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潮時と傷口、眠れる獅子が怒るとき。

 「お主は何を言っているのじゃ。わしがぬしらの事を認めると思うておるのか。」


 「違うよ、クオツの言っていることは正しい。事は そう簡単にいかないのは確かだし。」


 クオツは首を横に振っていた。


 「訳のわからぬことを。」


 「クオツが認められないのは分からないからだよね。一番の問題は 僕が信用できるか、どうなのか、のはず。」


 今度は、フロウの顔が険しくなった。


 「お前は、この後に及んで 自分からポラリスの使者ではないと言うのか。」


 ルビでさえ、不安そうにこちらをみた。


 「クオツ、あなたは認める、認めないとか。許す、許さないの話をしているんでしょ。」


 「ああ、お主ら青二才あおにさいに任しておってはコランダムの行く末は暗かろうて。」


 

 やっぱり。


 「じゃあ、僕たちが変えようとしていることには賛成の立場だよね。」


 「…ああ、出来るはずのないことじゃがな。」


 よし、この人の頭は冷めたようだ。



 ( …そうか、自分の信じている真理(現実)が譲れないから後には引けなくなっていたのか。)


 ん?そうなの?ただこの人からしたら自分から認められないから、僕たちが引くしかないと思ったんだよ。



 「じゃあ、あなたは最初から自分がやるから手を出すなって言いたかったわけなの?…」


 


 「…そうじゃ、若い奴が出しゃばりおって。」


 「…私、あなたのこと 意地汚いって言っちゃって…ごめんなさい。カッとなって酷いこといったわよね…」


 「ウィナーバクの事は分かっても、人の気持ちを理解するのは ちと若すぎる。こうやって知っていけばよい。」



 …こういう時、僕がクオツは引くに引けなかっただけだよって言ったらいけないんだよね。


 ( …ああ、俺にはお前の言いたいという衝動を抑えているのがわかるが、ここは言わない方がいい。)


 …僕ってやっぱり、人の気持ちがわからないのかね。


 ( 完璧にわかるやつなんていない。お前もサファと共に学んでいけばいい。それに、言わなかったではないか)


 ―それもそうだよね…ありがとう。



 「…クオツ、ではお前は 俺たちに何をさせたいんだ。ここからは お前の指示に従う。要件をいえ。」



 フロウは何事もなかったように話を進めた。



 「…そうじゃな、まずはふみをこちらから送るのは無しじゃ。次の荷渡にわたしで 石版を使う。」


 「…バドビル(鳥)に運ばせるのか。時間はかかるが、しかたないな。」


 ルビは悔しそうに言った。


 フロウの方を見ると眉をひそめて考えている。


 「…ふみの内容は?」


 「慣習かんしゅうには触れず、次のハーラをまつ式典しきてんを早めるよう わしが口添くちぞえしといてやる。充分じゃろ。」



 うーん。ルビ、どうなってるの?



 僕は、意味が分からなくて心の中のルビに聞いた。



 ( 3ヶ月に一度、向こうからバドビルが送られて来てたがいに物資を渡しあう。その時に文を一緒に送る。)


 しばらく、躊躇ったあとに こう続けた。


 ( 式典というのは、ハーラの民で 死者とハーラに 恵と演武を捧げる儀式だ…)



 なぜ、辛そうに言うんだろうか。ルビは絞り出すように僕に祭典のことを教えてくれた。



 「…なるほどな、だが 祭典は五年に一度。2年前、終えたばかりの筈だ。立て続けに行えるものなのか。教皇が応じるとは到底おもえないが。」



 不審に思ったのか、フロウは普段よりも強い口調で問いただした。



 「押しかけるよりは良かろう。人の常識に手を加えようとしておるのじゃ。それは ままならん(思い通りにならない)ことなのじゃよ。

 じゃが、こちらが正式な手順を踏めば、相手も応じるじゃろう。」


 「少しでもクオツの中で良い算段さんだんがついているなら、俺も言う事はない。だが、お前に従うとポラリスの使徒(経優)が示したんだ。異論はないが。」



 そうか、そうか。上手く纏まったようだ。


 ( クオツのやり方は確実ではない。だが、打てる手がないからな。クオツに従うほか無いだろう。)


 「ポラリスの使者よ。わしに認められると申したな。」


 「あ、言いましたね。僕を認めてもらうと。」



 ぐ、そりゃ 忘れてくれてくれるわけはないか…



 「何をさせるつもりだ。経優は俺たちが測れるようなやつには見えないが。」


 ルビがクオツに聞いた。


 クオツは考えて嬉しそうに笑っている。それが返っておっかない気がした。



 どんな無茶なことを言われるか、時間が過ぎるのがやけに長い。


 僕は 墓穴を掘ってしまったのかもしれない…



 ( クオツは厳しいが、コランダム族の占い師だ。無理は言わない筈だ。)



 自分の中で不安が一周したのと同時にクオツはやっと口を開いた。



 「そうさな、お主にはの"全て"コランダムを知ってもらわねばなるまい。」


 「コランダムを、知る?それだけ?」



 飛んだ骨折り損。悩み損である。



 「こいつに、コランダム全ての業務ぎょうむをこなさせるつもりか。バカな、ハーラのやり方に反している。」



 フロウは無謀むぼうだと言わんばかりに首を振った。



 何でそんなにあわててるんだろう。


 ( クオツは何を考えている。誰がそんなことを出来ると言うんだ。)


