ep11語り継ぐ輪、ハーラと空の化身
♢
コロネル一階の端にあるルビの部屋は周りの部屋よりも広く感じた。
角部屋で 通路の側面に備え付けられた他の部屋と違い、一本道の突き当たりの正面に堂々と部屋を構えている
―あの場所でみた不思議な部屋と同じだね。
( 俺の部屋だ。あの奇妙な仕かけはないが。)
部屋は嵐のせいで暗かったが、外が暑いのに室内はひんやりしていて洞窟の様だった。
「経優、まずはお前の働きに感謝したい。アンドルも喜んでいたな。」
部屋に入ってから ずっとそわそわしている僕にルビはそう声をかけてくれた。
「いや、とんでもないよ。ルビたちは僕を引き受けてくれたんだも、何もしないのもここに居ずらいし。」
僕の本心だった。何も出来ない辛さは誰よりも知ってる
「そう言ってくれるのは、嬉しいがあまり気を張り詰めても体によくはない。気を緩めることも必要だ。」
彼はそういって気遣ってくれたが何のことだか分からなかった。
「本題に入ろうよ。ずっと気になっててさ。何で頑なに火を使わないの?」
「そうだったな。その前に俺たちハーラの民の慣習を話した方がいい。」
ルビは少し考えてそういうと部屋の奥へいくと両手で壁を押し始めた。
ガ、ゴゴゴ
力いっぱい押すと壁一面が回転し始めて奥に部屋が現れた。
「わぁ、凄いギミックだな。というよりも これが人力で開くのは凄すぎる。」
「?何をいっているんだ。こっちだ、足元に気をつけろ」
ルビが重機なみのパワーを出していることに驚き隠せなかったのだが―
どうやらこの世界の住民には、こちらの常識は通じないらしい…
奥の部屋に行くと地下へと続く階段があった。
おおー。ダンジョンっぽい!
( ダンジョンとは何かはしらないが、経優が興味をもつのは間違いないだろう。)
心同じくして ルビも胸を張って同調しあった。
暗くどこまでも続きそうな階段を下ると想像していたよりも早く地面に足がついた。
深さは実家の地下とそう変わらないように思えるけど、
目が慣れほのかに浮かんできたルビの地下室は天井が凄く高い。
目を凝らすと壁の色が茶色でザラザラとしているのが分かった。
「こっちだ。すまんな、火を使えればいいんだが。」
「うん、大丈夫。目が慣れてきて不思議とみえるよ。」
夜目が利くというほどではないものの間近なものは何とかみえる。
本当に目がよくなったなぁ―
ルビが壁の方を指差していった。
「ここ一面にハーラの壁画がある。歴史が南の壁から北に歴史が流れるように彫られているんだ。」
南どっちだ?
( あれだ、そこが初まりだな。)
ああこっちね 右とか左って言ってくれればいいのに…
( …なんだ"みぎ"?)
ああ、無いのか。
僕はまずは最初の右の壁を見た。
暗くてはっきりとは見えないが柱の様なものが三本正三角形を作るように立っている。
「この柱は何?」
「ん?このロックバアのような絵のことだな。これは初代ハーラの民がハーラに来た時にみた景色らしい。」
なんだそれ、意味わからん。
( 原初のハーラの大地の姿だ。)
「うーん。詰まるところこの砂漠の初期の環境が描かれてるってこと?」
「ああ、俺たちの先祖はここでない"どこか"から来たという話だ。」
彼はそういうとどこか昔を尊んでいるかのように壁の隅の方を見上げてそう言った。
「俺が子供のころ、ハーラの大地の外では人は生きていけないと教えられた。」
気になってよく見てみると、三角形のてっぺんの方に人の様な絵が沢山描かれている。
所々にクルクル渦巻いてるのは嵐なのかな、よく見ると雲の様なものも描かれている様な―
「経優、この絵を見てくれ。東(真ん中)の絵だ。」
「わぁ、びっくりした!なになに、」
ルビが真ん中の絵の前で手招きしているのでいくことにした。
「この絵からは今のハーラの大地と変わらないだろう。ここの中心にある これが空を司る神の権化(世に降りる姿)だ」
「へぇー」
ルビはなんだか嬉しそうにして言った。
彼の指差す中心の絵を見ると絶句した―
「これって、竜なんじゃ…」
「おお、竜を知っていたのか。」
知ってるも何も僕の世界でもポプュラーだしなぁ。
この絵だけ、熱量が違った。
その見た目は蛇のようだが、魚に付いている様なハートの鱗、ワニを思わせる鋭い鋭利な牙がならび、鷹のような三本の爪をもつ生き物は そうそういない。
「あれ、でも。僕の知ってるのとは少し違うこれは何?」
頭の上に球体が乗っかってみえる
「それは―しらん。」
