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ep1 壊れていた普遍

 日差しが差し込んでくる。


  昼夜逆転の引きこもりにとって外界の刺激はどれも身を焦がす滅びの効果を持つ。


 外とウチをわけるのは澄んだ晴天と淀んだ空気。


 それを分ける天窓は、普段とは違って日の光をそのまま受け入れ、室内を煌々と照らしていた。



 そんな中で僕は日を嫌う吸血鬼のようにタオルケットを頭から堅く被り、耳を押さえながらうなだれていた。


 耳鳴りの他にも耳障りな音が耳をつん裂く不快音が鳴り響いているからだ。


「ぃうぅぁ」


 腕を伸ばして耳を抑えようにも力が出ないし、気力も空っきしだった。


 朝から電話を掛けるなんて非人道的な。


 僕にとっての朝は黄金よりも、他のどの時間よりも貴重な時間だ。


 そんな重要で大切な心の支柱を奪われたような気分で現状に向き合えそうになかった。


 それでも自分の中に残っていた微小な思いやりの心が僕を動かした。


 これは体が動かない時の自己流の対処法だが――


 本当に体が言う事を聞かないときは左手の人差し指から動かすようにすると上手くいきやすい。


 やや左手が握れるようになると、こちらのものだ。


左肩を上げて、その反動で右の腰を捻れるから、そのまま足をベットの下に落とせる。


すると膝を立てた体勢になるので、自然と仰向けで踏ん張りが利きやすくなる。


 左手を自分の体で引き込んでしまうのと膝が痛くなるのを除けばスムーズでスマートな起き方と言えるだろう。


 普段より膝が痛かった、急いだせいだろうか、

それより今はこの騒音を何とかせねば。


 もう、1、2分は立っているのに鳴り止まない。


 二階建ての角部屋なので、階段までは少し歩く。


 壁伝いに寄りかかりながら、引きずるように体を前に進めて階段まで辿り着くと、

 今度は手すりを抱えながらドスドス一段ずつ下がっていく。


 ジリリリリ、ジリリリリン。レトロな電話が地獄のベルをひとしきり打ち続けている。


 降りてから電話口までがまだ遠い、玄関付近にある固定電話までは30秒は掛かりそう。


ジリリリ。ジリリン−−−


 階段まで降りてあと数歩のところで地獄のベルが止んでしまった。


「はぁー」


 せっかくここまで降りて来たのにまた、戻らないといけないのか、


 憎たらしい老電話にひとしきり悪態を吐いた後、

 気が抜けて重くなった足を機械人形のようにして、せかせかと動かして部屋にもどる。


 「ん、なんだこりゃ…」


 異様な光景だった。

 普段から綺麗と言えない部屋が、黒い破片のようなものが床一面に散乱してる―忍者がマキビシをばら撒いたかのように思えるほどだ。


 手にとって確かめると、黒いプラスチック片だった。

 キラキラと光ってるのはガラスだ。


 その奥には原形を大きく歪めたガラクタが落ちていた、


 余りの壊れように一瞬分からなかったが、いつも愛用している目覚まし時計である事に気づいた。


「あーあ、」


 気に入っていたのに、、


 この時計は近所のバザーで手に入れた掘り出しもので、骨董品というほどのしなではないが。


 むしろ、手作り感があって無骨な味気ないベル付きの目覚まし時計で、


 頭から黒のペンキを被った様に、数字と針のあるガラス面以外の部分は真っ黒になっていた。


 遠目で見たら夢の国のネズミそっくり、二つの黒塗りのベルに丸顔―黒い丸が三つあればどんなものでもそう見えてしまうが―夢の象徴。憎めないキャラクター。


 小学校の頃から使っていたから、愛着が湧いていたのに。ショックだ。


 そうして過去の干渉に浸っていたら、また、下の電話が鳴り出した。


 うーん 


 少しの間、フリーズする。


 色々な事が起きて寝不足の頭が少し痛み始めた。


 あーもういいや、


 ふと目を落とすと、毛布の中にスマホがあることに気づいた。


 電話の着信履歴がある。


 "―龍ヶ峰高等学校―"


 やばい、今日だったか、




 降りるのは諦めた。行っても受話器を取れないだろうから。


 用件はわかっているんだし、、、


 今日は学校に行かなければいけない日だ。その為に目覚ましをセットして、カーテン

を閉めずにおいたのだ。


 何でも今後の進級に関する重要な話があるとか、、


 僕がきちんと来るように念を押しておきたいのだろう。


 下のベルが鳴り止み、手元のケータイがバイブし始める。


 マナーモードで、目覚ましも着信も音がしなかったわけだ。


 しばらく、携帯のスワイプをじっと見つめていたが、嫌々スライドした。


「―もしもし」


「っあっ、もしもし、無神君?副担任の北乃です。


 電話に出ないものだから留守にしてるかと思ってたのだけれど、


 出てくれてよかったわ、心配しましたよ」


「すみません、今しがた起きたところなんです」


 やっぱりこの人が進級の話をするのか、、


「家に居たのなら なんで電話に出れなかったのかな、」

 

