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ep12 空に響けば、天も上る


 「―それはハーラを変えるということなのか?」


 ルビは大きく動揺していた。


 「ごめん、そうじゃないんだ。あくまでも、変わるのは僕たちだよ。」


 少し落ち着いてきて少し冷静になった今、もう一度伝えてみようと思った。


 「…世界、この場合は受け継がれてきた慣習かんしゅうだよね。これを変えるのは何世代か掛かっちゃうと思うんだ。」



 そうだ、これは大きなことだから変化するには時間がかかり過ぎてしまう。



 「まず僕たちハーラの民(人類)を変えて、しのぐしかないよ。」


 

 そこまで言うと頭は難しいことを考え過ぎて、はち切れそうなくらい湯気ゆげを上げていた。



 頭、真っ白。無知が白日にさらされる。

 


 うーん、どうしよう。プラン尽きた。えーい投げちゃえ


 「―ルビはどうなりたいと思ってるの?それこそがハーラの民としての意義(存在理由)だと僕は思う。」


 場が凍り、僕たちの間に神様が通った。


           沈黙…


 怖いよ。神様、ごめん。僕、無理そうです。


 「―"ハーラに異をとなえるポラリスの使徒、これをあやぶむなかれ"…これは慣習の規約のルールブックに乗っている!そうか!わかったぞ!従おう!」


 え、え?何がどうなったんだ?


 ( すごい奇跡だな。お前の、ポラリスの使者の言うことはハーラの声[教え]と違っていても従うようにという決まりがあるんだ。)


 


 「よし、そうと決まれば手紙を送ろう。今一度、ハーラの民は一つになる。」


 そういってルビは地下室の階段を駆け上がった。


 「どこへ行くの?」


 「クオツのところだ。経優、お前もこい。」



             ♢

 

 クオツの部屋は東の居住区ではなかった。

 

 コロネルは東は人が住んでて、西は職場って言ってなかったっけか。


 ( クオツは例外だな。占いをするのは西の上の部屋にある。そこで寝泊まりもしている。)


 秘密の部屋から出たときに もう、外は砂嵐はやんで日は傾きかけていた。


 「そういえば、ルビはご飯食べたの?」


 「俺か?俺は晩しか食事を取らない。」


 気になって道中ルビに聞いてみた。


 

 あんなに がっちりした体付きなのに食が細いなんて、


 どういう体してるんだ。


 ( 経優には言われたくない。)


 僕は普通だし、


 ( お前は今朝、少ししか食べてないのに腹も空いていない。今の俺は腹の具合すら共有しているからな。)



 考えてみれば確かに、今朝から殆ど食べていないのに元気に動けている。


 

 「経優、着いたぞ。ここだ。」



 「なんか、ここも他と違うみたいだ。」


 部屋の入り口が狭い。


 膝ぐらいまで、床が舞台のように迫り上がっている。


 「経優、先に入ってくれないか。」


 彼は少し気難しいそうにそう言った。


 「うん、わかった。」


 あ、そういえば。



 今まで一度も靴を脱いでいないことに気がつく。



 玄関の前みたいだからか。



 ルビから何も言われないので、他の部屋どうように靴を履いたまま入る。


 「おはようございまーす。」


 「な、何であなたがここにいるの?聞いてないのに、」



 部屋に入るとそこには意外な人がいた。



 「サファ、1日ぶりだね。君こそ何でこんなところに?」


 「―ウィナ(とんぼ)たちが私にこのことを黙ってたなんて! はぁ、少し休んでただけよ、ここは夜になるまで誰も来ない場所だから。」


 少し寝不足なのか、イライラしている気がする。


 「その格好だと寒くないの?東の自分の部屋で休めばいいのに。」



 人のことは言えないが、今朝から同じ白いふわふわした服を着ている。


 肌が白いのもあって うさぎみたいだなと思った。


 だが、他の人と違って ほとんど胴体部分しか布の面積がないのだ。


 

 「動きやすいし、暑いよりはいいでしょ。兄さんみたいなこと言わないでよ。」


 彼女は少し機嫌が悪いのかそわそわしていた。


 「私はみんなとは違うのよ。好きでこうなったんじゃないわ。何でみんなに近づかないか、あなたにだって分かるでしょ?」


 「うーん、僕の場合はさ。わからないから孤立しちゃうんだよ。けど、ごめんね。無意識のうちに君を傷つけちゃたのかな…」


 そうか、そうだよな。体は健全になっても生まれつきの特性アスペルガーは治ってないんだもんな…


 ( 経優、俺は―)



 後ろの方で何か動きがあった。



 「兄さん!なんで、」


 「二人ともすまなかった。妹の悩みすら聞けずに何が協力だ、俺はなにも変わっていなかった。」


 ルビは頭を下げた。



 ―なんで…泣いているの?