「ならいいや、最後の絵をみよう。」
僕はなんだか楽しくなって来たので次を観たくなっていた。
最後の絵は後光がさして、湯気のようなクネクネした線が描かれている。
今度は白黒反転して見える人の絵も描かれていて、それぞれ三つの場所で別々に暮らしている。
「なんだか、ミステリックで面白いかったよ。」
「ああ、俺もこの壁画をみると心が踊るんだ。さあ、慣習についての話しだが。」
あ、そうだった。壁画をみてたら本題を忘れていた。
「そうだった。それで火とはどう繋がってくるんだ?」
「この絵は代々語り継がれ、コランダム一族はもちろん、他の二つの別れた一族にも伝えられているんだ。」
「我々がハーラの加護の元にあることを忘れないように」
ルビは僕にハーラの慣習について語ってくれた。
ハーラは土地神のような存在で、ハーラの民というのは僕らのいう"人類"のようなものだという。
なぜ彼らがハーラを崇めるのか、それは自分たちが生きることができる場所を与えてくれたからだという。
死の世界が広がっているなかで、生活していけるのはハーラの加護があるから。
当初、慣れない価値観に どうも胡散くさいなと感じてしまった。
だが、聞いている内に現代人も、特に日本の島国だからなんとなく似たようなものなのかもしれないとも思った。
そして、彼らは空も崇めているらしい。
なんでも、コロネルを与えたのは空の権化である竜のおかげだという。
人の手で作ったのに与えたというのも、変な話だ。
「…確かに人の手で彫られて出来たがコロネルを与えたのは竜だ。」
僕がそのことを指摘したらルビからしたら違うらしい。どうしても譲れないようだった。
それから僕は黙って聞こうと思い続きを聞いた。
空からきた竜は弱り果て困っていた初代の民たちに空から使者を連れてきてくれたのだという。
「お前も空から来たんだろう?彼らは我らが困難な問題を助け、豊かにしてくれた。」
うーん。そういうことだったかぁ。試練の話と繋がってくるのかな…
空の使者は知識と血を分け与えてハーラの民を存命させたという。
復興するのに正しい方向へ導いてくれたから、空の目印である北極星ってことか。
でも、知識はわかるが、血ってなんのことだ?
心の中でルビ教えてくれたが、変な事を言いだした、
血の異なる彼らがハーラの民と混じり、血を薄めたなどと訳のわからないことを言い始めたので止めておいた。
「俺たちは、ポラリスの使者に指南してもらい。三つの部族がそれぞれの役目を追うことになったんだ。」
「へぇ、分業って奴だね。頭のいい人たちだ。」
「そうやってコランダムは水を。マグネは資源を。ヘルゼナは技術と神託をそれぞれ担うようになった。」
ああ!この最後の壁画までの話だったのか。
「ふーん…ごめん。何について話してたんだっけ。」
確か、最初は火に纏わった話をしてたような。
「すまん、ポラリスの話は余分だったな。俺たちはハーラの声を聞いて生きている切って離せないほどに。」
彼は真剣に言うと急に悲しそうに眉をひそめた。
「火を使かうなっていうのはもしかして―」
ここにきて事の重大さを肌で感じた気がする。
「ああ…ハーラは― 火を軽んじて使うことを禁じた。」
絞り出すように彼はいった。
ハーラの文化は現代文化との違いを感じる。
慣習は絶対。命あるものはハーラの意思に従うもの。
そんな考えは現代を生きる高校生とは掛け離れている。
僕は呆気にとられた。
校則や法律の方がまだ人が理解できる。こんなのは明らかに神様の冒涜だ。
「僕はハーラがどれだけ偉いかは知らない。けど、こんなのはおかしいよ。」
( …)
「…」
ルビはしばらく傷つき、熱を失った灰のように黙ったまま、何も言わなかった。
ただ、しばらくして彼の目から燃え切ってしまった心が微かに動くのを感じとれた。
「お前は何をしてくれるんだ。」
僕はその問いに足が揺らいでしまった。
お前に何ができるって言うんだ。
何も出来ない、力のないお前に。
そんな心の声を殺して口から出た言葉は空を飛ぶような話だった。
「変わろう僕たちで、どんなに世界が歪んでいようと。」
いつもご愛読ありがとうございます。
すみません、妄想がくどくなってしまうのはわかっているんのですが、どうしても書きたくて小難しい説明を外せませんでした。
いつも読んでくださり本当にありがとうございます。これからも、精進いたしますのでよろしくお願いします。次回は明日投稿できると思います。
バイバイ。




