 心配そうにいった。

  


 「そういえば、経優。ここにきてから初めて水を飲んだのか?」

 

 「昨日から飲んでないわよね。それも一口も。」



 あ、そういえば。この世界に来る前の日から飲んでない

あれから三日間、ずっと…


 ( そうだ、水か。喉の渇きすらないな。)


 「ご飯だって昨日の朝から殆ど食べてなかったわよね。」


 「…大丈夫なのか。絶食ぜっしょくはよくない。食欲がなくても少しずつでも食べた方がいい。」


 ルビはそう言って、自分の分の朝ごはんを僕に差し出した。


 サファとルビは 揃って僕のことを心配して、気遣ってくれた。



 「ああ、うん。言ってなかったけど、今の僕は食べる必要がないみたいなんだ。たぶん、水も取らなくていいし。」


 サファは 話を聞いて大きく目を開いた。


 「死んじゃうわ。いや、私のために食べて。かわいそ過ぎるわ、そんなの!」

 


 「気持ちだけ、受け取っておくよ。」


 僕はそう言うと、ルビのミミズ入りのサボテンサンドを返した。


 「―本当に、経優は 空の化身(神の使い)なのか。」


 

 ルビは真剣な顔で言った。



 そんな事を言われても…そうなのかな。


 ( …今の経優は普通の人間ではない…それは本当のことだ。確かめることはできんが…)


 …


 「そうだね、僕は普通の人じゃないよ。この世界の人じゃない。」



 ルビは 僕の答えを聞いてより一層、顔が難しくなった



 「そんなことは、小さなことじゃない。ルビも私の事を変に思わないでしょ。」


 彼女は 僕に あげようとしていたルビの分のサボテンサンドを食べながらいった。


 「それはそうだが、俺は心配したんだ。経優の体がどこか悪いかもしれない。」


 ルビは そう言ってサファの方へ向きなおった。


 サファはもぐもぐとゆっくり咀嚼そしゃくしてルビの顔を見ていった。


 「そんなことも、あるでしょう。私の病気だって変なものよ。それに、私たち提携ていけいを結ぶことにしたの。」


 「!サファ、それは本当なのか!」


 ルビの太く少し裏返った叫び声が 朝を迎え、明るくなった広間に響きわたった。


こんばんは、いつもご愛読ありがとうございます。

 最近は暑くなってきましたね。4月なのにもうこんなに暑いのは地球温暖化なんでしょうか。

 皆さまも ご自愛ください。

 次回、お楽しみに!バイバイ

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