 ルビも動揺しているようだった。



 「クオツ、それは占いも、狩猟も、武術も全てをこなせと言う意味なのか。」


 そう言ったルビの目には動揺の色は無かった。


 だが、僕には 見せないだけで、心の内では戸惑っている事を知っていた。


 「ククク、そうじゃ。全てを完璧にこなせとは言わん。適性を示せ。そして、コランダムを知った後に 空の化身であると認めてやる。」


 「何よ!あんまりじゃない。私は精霊使いとみんなから遠ざけた癖に!いい加減にしなさいよ。」


 「お主は目に見えて特別じゃ。誰からみても言い逃れができんほどに奇異な見た目をしとる。」



 その時、背筋が凍るほど大気が震えた気がした。



 「クオツ、お前が占い師で偉いのは 誰のおかげだ。」



 ルビが精気のやどらない目でクオツを見ると、僕でさえ足が震えそうなくらい 腰が抜けてしまった。


 殺気?いや、もっと黒いなにか。



 「兄さん、やめて。」



 サファはかすれた細そい声でそういうと。ルビは正気を取り戻し顔色が戻った。



 「と、ともかく。わしが認められるのは コランダムを導ける資格ある者で無くてはならん。」


 クオツは、顔中に脂汗あぶらあせいていた。


 「クオツ、資格はどうやって判断する。今ここで、決めて置かなければ、話は地につかないだろう。」


 フロウはクオツにそう告げた。


 なぜ堂々としていられるんだ。



 ん?ルビ。大丈夫?


 ( 俺は、俺は。大丈夫だ。気にするな。)


 心の中でルビは 混乱していた。うっすらとだがルビは呼吸が乱れている気がする。


 

 「―それぞれの分野を担当するものに、認めてもらえ。もう話は終わりじゃ。帰れ。」


 フロウは、聞くだけ聞くと、部屋から退出していった。


 次にサファがウサギのように 逃げるように部屋から出ていく。


 「何をしておる。帰れ。」


 クオツに追い出され。僕は通路にルビと一緒に放り出された。


 

 しばらく、気まずくしていると。ルビの方から話しかけてきた。



 「経優、ありがとな。お前には感謝してもしきれない。」


 ぼんやりと壁を眺めていたが、ルビは僕にお礼を言ったのだと気づいて。ルビの方をみた。


 「あ、うん。そうだね。え、なんで君がお礼をするのさ」


 「大丈夫か、少し休んだ方がいいな。」


 ルビはいつもの調子だ。


 あれ、何でだろう。あんなに顔がやつれていたのに。


 心の中で確かめてみたが、まだ本調子でないのが伝わってくる。応答がない。


 「いや、いいよ。それより、サファの。クオツに言われたでしょ。そっちこそ大丈夫なの?」


 「?そうか。だが、サファのこと とはなんだ。」


 驚いて俯いていた顔をあげたら、恐ろしいと思うほど元の調子のままのルビがいた。



 「え、覚えがないの?あんなに…いや。もう終わったしいいか。」



 僕がそういうと、ルビは不思議そうにして僕のことを部屋まで送ろうとしてきた。


 

 「いや、一人で帰れるよ。わかりやすい部屋を当ててくれたからね。今日、コロネルを回って気遣いがよくわかったよ。」


 「経優、大丈夫か。俺で良ければ話を聞こうか?」


 「いや、大丈夫だよ。それよりありがとう。ここに寝泊まりする意義ができて嬉しいよ。僕に務まるはのかはわからないけど。」


 話をして何でルビを恐れていたか分からなくなった。


 ルビは、みんなを守るために。火を取り戻すために立ち上がった。


 クオツがサファに言ったことを忘れているようだが、ルビは何とも無かった。


 何もかも さっぱりしない気分だが、ルビがいい奴であることに変わりがない。


 今はそれさえわかっていれば それでいい。


 「じゃあ、おやすみ。僕たちのやろうとしている事は大きな事だけど、きっとやりきれるよ。」


 今にも世界が回りそうな程、頭は不気味なほど冴えて、早くなっていた。スリップしそうなくらいだ。



 「僕なんかには荷が重いけど、僕には君がいるからね。」


 僕はルビにそう言って先に帰ろうとしたら、背中から呼びとめられた。


  「お前が ひとり冷静にしていたおかげでこの話は上手くいったのだ。」


 ルビは笑顔でそう言ってくれた。


 僕が 釈然としていないのが伝わったのか、ルビは こうも続けた。


 「お前には、何かある。直感だが、お前は近い将来 多くの人を救う人間だと感じた。」

 

 「はは、そんなことないでしょ。僕には何もできない。何となくで生きてきた人間だもん。」


 ルビは本当に不思議そうに、顔を傾げていた。


 「お前は、コランダム族を、俺を奮い立たせた。それだけではない。俺の大切な妹を連れ帰してくれた恩人だ。」


 僕は目を大きく開いた。


 そんなこと 思ってくれてたんだ。


 「―ありがとう。頑張ってみるよ。じゃあ、おやすみ!」


 少し恥ずかしくなって そう言い残すと僕は自室へと走った。


 いつもご愛読ありがとうございます。

 すみません。今は解消できた問題ですが、この場を借りてお詫びさせて頂きます。

 前回、エピソードを投稿した際に、添付を重ねてしまいました。編集した後に改善しました。ご迷惑をおかけし申し訳ありませんでした。

 私は抜けている所がありまして、これからもミスをしないように頑張りますので、よろしくお願い致します。

 いつも、ご愛読くださり、嬉しい限りです。ありがとうございます。では、次回をお楽しみに。ばいばい。

 

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