 どうやら、ちゃんと理由を説明しなければ話が進まないみたいだ、


「 えーっと、以前お話しした話で、朝起きた時に体が動かないとお伝えした事は覚えておいででしょうか。」


「今は昼なんですけど、それはいいでしょう」


 言われて思わず空を仰ぐ。


 天窓に日が差している。今は正午か、


「―はい、それでー


 何の話だったか、」

 

「何故あなたが電話に出なかったか、です。」


 あー、また独り言が出てしまった。


 まともに頭が回らないんだ、勘弁してもらいたい。


「そうでした。電話に出ようと思って―

―うちの電話は玄関にあるので出るのに間に合わなかったんです。」


本当のことだ。


「―そうでしたか、

―わかっているとは思いますが、今日の15時に相談室に来てください。

 早めに来てくれるとありがたいです。」


 午後2時45分ぐらいだろうか、


「わかりました、間に合うよう向かいます」


「今日のお話しする事は進級の話ですから、必ず来てください。」


 念を押すように言われて思わず切ってしまいそうになった手を何とか、押さえつけた。


「それとは別にカウンセリングも行いますから、


そのつもりで。くれぐれも前の様にならない様に。わかっているとは思いますが、


 あなたは今、現況と向き合わなければならないところまできています。」


 そう言い残して切られてしまった。よかったこっちが、先に切らないで。


 出るのも切るのも苦労するな、、、





 現在、時計のハリは12時を回っている。


 学校は昼休みの時間だ。


 太陽の陽射しは強いものの、暑苦しいことはない。


 夏休み前なので、夏バテ対策を呼びかけているが、

ここ永白町ながしろちょうは暑さとは縁がない。


 この町は風通しのよい地形の恩恵もあって真夏でも最高気温が26度を越えない。知る人ぞ知る避暑地だ。


 僕の家は街はずれにあるが さらに涼しく、夏に不便な思いはしなかった。


 そんな我が家でも いいことずくめ ということもなく、冬は血も凍る極寒だが―


 夏にはそんな事も忘れてしまう。


 学校から家までは元気な時は30分かからなかったが、今はそうはいかないだろう。45分はみたほうがいいだろう。


 とりあえず、部屋を片付けてからだな。


 テストの前に机へ向かわずに部屋を片付けて、嫌なことを無意識に避ける様に 僕は登校することを避けていた。


 怪我をしたくないというのもある。


 掃除機で吸えるモノは吸って、大きな不燃ごみを塵取りで回収した。


 物はいつか壊れるものだから、特に気にかけずにゴミにだす。


 一仕事終えて椅子に腰掛けると、テーブルの上には置き手紙があった。


 "おはよう。経優きょうゆうの好物の唐揚げおにぎりだ。学校行く前に食ってけよ 兄思いな弟 さとしより"


 諭のやつ、本当にいい弟だ。僕たちは双子で年も変わらないのに。こんな僕でいつも悪いな、、


 ありがたいし、かけがえの無いもののはずなのに、目を背けてしまう。情け無い話だ。


 僕はおにぎりに手をつけなかった。


 そんな気になれないのもあったが、やる事が済んでからだ。


 立ち上がりキッチンに向かった。

 お目当ては水道水。 水を飲まないと冗談抜きで死ぬからだ。


 コップを取って蛇口を捻った。水を溜め直ぐに飲んだ。


 「苦ッ まっず」


 それは香ばしいコーヒーの苦さじゃなかった。血生臭い鉄錆びの味。


 これ毎回やってしまうんだよなぁ


 この家は海岸沿いの崖上に立っている。

 まさにリアル "崖の上のポ◯ョ" といったところだろう。


 そのため ここの水道官は年中潮風に晒されているからよくサビつくのだ。


 なので最初の一口は外して飲むのがこの家のしきたりだ。


 コップの水を半分飲んで捨てた。水を注ぎ直せばいいものの、そこまでしようとも思えない。


 近くの時計を見たら12時半を過ぎていた。時間が経つのは早いな といってもまだ余裕がある。


 14時ぐらいに家を出ればいい、そうすれば15時、集合時間15分前だから、、14時45分に着くだろう。


 僕は筆記用具が入った筆箱と、B4の大学ノートを鞄に詰め込んで、さっさと寝床へと戻った。


 とにかく寝れるだけ寝る。それしか考えられなかった。


 こんにちは、石乃岩緒止いしのいわおとです。

 エピソード2もご愛読くださりありがとうございます。

 最近は寒暖差が激しいので風邪には気をつけないとですね。かく言う私は風邪を引いてしまいまして、、無神のようにとにかく寝てました。

 人間元気が一番だとつくづく思います。ご自愛ください。

よろしければ、ブックマークと高評価、コメントをお待ちしてます。バイバイ

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