不完全な瞑想
瞑想って何で いきなりそうなるの?
( む。瞑想は心と体を統一する もっとも基礎の修行だからだ。)
むむむ、ルビさん。答えになってませんよ。
( そうだな、瞑想をする理由を聞いているならば…)
ルビは すこし気まずそうにしてから、こう言った。
( お前の心の中が乱れていて、俺が寝れないからだ。)
いかにも理由がシンプルなのがきた。寝れないから。
若干ちょっとした不眠症を体験していた僕からすれば、充分すぎる理由だった。
そうか、僕は眠むる必要がないけど、ルビは寝ないといけない状況にあるようですね…
( …それだけじゃないんだが、そうだ。)
思えば しばらく声をかけても応答がなかったのは寝ていたから、と考えてみれば説明がつく。
うん、うん。わかったよ。それで、二つ目を聞いてもいい?”それだけ”じゃないんでしょ?
( …むう。眠いが仕方ない。お前はよく全てを知りたがるな。……)
ルビさん、頑張って。僕は気になって仕方がないよ。
( …あ、ああ。わかった。とりあえず、体を起こしてくれ。)
あ、うん。
僕は今まで仰向けになって休んでいた。ルビも感覚を共有しているなら、そりゃ寝ちゃうよな。
勢いをつけて起き上がろとしたが、ふらついて出来なかった。
心と体は元気がみなぎっている分、おかしな感覚だ。
僕は 飛び起きるのは諦めて手を付いて壁に寄りかかるようにして体を起こした。
それで、二つ目は何?
(………ああ、二つ目か。…経優が眠る必要がなくなっても、おそらく思考するのに頭に負担がかかり過ぎている………)
ああ、そう言うことか。ずっと頭を動かして休めないから、脳みそがオーバーヒートしたといったところかな。
もしくは、バッテリーが上がったのかな。二人分の思考が同時に並列に進められてしまった。一種の容量不足なのかも。
うん、この場合は両方だな。
( …う、うう。俺にはお前の言っていることは分からない。だが、今の、不自然な状態は、心と体が、離れしまって、い、る、からだ。)
…理由を予測する前に、現状をよくした方が良さそうだね。
僕は、思考が空回りするほど早まってしまって、ルビは逆に頭が回らない状況なんだな…
どちらにせよ、このままじゃ待っているのは自滅だね。
わかった。瞑想、試してみよう。ぐるぐる(頭が)回りすぎて 気持ち悪いし。
( …あ、あ。先ずは足を組んで。交互に組み合わせる)
胡座をかけばいいんだね。
僕はそのまま足を自分の方へ持ってきて、組み合わせてみた。
「痛っ。あれー上手く組めないな。」
片方は太ももに乗せれても 両方とも乗せるのは上手くいかなかった。
( ………出来なければ、片方だけでいい。そうだ、それでいい…)
ルビ、次はどうすればいい?
( …そうだな…瞑想は深呼吸を行うところから……)
深呼吸ね。
「すーーーー、はぁーー。すーー。はぁ~。」
( 順番は…吐くのが先で…長く吐き出すんだ。)
息がしにくくなってしまう…
「はぁー、すーー。はぁーー。」
( 良くなっている…呼吸を数えて、十まで数えたらまた一からだ…)
僕は、深呼吸を繰り返していった。一つ二つ三つ…
何時間がたっただろうか。とっくに朝が、来てしまったりはしないか。
( …おそらく、経験からして 20分もたっていないぞ。)
ああ、ルビ。元気になったんだね。
( …ああ、おかげで少し落ち着けた。そうだな、経優。お前は悪魔に取り憑かれたことがあるのか。)
え?悪魔何それ、急にどうしたの?
( いや、前に悪魔に取り憑かれた奴に聞いた話だが、予兆として瞑想が出来なくなるらしい。)
―悪魔とは…ルビ。わかんないよ。
( そうか、経優は悪魔のことを知らないのか。)
ルビは珍しくびっくりしていた。
教えてよ。悪魔、気が散って瞑想できないよ。
( そうだな。悪魔についてか、悪魔は悪魔だが…)
本当にこっちでは常識らしく、ルビはしばらく考えこんだ。
( 悪魔は悪い精霊だ。いや、精霊は悪いものはないからな…どうしたものか…)
神聖な、というよりは、悪いけど 人が手の届かない存在てきなものかな。
( そうだな、言われて初めて考えたが…邪神の使い魔 [手下]だな。存在はしているが目に見えないし、こちらから語りかけたりはできないな。)
こちらから語りかけれないってことは語りかけてくるの?
( ああ、奴らは人の弱味をみつけては、邪道に拐かそうと誘惑してくるらしい。)
ちょっと、怖い話じゃないか!それで、なんて言い寄ってくるの?