 「一族の長がそう簡単に頭を下げないでよ!だいいち、兄さんは悪くないのに、私はただ…私はそういうところを直してって!分からずや!もう知らない!」


 彼女は涙を流しながら部屋からけ出してしまった。


             ♢


 それから、入れ替わるようにしてクオツが部屋に来た。


 「ふん、どうやら一悶着ひともんちゃくあったようじゃな。まったく、おおぬしら 人の部屋で もめごとを起こすでないわ。」



 クオツは僕らが凹んでいるのを一瞥いちべつしてそう言った。



 「おばあちゃん、あんまりだよ!そこまで言わなくても―」


 僕がそこまで言いかけると、ルビは手で制した。


 「クオツ、話がある。規約のルールブックの抜け穴を見つけた。」


 クオツの嫌そうな顔が一変して、今にも倒れそうなほど顔が青ざめていった。


 「何を言うか!そのような馬鹿なことを言いおって、族長の立場を弁えろ!」


 「クオツ、俺たちは変わるべきだ。過去のことをいつまでも引きずるのはハーラの意思に反している。」



 クオツはルビの言葉を受けて、今度は顔をマグマのように真っ赤に煮えたぎらせた。



 「お主はわかっておらん!ハーラの民として守るべき規約を大きく逸脱いつだつしておる!」


 「ああ、こいつが居なければそうだろう。」


 そう言い退けたルビの目には闘志が灯っていた。


 「お主はポラリスの使徒がどうしたというのだ。血迷ったか!」



 クオツの怒りが噴火するのに もはや誰も手をつけられなかった。



 「聞いていられないな、ルビどうして言ってやらない。」


 全員が激しく言い合っている部屋が嘘のように沈みかえった。


 

 部屋の入り口には、カラフルな頭をした男がいた。

 


 「終始しゅうし聞かせてもらったが、感情的な議論ほど下らないものはないな。クオツ、わかっていないのはお前の方だ。」

 

 「フロウ!お主のような者に、神聖なまつり事のなにがわかるというのだ!ハーラの神命オーダーを離脱した者の言葉に意味はない!」


 「―フロウ、すまない。お前に言われて頭が冷めた。」



 ルビはそう言って部屋にいる全員を見回すと、僕の肩に手を置きこう言った。



 「俺たちはハーラの大地に民として、この地に生かされている。」




 長い沈黙が訪れた後で彼は理想を掲げて声を上げた。




 「―天の神は俺たちに試練を与えられた。


 天は恵と乗り越えるべき困難を与えてくれる。


 天の行いは常に止まることはない。我々天と地をひっくりがえそうとな。


 ここにいる経優こそ、天の宿してこの地に変動かくめいを起こすために。


 俺たちは生きるためにこの地に生まれ落ちた。決して自分たちの喜びへと歩む足を止めてはいけない。」




 クオツはルビの話を聞いて深く考え込んだ。


 「―お主はハーラの行く末を、神託を授かったというのか。」


 「クオツ、それは違うよ。ルビは僕の考えを聞いて答えてくれた。神託を受けたわけじゃないと思うよ。」



 クオツは大きく口を開けて、戸惑っていた。


 

 うーん、話が合わない。



 「呆れた奴だ。貴様は台無しにするために来たのか。」


 フロウは明らかに怒っている。神託の話ではないと言っただけなんだけど…


 ( 今回はフロウのいうことに一理ある。しかし、これでフロウはわかったはずだ。)


 何を?


 ( 話の全てを、だ。あとは任せておけ。よくやった)


 心の中でそう言ったルビは、どこか輝いているように思えた。


 

 「クオツ、コランダムの一流の占い師であるお前が規約の書の第六章を覚えていないとは言わせないぞ。」


 「もしや…お主らは、ハーラを否定するのではなくハーラの民(人)自体を変えてしまうつもりか!この"わし"に空からの使者(よそ者)の言葉にあやかれと言いたいのか?…」


 クオツはその場で崩れ落ちてしまった。


 「そうだ、ポラリスの使者の、空の"おぼしめし"に従うことは夜空を占いコランダムの運星を導くことに変わりはない。」


 「…ああ、確かにその通りじゃ。コランダムは空(無神)の意思に従おう。」



 こうして僕は空の化身となってしまった―


 

こんばんは、石乃岩緒止いしのいわおとです。

いつもご愛読ありがとうございます。


 少し、投稿時間が遅くなりすみません。ギリギリまで粘っていたら遅くなってしまって。先輩方はどうやってお話しの区切りを付けていらっしゃるんでしょうか。


 出来るだけ、短く分かりやすい様にしたいのですが、どうも長くなってしまってすみません。工夫を凝らして頑張っていきたいと考えていますので、これからもよろしくお願いします。では次回お楽しみに!

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