( 子供の頃に聞いた話だからな。クオツか、弟子のクリスに聞けばいいが。)
もったいぶらないでよ。夜に寝れなくなったらどうするんだ!?
( ?おかしな奴だな。寝れないから瞑想して、あれ?まぁいい、何の話だったか。)
「悪魔だよ!」
ついには目を開いて、部屋の中で軽く叫んでしまった。
( びっくりする。そうだったな。悪魔だが…)
彼は昔のことを必死に思い出そうと頑張っていた。
なんか、変にどなってしまって申し訳なくなった。
( ああ、そうだ。悪魔は悪い惰性に惹かれる。そして自分を落とし入れるような言葉を口にしているものに誘惑するんだ。)
何やら、一月前の自暴自棄の自分を思いだした。ああ、そういうことか。
( 悪魔に取り憑かれた人間は、自ら命を断ちたがるようになるという。それに周りの人間から距離を置いて、自分の部屋から一歩も出ないようにさせる。)
あー、それ僕じゃないか。うん、少し前というか 三日前というか。
( そうだったのか、とてもそうは見えないな。)
今は症状はないよ。
( うむ、俺の親友も立ち直って今となっては、取り憑かれていた面影もない。珍しいことでもないか。)
それだけ?変に思わないの?
( なんのことをだ?変じゃないだろう。)
精神病は人によって捉え方が違う。
いずれにせよ、僕の知る限り 良しも悪しも、敬遠されたり、お節介な事を言われたりするのだが。
僕が今いる この異世界は 奥が深いようだ。
へぇ、生きた災害みたいな存在かぁ。遭ってしまったら どうしようもないと。
( 災害?天災のことか、そうだな。核心を突いている意見だな。)
ルビの方でも、何か腑に落ちたものがあったようだ。
( そうか、お前も悪魔を払えた人間だったんだな。強い戦士になれるかもしれんな。)
―自分の力で乗り越えたわけでは無いんだけどね…
そう、この不思議な体を手にしたのは あの鳥居をくぐったから。
今でも夢なのかと思うほど 非現実的な話だ。
( それでも、生き残っている。生きている人間は強いものだ。)
ルビから そう言ってもらえるのは嬉しいんだけど…うーん。そうなのかなぁ…
ルビは強い。それは僕にも分かるし、尊敬もしている。
人間としても、生き方も 意思の強さからも 真似できないくらいの熱量と人情があるから。
―全て自分にはない。
強い。強いねぇ。僕は 人の役に立てるような人間では無い気がするけど…人よりも劣ってるんよ、きっと。
強いやつは始めから違う。この生きにくい世の中で、当たり前のように生活を、日常を過ごせる。
始めから、生まれた瞬間に決まってしまっているのだ。
( …他の生き物は そうかもしれないな。)
ルビはそう呟いたきり、それきり口を閉ざした。
心の広いルビでも さすがに嫌気がさすよな。
ネガティブな意見すぎて変に思わなければいいが…
( お前は、赤子の頃 誰にも頼らず生きていけたか?)
ん?無理じゃないかな。何も出来ないし。
( 産声を上げ、人に頼って生きている赤子を弱いと思ったことはない。)
?赤ちゃんは自分では何もできないし、無力だから、弱いから 泣いて自分より強い保護者を頼って生きているんだよ。
何をいってるんだ?誰でも初めは弱かったという話だろうか。
ルビは頷くと続けて僕に聞いた。
( そうだな、お前は力がないことを弱いことだと思っているのだろう?)
当たり前でしょ。
( だが、自分より強い相手を動かす赤子は本当に弱いのか?)
うーん。でたらめな論理のようで、言い返せないな。
けど、納得できない。
待っても 返事が返ってこない。
彼は また黙ってしまった。
今、気が付いたことだが、彼は三日間も寝ていないのだ。だから頭が回らないだけなのかもしれない。
( 確かに他の生き物よりも未熟なときに産み落とされるのは真実だ―)
なら―
( それだけに、柔らかいし、優れている。)
どこかできいた様な、なぜか説得力のある言葉だった。
( お前だって感じているのだろう。この世の中の過酷さを。だから、こそ、だ。)
( もう少し、柔らかく考えてもいいんじゃないか。)
そう言って眠ってしまい、日が上るまで 今度は本当に眠ってしまった。
こんばんは、いつもご愛読ありがとうございます。
個人的な話なんですが、昨日 2年半ぶりに精神科に受診して来まして。ヒアリングをしてもらい心が落ち着きました。
先週、仕事を辞めたのでドタバタしてしまって話してスッキリしたのでよかったです。
人に話を聞いてもらうのって凄い力があるんだなと感じました。すみません、本当に個人的な話で。
それでは また次回、お楽しみに〜 ばいばい